グローカル外交ネット

令和4年12月22日

山形県長井市観光文化交流課 地域おこし協力隊
けん玉ひろばSPIKe管理人
シェルビー・ブラウン

1 けん玉との出会い

 私は米国アーカンソー州出身で、山形県在住のシェルビー・ブラウンです。けん玉をきっかけに、福島県から山形県に引っ越し、2021年10月から現在に至るまで長井市の地域おこし協力隊として、けん玉の体験施設「けん玉ひろばSPIKe」に常駐しています。本稿では、けん玉の魅力や長井市におけるけん玉での地域おこしの取組などを紹介します。

(写真1)けん玉を披露するシェルビー・ブラウンさんの様子 けん玉を披露する様子

 けん玉に出会ったのは、2019年、福島県に住んでいるときです。現在、けん玉歴は3年と短いですが、けん玉には私の人生を変えるほどの魅力を感じています。なぜ、これほどまでにけん玉に夢中になったのかを探るためには、けん玉に魅せられるまでの人生を振り返る必要があります。
 幼少の頃は、スポーツとアウトドアでの遊びが大好きな少年でした。特に走ることが好きで、目的がなくても走り回ったり、兄弟や愛犬などとレースをしたりしていました。格闘技にも関心はありましたが、アーカンソー州の田舎にはジムのような施設もなかったことから、ブルースリーの映画を見て真似をしていました。
 中学1年生のときには、アニメと漫画に興味を持ち始めて、ドラゴンボールやナルトといった少年漫画に没頭しました。ブルースリーやナルトの忍(しのび)と同じように空中で回転したり、武器を投げたり、そのようなかっこいい動きができるようになりたいと思い、You Tubeで“バク宙”の解説動画を調べて独学でできるようになりました。弟も同じことに興味を持っていたため、よく二人で練習し、新しい技を身に着け、「トリッキング」(アクロバティックな技を披露するスポーツ)に夢中になりました。「トリッキング」を毎日のように練習して、学校でも友達に技を見せました。そして、いつの間にか学校の「忍者」と呼ばれるようになりました。
 しかし、ある日、自転車に乗って坂を下っているときに事故に遭い、腰に大怪我を負い、二か月程歩けなくなってしまいました。しばらくして治ったかと思いましたが、怪我の前と同じように脚を動かすことはできなくなってしまったため、怪我が悪化しないように注意しながら基礎の技だけを練習しました。
 数年後、大学に入って「トリッキング」を友達と一緒に再開しましたが、やはり長い時間練習すると腰が痛くなってしまうので、できる範囲で5分から10分だけ行っていました。そんな中、大学在学中に一年間日本に留学しました。それまで「トリッキング」は弟や友達とやることが多かったので、日本に来た際には、身の周りに「トリッキング」をしている日本人がおらず、これをする機会がなくなりました。
 その穴を埋められるような、一人でもできるかっこいいスポーツを探しましたが、当時は見つけられませんでした。代わりに日本語の勉強に熱中しました。留学生活が終わった後、帰国して大学を卒業しましたが、日本でまた何かをしたいと思い、英語の先生として再来日しました。そこで、「トリッキング」に代わる夢中になれるものに偶然出会いました。それがけん玉でした。
 福島県の小さな町で英語の外国語指導助手(ALT)として働いていた頃、英語の教科書にけん玉の写真があり、これは何だろうと興味を持ちました。日本の伝統的なものに興味があり、体験したかったため、けん玉を買いました。実際にけん玉を買って練習し、すぐに魅力にハマったといっても過言ではありません。You Tubeで技の解説動画、プロのスゴ技を見たその瞬間、けん玉への関心が心の底から爆発的に湧いてきました。「トリッキング」が大好きだった私は、前のようにできなくなってしまったことによる心の穴を埋めてくれたけん玉に感謝の気持ちで一杯でした。その後、けん玉専用のInstagramアカウントを作って動画をインターネット上にアップロードするようになりました。練習の進歩を記録するためのアカウントでしたが、いつの間にか世界中にいるけん玉プレイヤーと連絡を取ることになり、友達を作るきっかけにもなりました。そのとき、けん玉はコミュニケーションツールだと実感しました。
 けん玉の良いところは、けん玉が一本あれば、室内でも屋外でも楽しめることです。また、老若男女を問わず、誰でも技を習得したときの達成感やけん玉のコミュニティでの交流を楽しむことができます。集中力も付けてくれますし、全身運動にもなります。「トリッキング」もそうですが、技を組み合わせることで、より難易度の高い技を作ることができます。人間のポテンシャルを引き出すけん玉には、星の数ほど技があります。このように、けん玉には多くの魅力があります。

2 長井市地域おこし協力隊

 2021年8月に「けん玉ワールドカップ」に初出場しました。その年は新型コロナウイルス感染症対策のため、オンライン形式での開催となり、自宅からZoomで参加しました。大会の最中に各地域のPRブロックがあり、山形県の長井市から「けん玉ひろばSPIKe」管理人(地域おこし協力隊)の募集がありました。けん玉を仕事にすることに魅力を感じ、すぐに手を挙げて応募しました。市の職員の方とやり取りをしながら、長井市への引っ越しを準備しました。同年10月に地域おこし協力隊として長井市に移住して、「けん玉ひろばSPIKe」の管理人になりました。夢のような仕事に就けました。
 けん玉での地域おこしは楽しい仕事ですが、難しい点もいくつかあります。ほとんどの日本人にとってけん玉は、昔ながらの遊びで少し古臭いと思われがちで、けん玉のかっこよさに気付いていません。しかし、けん玉は伝統的なおもちゃであり、昔からの遊びであるだけでなく、スポーツ競技としても発展しているところにかっこよさを感じます。今すぐにけん玉がかっこいいということに気付いてもらうのは難しいと思いますが、「けん玉ワールドカップ」や生で上手なプレイヤーの鍛錬した動きを見れば、けん玉の奥深さに気付いてくれると思っています。

(写真2)シェルビー・ブラウンさんがけん玉を披露している様子 「けん玉ワールドカップ」出場時の様子

3 長井市の面白い取組

 次に、長井市の面白い取組について紹介します。同市では、小学1年生全員にけん玉を一本ずつプレゼントしています(市内けん玉製造事業者による寄贈)。また、けん玉に触れる機会を作るために、小学校の学童保育などでけん玉教室を実施しています。このほか、市内の店舗で指定した技を決めるとお店独自のサービスが受けられる「けん玉チャレンジ」という取組も行っています。けん玉ができると買い物がより楽しくなる工夫など、初めての方でも積極的にけん玉に触れられる機会を設けています。
 これらの取組を通して、小さな頃からけん玉に慣れ親しんでもらい、大人になっても長井市民の皆がけん玉の文化を継承していくことで、長井市は名実ともに全国に誇れるけん玉のまちになると考えています。

(写真3)けん玉教室で、けん玉をしている多くの子供たちと指導しているシェルビー・ブラウンさんの様子 長井市でのけん玉教室の様子

 また、けん玉体験施設の管理人として、多くの方に「けん玉ひろばSPIKe」まで来てもらえるよう、取材を多く受けて情報発信をしています。けん玉に親しむ一番の近道は、けん玉愛好者同士で一緒に楽しむことだと思います。けん玉初心者の方にもそのような場を提供するため、様々なイベントにおいて、けん玉体験ブースの出店やけん玉体験イベントの開催などに力を入れています。そのほか、全国のけん玉愛好者が集まるイベントも企画しています。

(写真4)「けん玉ひろばSPIKe」の前でけん玉を持ったシェルビー・ブラウンさんの様子 「けん玉ひろばSPIKe」の前で

 2022年11月からは、新たなけん玉の地域おこし協力隊が長井市に来ました。彼は、けん玉のプロプレーヤーで、世界チャンピオンになった経験もあることから、来年の「けん玉ひろばSPIKe」の動きがすごく楽しみです。市内のけん玉グループ「スパイク・ファミリー」と一緒に、外国の方にも来てもらえるよう魅力のある情報発信を行い、けん玉を通して、長井市を賑わう町にしていきたいと思います。

(写真5)けん玉グループ「スパイク・ファミリー」の方たち 「スパイク・ファミリー」と共に
グローカル外交ネットへ戻る