グローカル外交ネット

令和2年7月27日

1 はじめに

 「ガストロノミーツーリズム」という言葉をご存じでしょうか。ガストロノミーは「美食学」「美食道」とも訳され、食と文化の関わりを考察すること。即ちガストロノミーツーリズムとは「その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的としたツーリズム」で、欧米を中心に世界各国で取り組まれています。
 これに、日本が世界に誇る文化である「温泉」要素を加えたものが「ONSEN・ガストロノミーツーリズム」です。日本の魅力ある温泉地を拠点に、地元の食を堪能し、自然の中を巡り、温泉につかって体を癒す。地域が持つ魅力を余すところなく体験できる独自の旅のスタイルであり、インバウンド誘致にもつながるとして注目を集めています。
 今回は、このONSEN・ガストロノミーツーリズムについての岐阜県の取り組みをご紹介します

2 岐阜県とフランス・アルザス地方

 岐阜県は、フランス・アルザス地方と積極的な交流を行っており、2014年には岐阜県とオ=ラン県の間で経済・観光に関する協力覚書が、高山市とコルマール市との間で経済・観光協力協定書が調印されています。ONSEN・ガストロノミーツーリズムをテーマにしたイベント「ONSEN・ガストロノミーウォーキング」は、アルザス地方で取り組まれているガストロノミーウォーキング「Marche Gourmande」を手本としており、こうした縁から岐阜県ではONSEN・ガストロノミーツーリズムの取り組みを推進しています。

3 中津川市・蛭川(ひるかわ)でのウォーキングイベント

(写真1)ヒトツバタゴ(なんじゃもんじゃ)(中津川・蛭川) ヒトツバタゴ(なんじゃもんじゃ)(中津川・蛭川)

 ONSEN・ガストロノミーウォーキングとは、各所に配置されているガストロノミーポイント(土地の特産品や名物がふるまわれる補給ポイント)に立ち寄りながら、自然を体感できるコースを巡るウォーキングイベントです。
 (一社)ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構(以下、『推進機構』)の協力のもと、2016年に大分県別府市で初めて開催されて以降、全国各地で65か所、のべ15,000人が参加しており、2019年は、26回開催、のべ6,500人が参加しています。岐阜県内では、2019年に2地域で開催されました。

 5月、岐阜県中津川市蛭川地区にて、「ひるかわ ひとつばたご祭り」に合わせウォーキングイベントが行われ、県内外から330人が参加しました。
 5月とは思えない陽気の中、市長によるクラッカーの合図で開始されたウォーキング。各ガストロノミーポイントでは、地元野菜を使った「中津川トマトと山菜のゼリー」や、名物の「五平餅」、「清流の国」ならではの鮎の塩焼きなどが提供されました。その土地で採れた食材を、その土地の自然の中でいただくという体験に、参加者は大満足だったとのこと。
 ウォーキングコースには、国指定の天然記念物である「長瀞のヒトツバタゴ」がみられるスポットもあり、満開のヒトツバタゴ(なんじゃもんじゃの木)が参加者を迎えました。
 ウォーキング後は、温泉へ。疲れをいやしつつ、旅の思い出話に花が咲いたことでしょう。

4 奥飛騨・平湯温泉でのウォーキングイベント

(写真2)平湯大滝(平湯温泉) 平湯大滝(平湯温泉)

 同年6月、岐阜県高山市奥飛騨温泉郷の平湯温泉を舞台に、同温泉では2回目となるウォーキングイベントが行われ、県内外から300名が参加しました。スタート地点となったあかんだな駐車場での歓迎セレモニーでは、地元の方々による獅子舞などが披露されました。
 平湯温泉各地に設置された7か所のガストロノミーポイントでは、地元で採れた山菜料理や、飛騨のソウルフード「漬物ステーキ」をサンドイッチにした「つけすてサンド」、地酒の飲み比べなどがふるまわれました。参加者は、平湯自然探勝路や平湯大滝といった自然に囲まれながら、数々の料理を堪能しました。
 ウォーキング後は、配布された入浴券を利用し、温泉へ。平湯には、それぞれに特徴のあるいくつもの温泉宿があり、思わずもう1泊してしまった参加者も多かったとか。

 参加後のアンケートでは、蛭川、平湯いずれのイベントも、満足度は95パーセント以上に上りました。参加者からは、「地元の魅力を全身で感じられた」、「バラエティに富んだコース設定で、歩きやすく飽きない」「また参加したい」といったコメントが寄せられました。
 現地の持つ魅力ももちろんですが、イベント成功の裏には、地元の方々の積極的な協力が得られたことも大きかったといえます。歓迎セレモニーをはじめ、ガストロノミーポイントやコース途上のスタッフ業務、声掛けなどに地元の学生や企業の方々が参加しており、どちらのイベントも、地域全体でイベントの成功と観光客誘致へ取り組む姿勢が感じられました。
 さらに、推進機構による「ONSEN・ガストロノミーウォーキング表彰」では、平湯温泉は優秀賞、中津蛭川は審査委員特別賞を受賞。参加者からの高評価に加え、平湯のイベントでは、専用予約サイトの構築や宿泊施設への誘導の仕掛け、食事メニューを通常時でも提供できるものにするなど、一過性のイベントで終わらせない取り組みが評価されました。

5 普及に向けた取り組み

(写真3)五平餅(中津川・蛭川) 五平餅(中津川・蛭川)

 岐阜県では、ONSEN・ガストロノミーウォーキングの普及を図るべく、県内市町村職員や観光関係者向けの研修会を開催しています。2019年9月に行われた研修会では、推進機構による概要説明のほか、蛭川、平湯の各ウォーキングイベントについて、それぞれの関係者が総括や改善点等を講演。県内での広がりを後押ししています。
 また、市町村や民間団体がウォーキングイベントを開催するにあたっての各種経費を補助する「岐阜県ONSEN・ガストロノミーウォーキング推進事業費補助金」を実施。上記2イベントにも活用されています。

6 海外に向けた展望

 地域独自の食を、その地域の中で味わうことで、単に味覚を刺激するだけでなく、体全体で、五感を通してその魅力を体感することができます。これに温泉が加われば、国内のみならず、海外からも多くの観光客を呼び寄せることができる非常に魅力的なコンテンツとして、地域の魅力発信の一助となるのではないでしょうか。
 また、2020年2月、台湾台中市にて、海外では初めてとなるONSEN・ガストロノミーウォーキングイベントが開催されました。推進機構では、今後もイベント開催を通じて国内のみならず海外自治体との連携にもつなげていく考えです。

 協力・写真提供:(一社)ONSENガストロノミーツーリズム推進機構別ウィンドウで開く
 岐阜県環境企画課

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