グローカル外交ネット

令和5年11月22日

別府市 市長公室
新湯治・ウェルネスツーリズム推進室

1 はじめに

別府市の長野市長とヴィシー市のビニョン副市長

 大分県別府市は、九州の東の玄関口に位置し、人口約11万3千人(令和5年9月末現在)の国際観光温泉文化都市です。別府市には、別府八湯という8ヶ所の温泉地があり、これらをまとめて別府温泉郷と称しています。市内には2,847の源泉があり、毎分の湧出量は102,671リットル(令和4年3月末現在)。これは、日本一の源泉数・湧出量を誇り、温泉の泉質は10種類のうち7種類が確認されています。
 この豊富な温泉資源を活用して、湯治客をはじめ年間約800万人の観光客を受け入れてきました。しかしながら、旅行形態の変化、新型コロナウイルス感染症や人口減少などの影響により、これまでの別府観光の形態を大きく見直す時期に来ていると感じています。そのような中、別府市では他の温泉地との差別化を図る取組として、温泉入浴効果の「見える化」に着手し、長期滞在、リピーターを増やすことで観光の高付加価値化を図り、持続可能な観光地を目指す「新湯治・ウェルネスツーリズム事業」をスタートさせたところ、この取組に興味を抱かれたヨーロッパの温泉保養都市であるフランス・ヴィシー市のビニョン副市長と繋がることができました。

2 日本とフランスの温泉療法の違い

ヴィシー市の温泉施設「テルム・デ・ドーム」

 令和5年10月1日、2日に別府市長はじめ我々市役所の関係者はフランス中部アリエ県ヴィシー市を訪問しました。ヴィシー市は、人口約2万5千人の温泉保養地であり、令和3年7月にヴィシー市をはじめとする7か国11都市で構成された「ヨーロッパの大温泉保養都市群」がユネスコ世界文化遺産に登録された歴史ある温泉療養地です。ユネスコ世界遺産に登録された都市は、それぞれが鉱泉を中心に発展しており、この鉱泉による治療、療法などが社会に影響を与え、歴史を刻んできたことが認められ、今回の登録に至ったとのことです。
 日本の湯治文化は、健康維持やリラクゼーションを求めるものが主流ですが、一方で季節感を楽しむ旅行の一部として温泉を楽しむという文化もあります。ヴィシー市の温泉を活用した療法は日本の湯治とは大きく違い、温泉への入浴をはじめ、飲泉、飲用により体調を整え、傷や疾病を治療する医学的見地に基づいた治療法です。
 ヴィシー市にあるテルム・デ・ドームという療養タイプの施設を見学させていただきました。フランスでは約100種類の治療法があり、ヴィシー市ではそのうちの約50種類の治療を受けることができるとのことです。また、フランスの温泉療法にあるマッサージなどは5年間、専門学校での就学が必要であり、ヴィシー市にもその専門学校が設置されています。世界には温泉を使った様々なマッサージが存在しますが、オリジナルはヴィシー市だけにしかないとのことです。マッサージのほか、温泉プールでのエクササイズやフィットネス、湯船でのジャグジー、泥を使った治療法などの説明を受けました。これらはいずれも内蔵や消化器、関節などへの効果があり、血行も促進されるとのことです。

3 別府の湯治とヴィシーの温泉療養を繋げる

 別府市は日本屈指の温泉地であり、その豊富な湯量と泉質から長い歴史をもち、訪れる人々に癒しと健康をもたらしてきました。ヴィシー市の温泉療法は最高級のものとされ、多くのヨーロッパの王侯貴族が訪れていました。両市はそれぞれ異なる国と文化を背景に持ちながらも、共通点を持っていると考えています。それは、自然から湧き出る温泉の力を信じ、それを生活と療養、治療の一部に取り入れてきたということです。日本の別府市とフランスのヴィシー市は、その長い歴史と温泉文化を通じて、国や文化を超えた共感と交流を生み出すことができると思っています。さらに、コロナ禍を経て世界的に健康志向が高まる中、自然治癒力を高め、心と体のバランスを整える自然療法への関心も高まっています。別府市とヴィシー市の温泉治療がその一端を担い、国際的なウェルネスツーリズムの重要な拠点として、さらなる発展を遂げることが可能になると考えています。

4 ヴィシー市に温泉療養、ウェルネス産業とまちの発展を学ぶ

 ヴィシー市にはリラクゼーションや健康増進を求めて年間約20万人が訪れています。ヴィシー市の温泉療養産業の歴史は古く、ロマン時代から存在していたとされています。ジュリアス・シーザーもヴィシーの温泉の効果を経験していたと記録されています。ヴィシー市の温泉は、フランスのヴィシー市の地下から湧出する自然のミネラルウォーターであり、その質と組成は特に高い医療効果を持つと評価されています。これらの水は体に良い影響を与え、特に皮膚疾患、リウマチ、消化器系の問題に対して効果があるとされています。また、ストレスの軽減、免疫系の改善、体のデトックス効果なども期待されています。ヴィシーの温泉施設は多種多様で、伝統的なバスハウスからモダンなスパまであります。また、温泉治療だけでなく、ヨガクラスや美容療法、リラクゼーションセラピーなども提供しています。多くの施設が専門的な医療スタッフを配置しており、個々の健康状態やニーズに応じたトリートメントを提供しています。温泉療法は全体的なリラクゼーションやウェルネスの促進だけでなく、特定の病気や疾患の治療にも使用されています。よって、多くの人々が観光やレジャーのためにヴィシー市を訪れるため、温泉療養をはじめとするウェルネス産業は地域経済にとっても重要な役割を果たしています。21世紀のヴィシー市の温泉は、伝統と革新が絶妙に融合した業界となっています。多くの施設が最新の設備と技術を導入し、個々の客に合わせたパーソナライズされたケアを提供しています。こうした歴史と伝統を大切にし続け、現代の新たな温泉療養産業の要素が組み合わさっているヴィシー市に「新湯治・ウェルネスツーリズム事業」を推進する別府市が温泉療養、ウェルネス産業と町の発展に学ぶべき要素が多く存在しています。

5 別府市とヴィシー市との交流を通じた新湯治・ウェルネスツーリズムの推進

ヴィシー市のアギレラ市長との会談

 別府市とヴィシー市は、ともに温泉が豊富に湧き出ることから密接なつながりを持っています。ヴィシー市は古くから温泉療養地として発展し、その歴史的な建造物や美しい公園などは観光の人気スポットとなっています。別府市は日本有数の温泉地として知られ、山と海からなるパノラマの景観と組み合わせた国際観光温泉文化都市としての地位を確立しています。こうした温泉地という共通点から、両市は互いに有益な絆を築くことができると考えています。例えば、別府市が取り組む「新湯治・ウェルネスツーリズム事業」を推進する観光事業者や市民が互いの都市を訪れることで、文化交流が進んだり、温泉療法やウェルネス、スパ、食の分野で新たなビジネスチャンスが生まれたりするなど、さまざまな交流が期待されます。また、共に新たな温泉療養観光都市を目指すことで、温泉資源の更なる有効利用や観光事業の振興、地域への再投資など、地方創生につながる可能性も秘めています。温泉地としてのアイデンティティ保持や、温泉文化・風呂文化の振興も、別府市とヴィシー市との交流を通じて様々なウェルネスツーリズムが実現できると考えています。

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