グローカル外交ネット

令和2年8月24日

熊本市都市建設局土木部
公園課 全国都市緑化フェア推進室

(写真1)再整備予定地の実地確認の様子

 仏国エクサンプロヴァンス市(以下、「エクス市」という。)は、パリから南へ約750キロメートル、地中海に面したマルセイユから北へ約30キロメートルに位置する人口15万人程の都市です。近代絵画の父として知られるポール・セザンヌの故郷でもあり、ラテン語のアクア(水)から転訛したエクスの名が示すとおり、街中の至る所に大小の噴水が湧き出しているなど豊富な湧水に恵まれており、飲用水のすべてを地下水で賄う熊本市とは、似ている部分も多い街です。
 熊本市とエクス市とは、1980年代から民間団体による交流がはじまりました。特に1992年、熊本市在住の能楽師である狩野琇鵬(故人)氏により、日本国外では唯一となる総檜の能舞台が寄贈され、その後、多くの文化交流等を経て、2013年に「交流都市」協定を締結しました。現在、文化・芸術交流の他、観光、経済、教育、都市行政など様々な分野での交流を深めているところです。
 そのエクス市の北西部に位置する、市管理の「サンミトル公園」は、日頃より、市民の憩いの場として親しまれています。先述の能舞台を核として、公園を訪れる市民が、より日常的に和を感じ、日本文化を体感できる空間となることを目的として、日本庭園を再整備する構想が生まれました。この度、エクス市から日本庭園整備に関する技術支援が本市へ要請されたため、国土交通省の海外日本庭園再生プロジェクトの一環として、(一般社団法人)熊本市造園建設業協会(以下、「協会」という。)の協力の下、再整備のお手伝いをさせていただくこととなりました。
 再整備にあたっては、フランスの他都市に作庭されている日本庭園の事例を調査するだけでなく、エクス市の職員が2019年4月に来熊し、阿蘇山をはじめ本市の観光名所である水前寺成趣園等数々の日本庭園の視察、さらには茶道・盆石等の日本伝統文化にも触れることで得られたインスピレーションを反映させながら設計をしました。具体的には、公園から遠望できるエクサンプロヴァンス市のシンボルであり、セザンヌの絵画の題材としてもたびたび登場する「サント・ヴィクトワール山(Mont Sainte-Victoire)」等の景観を借景としながら、阿蘇から熊本市内を流れ、有明海へと注ぐ白川をイメージした熊本の風景を庭内に組み込むなど、工夫を凝らした設計となっています。
 その後、2019年5月には、本市職員が協会の造園技術者4名とともに、エクス市へ渡航し、日本庭園作庭予定地において、既存の能舞台と新設を検討している茶室との位置関係や湧水池など、現地踏査による実地確認を行いました(写真1)。その際、茶室の設置場所や、水の流れ等、協会側から日本庭園の決まり事や、それに付随した技術的なアドバイスを行いました。

(写真2)協会員による、現地技術者への剪定等技術指導の様子

 また、エクス市は、日本と異なり、極端に雨量が少なく、乾燥している地中海性気候に属すため、日本において庭園に多用される植物が生育し難く、場合によっては枯死してしまう可能性もあります。そのため、今後、長きにわたり、現地の技術者において適切な維持管理体制を構築できるよう、再整備にあたっては、現地で調達可能な資材(樹木・石材等)を活用しながら、日本庭園の雰囲気を醸し出せるような工夫が施されています。今回の渡航の際には、同市近郊の竹林園を視察し、実際に活用予定の竹木や樹木の確認も行われました。さらに、その竹林園には、圃場が併設されており、現地技術者の希望により、協会の造園技術者による剪定の指導等も実施しました。現地の造園技術者は、剪定の方法のみならず、日本から持参した剪定ハサミ等の道具にも大変興味があるようで、熱心に耳を傾けていました(写真2)。

(写真3)現地資材のみを活用して完成した池周り

 これらの技術指導を得て、2020年2月には、整備第一弾として、池周辺の工事(池・生垣、植栽)に着工し、途中、新型コロナウイルスの影響により、工事が中断することもありましたが、2020年6月に竣工しました(写真3)。

 今後、庭園整備については、第二弾、第三弾と段階を追って施工される予定です。完成後には、公園を訪れる市民が日常的に日本文化に触れ、慣れ親しむことができるだけでなく、能舞台等も活用し、茶道・華道・書道等の日本文化体験等を通じた、日本や熊本への理解を深めるための積極的な活用が予定されています。そのためには、庭園の継続的な維持・管理が必要となってくるため、現地技術者にも分かりやすい維持管理マニュアルの制定等を行うと共に、日本の造園技術者からの技術的助言を継続的に行っていく予定です。
 なお、熊本市では、令和4年(2022年)春に、全国都市緑化フェアの開催が決まっており、今回紹介したエクス市と、同じく日本庭園再生プロジェクトを実施する米国サンアントニオ市の両市に、当該フェアの実行委員会委員として参画いただいています。全国都市緑化フェア開催時には、当該プロジェクトの発信とともに、仏国(エクス市)や米国(サンアントニオ市)の文化・食等の魅力についても併せて発信することで、両市・両国の一層の交流拡大につなげていきたいと考えています。
 最後に、昨年5月の渡航中は、レセプションの実施等、エクス市の方々の温かいおもてなしを受けるとともに、プロヴァンス地方でも有数規模を持つ「植木市」が開催されているアルベルタス公園や、街なかのマルシェを視察させていただくことができました。公園や歩道空間の使い方、花・緑の飾り方や演出方法については、日本と異なり、その一つ一つが、洗練されたおしゃれな空間となっているなど、現在準備を行っている全国都市緑化くまもとフェアにも活かせるような多くのアイデアがあり、大変有意義な時間を過ごさせていただくことができました。

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