グローカル外交ネット
重層的な広がりを見せる豪州クイーンズランド州と日本の関係
最近のパラシェ同州首相の訪日、大阪訪問を軸に
在ブリスベン日本国総領事 胡摩窪 淳志
1 我が国とクイーンズランド(QLD)州の歴史的に強い絆(日豪関係のスターティング・ポイント)
19世紀末以降、クイーンズランド(QLD)州最北部(木曜島)での真珠貝採取やサトウキビ栽培のために多くの日本人が入植しました。今も木曜島の日本人墓地には和歌山県串本町などから移ってきた人々750名以上の墓碑と慰霊塔があり、毎年8月に慰霊祭が行われています。こうした経緯もあり、1896年、同州タウンズビルに豪州最初の日本領事館が開設されました。当時領事館として使われた建物は今もそのままの状態で残っています。つまりQLD州は日豪関係のスターティング・ポイントとなったところです。以来、日本と豪州は特に経済関係においてよきパートナーとなりました。
2 パラシェ州首相の6回目の訪日
(1)訪日の目的
本年7月8日~12日、そうした歴史を持つQLD州からアナスタシア・パラシェ州首相が東京と大阪を訪問しました。2015年に就任後、6回目の訪日となります。QLD州は、わが国の石炭総輸入25%、同牛肉21%、同砂糖81%を賄う重要な地域です。ここには現在、220社の日本企業が進出している他、州都ブリスベンとゴールドコーストにそれぞれ日本商工会議所があり、日本との貿易投資の架け橋となっています。特に資源関係は、1960年代以降、商社系鉱山会社が中心となって鉱山開発・インフラ整備に貢献しており、日本向け輸出の7割は石炭です。世界的な脱炭素化の動きが進む中、燃料炭の生産・権益は減少傾向ですが、製鉄において必要なコークスの材料となる原料炭を完全に代替できるエネルギーが未だない中、QLD州産の高品質な原料炭は今もなお重要な資源となっています。他方、日系企業は資源事業において、石炭以外の多角的な事業展開(例えば、硅砂(ガラスの原料)、ボーキサイト(アルミニウムの原料)、バナジウムなどの重要鉱物など)も開始しており、一部の事業は州政府からも支援を受けています。
今回訪日において、パラシェ州首相は、武井外務副大臣と会談した他、QLD州に投資している日本企業(ENEOS、住友商事、出光興産、三菱ガス化学など)と水素・再生エネルギー関係で会談を行うなど、同州の重要鉱物、水素、持続可能な航空燃料(SUF)事業への投資強化、農産物の更なる対日輸出促進を主な目的とする訪日となりました。
(2)大阪府との協力
QLD州は大阪府、埼玉県と、同州の州都ブリスベン市は神戸市と、そして上記タウンズビル市はいわき市、周南市と、それぞれ友好協定を結んでおり、私も本年4月、当地赴任前に大阪府と埼玉県、そして神戸市を訪問してそれぞれの今後の交流促進の可能性について議論しました。今回パラシェ州首相は特に大阪を訪問し、吉村大阪府知事との間で、貿易・投資、文化・教育分野での協力関係の更なる拡大の可能性について話し合いが行われました。
QLD州では現在、大阪に本社のある岩谷産業が、関西ガスや丸紅、QLD州の資源エネルギー公社、他企業等と組み、再生可能エネルギー由来の水素製造プロジェクトの実証実験を始めているところです。将来的にグリーン水素製造が商業レベルで成功し水素エネルギーの利用拡大が始まることとなれば、日本企業が培ってきている水素貯蔵、輸送などの技術をどのように活用、発展させていくか、まさに検討が始まるものと思われます。
また、私が大阪を訪問した際も、大阪港湾局から、中古車の海外輸出をきっかけに府と市が一体となって港湾の活性化に取り組んでおり、対豪州でもブリスベン等を主なターゲットに自動車、資源エネルギー関連の物流を拡大させていきたいとの意気込みを語っていただきました。
なお、パラシェ州首相の今回の大阪訪問中に、QLD州当局から、2025年大阪万博の豪州パビリオンに同州がゴールドスポンサーとして参加することが正式発表されました。同州では、ブリスベン市も2032年にブリスベン・オリンピック・パラリンピック競技大会開催を予定しており、日本から2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックの経験共有も図りながら準備を進めています。日豪の自治体で今後行われるこうした大型イベントでの協力を楽しみにしたいと思います。
大阪府幹部の説明では、QLD州との関係は経済分野のみならず、教育・研究分野などでも活発になっているようです。ちなみに日本語教育が盛んな豪州でも、QLD州は最も日本語学習者が多く(全豪州約42万人(世界第4位)の日本語学習者(初中高等教育)のうち、約16万人(約4割)がQLD州で履修)、日本語を教えている小中高は658校。大学レベルでもクイーンズランド大学、クイーンズランド工科大学、グリフィス大学など主な大学はどこも日本の大学と提携関係にあります。
また、大阪府としては、教育交流ではこれまでの語学教員交流に加えて、万博に向けて青少年交流を展開していけないか考えているとのことです。QLD州教育省から、同州ではGlobal Learning Programという、共通課題を設定した上でオンライン会議とそれぞれの学校(教室)での課題解決(社会実践活動)を組み合わせた事業をインドや台湾と実施しているとの説明を受けており、大阪府としてもこうした教育分野での協力に大変興味を持っているとのことでした。
3 終わりに
資源大国の豪州においても、今後の目標は脱炭素化であり、石炭の豊富なQLD州においても、産業政策の柱は脱炭素化です。再生可能エネルギー・重要鉱物資源開発やグリーン水素製造等に力点を置いており、今後大阪府とも上記のような経済分野での協力が進展していくものと思います。
また、ポストコロナの現在、同州に30ある我が国との姉妹友好都市でも、既に様々な分野での活発な人的交流が再開しています。
さらに、2025年の大阪万博に向けて、大阪府とQLD州がどのような連携を図っていくのか楽しみです。そしてその先にある2032年のブリスベン・オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向けて、双方の30組の姉妹都市の交流があらためて活性化されることが期待され、当館としても引き続き自治体間のそうした交流促進をサポートしていきたいと考えています。