グローカル外交ネット
オンラインで花咲かせるホストタウン交流
(山形県村山市とブルガリア)
山形県村山市 東京オリンピック・パラリンピック交流課
村山市の市の花は「バラ」、観光の目玉としている東沢バラ公園は環境省「かおり風景100選」認定を受けており、同じくバラの国と呼ばれているブルガリア共和国をホストタウン相手国として交流を行っています。市立楯岡中学校新体操部が全国大会出場レベルであることから、ブルガリアの国技「新体操」の事前キャンプを誘致し、2017年から毎年1回「ROSE CAMP」と称して、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の事前キャンプを2019年まで3回実施しました。
今年7月に実施することが決まっていた4回目の直前キャンプの準備をしていた矢先に、オリンピック・パラリンピック競技大会の延期決定を受け、予定していた今年度のホストタウン事業を延期または中止としましたが、それらに替わるものものとして、延期となったこの1年間の期間を利用し、できる限りの交流を続けようと、工夫を凝らした事業を展開しています。
1回目のキャンプに携わった市民ボランティアを中心に、「ブルガリア新体操ナショナルチーム」を応援しようと発足したファンクラブのメンバーが、新型コロナウイルス感染対策によりブルガリア代表選手たちが自宅待機となり思うようにトレーニングができない状況を心配し、市担当者と応援ビデオレター制作を企画しました。ファンクラブのメンバーは60~70歳代の女性市民が中心。オリンピック東京会場で応援するために持って行こうと準備していた、市民の応援メッセージが書き込まれた手作りの大型ブルガリア国旗の周りで、三三七拍子エール、ブルガリア国歌斉唱、最後は「愛してるよ」と選手たちに気持ちを伝えました。3月下旬に撮影し、完成させた動画は4月上旬にチームに贈り、YouTube「ROSE CAMP.ch」でも公開しています。
選手との交流以外でも、ホストタウンとしてできることはないか?
コロナ禍の中で外出できない時間が増えている市民のために、市が任用したスポーツ国際交流員アントアネタ・ヴィターレが、自宅でも運動不足の解消につなげられるようにと、「健康づくりストレッチ」動画配信を企画してくれました。
彼女は、ブルガリア新体操ナショナルチームの元メンバーで、引退後はコーチの経験もあり、2019年8月に村山市に赴任してからは、「むらやま新体操教室」の生徒や中学校新体操部の指導だけでなく、新体操の魅力発信に大きく貢献しています。
「健康づくりストレッチ」は、イス使って体に負担をかけずに全身の筋肉を無理なく動かす初級編や、反対に負荷をかけて筋力トレーニングにもなる中級編、そして、新体操の振り付けの要素を入れた有酸素運動のリズミカルな上級編など、いずれもバランスよく全身の筋肉を使い、小さい子供から高齢者まで全世代が楽しく体を動かすことができるように考案されました。
アントアネタ本人が実際の動きをやっている様子をYouTubeで公開したほかに、高齢者でも利用しやすいように、動画のDVDを無料配布しました。
スポーツをツールとした事業から波及して、この動画配信の手法が「ブルガリア料理教室」というアイデアにつながりました。
彼女自身、来日したことをきっかけに日本料理が好きになり、日本人にもブルガリア料理を好きになってもらいたいという想いが以前からあったそうです。手軽に挑戦してもらうための工夫として、日本の一般的なスーパーマーケットで手に入る食材で、ブルガリアの味を再現できるメニューをいくつか提案してくれました。5月から7月上旬まで5回にわたって5品のブルガリア料理の作り方動画を撮影、配信したところ、自粛生活のため外食もままならない市民たちから、ハーブや独特のスパイスを効かせた目新しい異国風の味に、「ちょっとした気分転換になった」「家族との食卓が盛り上がった」などの嬉しい声が届きました。
この料理教室の5つのメニュー全てに、必ずヨーグルトが材料として入ります。日本でも「ブルガリアヨーグルト」として知られているように、ブルガリアでは古来いろいろな調理法をもってヨーグルトが多量に消費されているのだそうです。肉や野菜の煮込みなどのしっかりしたメニューの中にも、ヨーグルトを入れて加熱するなど、日本人が思いもつかないレシピで使われたりしています。
村山市は2016年12月にブルガリアを相手国にホストタウン登録がされた際に、ブルガリアと非常に関係が深い「ヨーグルト」の日本トップ企業である「株式会社明治」からの協力を取り付けることができました。
株式会社明治と村山市は、「東京オリンピック・パラリンピックホストタウン事業に関する協定書」を締結し、その協力関係は、ブルガリア新体操ナショナルチームの事前キャンプ受入の支援だけではなく、市民の食育・健康増進、企業と行政との文化的・経済的な情報共有、相互連携へと広がっています。
ホストタウン関連では、事前キャンプでのアスリートの摂取栄養に適した食事や栄養素付き英語表示メニューの提供。市民向けには、健康食品メーカーならではの、市内小中学校での食育・栄養指導や高齢者に対する食習慣改善セミナーの提供。経済面では、企業の商品開発販売ノウハウによる、市の特産物開発へのアドバイス提供等、多岐の分野に渡ります。
村山市のホストタウン事業は、東京2020大会を競技開催地のみの盛り上がりで終わらせることなく、遠く離れた地方の小さな自治体でもスポーツ、国際交流、観光、文化、経済において東京2020大会を契機とした恩恵を受けるため、また、レガシーを次の世代へ残していくための方策を、引き続き講じていきます。