グローカル外交ネット

令和2年2月25日
(写真1)支柱の基礎を作るための穴掘り作業 支柱の基礎を作るための穴掘り作業
(写真2)建仁寺垣設置 建仁寺垣設置
(写真3)ウェディングの撮影に訪れたカップル ウェディングの撮影に訪れたカップル

佐賀県鳥栖市 市民環境部 市民協働推進課
下川有美

1 友好交流都市「ドイツ国ツァイツ市」との交流

 第二次世界大戦中、音楽大学出身の特攻隊員が、出撃を前にベートーヴェンの月光ソナタをフッペル(HUPFER)のピアノで弾いたという話が、映画「月光の夏」として取り上げられました。そのピアノ・フッペルが作られたのが、ドイツ国ツァイツ市で、これをきっかけとして交流が始まり、平成24年に鳥栖市はツァイツ市と友好交流都市協定を締結しました。

2 設置の背景・経緯等

 平成14年3月当時のツァイツ市長から、平成16年に開催される庭園博覧会で日本庭園を整備するための技術協力の要請があり、同年、鳥栖市緑化協力会会長他2名がツァイツ市を訪問し、日本庭園整備の現地調査を行い、設計図を作成しました。平成15年に同協会から4人を派遣し、1か月半で日本庭園が完成しました。平成16年に公式訪問団を派遣し、庭園博覧会で日本の伝統文化を紹介する「日本の週」の舞台公演や体験を行い、市民との交流を深めました。

3 庭園施設の概要

 ツァイツ市内にあるモーリツブルグ城公園内にある日本庭園は、約1,000平米の回遊式庭園で、外周には、木柵を配置し、外部と遮断した空間を作っています。入口から続く長い建仁寺垣と白砂利敷きの通路を抜けると、海を表現した枯山水の庭が広がります。白砂は海、苔は大陸と島を表し、「心」という字を苔の島で表現しており、柔らかい曲線と、苔と白砂のコントラスト、木々の間から差し込む光、春の花々、夏の新緑、秋の紅葉と、四季折々移ろい行く美しさなど、心で自然を感じ、日本の風情を感じ、安らぎとなるような空間を作庭しています。
 現在は、春のマーケット、秋のマーケット、夏のお祭り、子供たちのお祭りなど、さまざまな機会に利用されるなど、市民に親しまれています。特に婚約披露や結婚式の会場として高い人気があります。

4 修復事業

(1)経緯

 ツァイツ市では、整備当初からボランティアスタッフの協力を得て、庭園管理を行っていました。しかし、整備から15年以上が経過し、日本庭園の老朽化等に伴い、樹木管理や庭園施設補修への指導・助言をツァイツ市側が希望していたことから、今回、国土交通省の海外日本庭園修復モデル事業を活用し、鳥栖市緑化協力会と本市が共同で、ツァイツ市の修復事業を支援することとなりました。

(2)事前調査

 渡航前に、本市とツァイツ市が窓口となり、修復方法などについて打ち合わせのメールを何度もやり取りしました。難しかったことは、それぞれが提案する修復方法が違い、確認をするために細かな調整が必要だったことです。正直、現地に行ってみないと分からない部分が多かったため、不安を抱えながらの渡航となりました。
 現地で準備してもらっていた機材等が、普段日本で使用しているものより大型であったことや、形や寸法が違っていて扱いづらかったなど、苦労されたようですが、派遣した技術者と現地スタッフが知恵を出し合い、細かな修復方法について協議を重ね、修復していただきました。
 また、ドイツ人の日本語通訳の方にはずいぶん助けられました。当初はコミュニケーションが足らず、行き違いがありましたが、日を重ねていくうちに呼吸が合い、言葉をたくさん交わさなくてもスムーズに作業が進んでいく姿を見ていると、とてもうれしくなりました。

(3)実施体制

 ツァイツ市との連絡調整は本市が行い、鳥栖市緑化協力会の技術者3人を派遣しました。
派遣期間は、鳥栖・ツァイツ子ども交流事業の派遣に合わせて、令和元年7月28日から8月4日までとし、修復作業は7月29日から8月2日までの5日間でした。
 主な作業は、腐食していた建仁寺垣の支柱撤去、ステンレス製金具設置、支柱建て込み、建仁寺垣パネル設置、剪定作業、樹木の支柱設置、竹林剪定でした。

(4)交流

 修復事業の期間は5日間と短いものでしたが、ほとんどの日において、夜は盛大なおもてなしがありました。派遣した技術者が持参した日本の玩具や通訳機器に興味津々で、笑いの絶えない楽しいひと時でした。
 私は、修復事業の期間と重複して鳥栖・ツァイツ子ども交流事業を引率していました。子ども交流事業のプログラムで日本庭園を訪問した際、チェロの演奏が行われ、多くの関係者が集いました。日頃から、市民の憩いの場所として利用されている日本庭園ですが、ウエディングの撮影のために日本庭園を訪れたカップルに遭遇するサプライズもありました。

(5)おわりに

 今回の日本庭園の修復は、言語や文化、価値観の違いがあり、限られた時間での作業となりました。また、当時の設計書などが残っていない中、建仁寺垣の支柱を取り換えるという普段日本ではやらない手法での修復であったため、多くの課題がありました。しかし、派遣した技術者の経験と柔軟な対応により、ツァイツ市の庭園管理者の希望に沿った形で、なんとか修復することができました。修復の様子は、地元新聞に大きく取り上げられ、多くのツァイツ市民にも知っていただくことができました。
 今回の修復事業は、友好交流都市としての両市の関係がさらに深まったことは言うまでもありません。単に日本庭園の修復に留まらず、大変意義深い取組であったと思います。
 今後も情報交換を行いながら、適切に管理していただき、末永くツァイツ市民に愛される日本庭園であるよう本市も関わっていきたいと思います。
 それぞれの文化と人とが交わり、大きくなって広がっていく瞬間に立ち会えたことに感謝しています。

グローカル外交ネットへ戻る