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外交実務研修員研修(国際交流基金)
外務省地方連携推進室
9月30日、国際交流基金(JF)にて、令和4年度第2回外交実務研修員研修を実施しました。概要は以下のとおりです。
1 はじめに
我が国の国際文化交流を専門に担う独立行政法人である国際交流基金。
この日、外務省で研修中の地方自治体職員(外交実務研修員)が訪れたのは、埼玉県さいたま市にある国際交流基金の日本語国際センターです。本研修は、二部構成で実施されました。
前半は、赤澤国際交流基金企画部総合戦略課長及び菱山外務省地方連携推進室長による冒頭挨拶の後、「日本国内各地域と連携した国際交流基金の取組」について、赤澤総合戦略課長及び同基金総合戦略課の有馬主任による講義が行われました。
後半は、飯澤日本語国際センター副所長による同センターの概要説明の後、海外で日本語を教える若手教師を対象とした研修の見学をはじめ、施設内の視察が行われました。
2 国内各地域と連携した国際交流基金の取組
(1)国際交流基金の概要
有馬主任による講義では、同基金の概要や現状について分かりやすい説明を受けました。基金の担う国際文化交流としては、(ア)文化芸術交流の促進、(イ)海外日本語教育の推進、(ウ)日本研究・国際対話の推進という活動領域があること、国内4拠点のほか、海外24か国に25の拠点が存在すること、世界の国数から比べればまだまだ拠点が少ないことなど、これまであまり同基金に馴染みのなかった外交実務研修員も理解を深めることができました。
(2)3つの分野における事業例の紹介
続いて、前述3つの分野における主な事業の説明を受け、同基金の事業内容を学びました。 文化芸術交流事業では、2020年以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、対面での文化交流事業が難しくなったことから、映像コンテンツやオンラインコンテンツに力を入れ、多言語での配信を行っているそうです。今後はそれらのコンテンツを入口として、対面の事業に人を呼び込んでいきたいとのことでした。
日本語教育事業については、海外の日本語教育機関と長年築いてきたネットワークが同基金の強みであり、近年はそのネットワークを活用することで、外国人材への日本語教育のほか、ウクライナやアフガニスタン等から日本へ退避してきた人々への日本語教育などの支援にも取り組んでいるという話を聞きました。
日本研究・国際対話事業では、海外における日本への理解の基礎づくりにもつながる、日本研究者への支援、日本研究ネットワークの支援、日本研究機関への支援を実施しているとの説明がありました。
(3)国内各地域と連携した取組の紹介
次に、国内各地域と連携した地域の魅力の発信事例の一つとして、放送コンテンツ海外展開事業の説明を受けました。国内の地域のテレビ局と日本の映像コンテンツに関心のある海外のテレビ局とを結びつける取組など、具体的な事例も交えた紹介がありました。特に、放送コンテンツを海外展開する際に、単に海外の現地テレビ局へデータ素材を供与するだけではなく、「素材供与式」というセレモニーを開催し、要人を巻き込んで効果的にPRした事例についての実例は外交実務研修員にとっても大いに参考となる内容でした。
また、本年8月から始まった新たな事業「美術館への誘い」の紹介もありました。日本国内の個性的な美術館の紹介ビデオを制作し、4つのテーマに分けて5か国語の字幕を付けて配信するというものです。国内の美術館の魅力をアピールするとともに、日本のアーティストや建築家の情報を多面的にオンライン配信し、今後は紹介されている美術館が所在する地域を中心に、国内の人にもこうしたコンテンツの存在を知っていただき、海外の人から国内各地域への関心を高めてもらうツールとして活用していきたいとのことです。
日本語学習支援事業については、海外現地日本語教師のアシスタント等を担う日本語母語話者の派遣事業である「日本語パートナーズ派遣事業」などの紹介がありました。特に近年は東南アジアにおいて日本語学習者数が急増しており、アジアの若者層の日本語教育の裾野拡大に向けて多くの地方自治体と連携した取組もできるのではないかと考えているとのことです。
また、デジタル時代への対応として、各在外公館と連携したSNSによる広報事例が紹介されました。その際、外交実務研究員に向けて、在外公館に赴任し、特に文化担当官になった場合には、国際交流基金のコンテンツなどを活用して欲しい、国際交流基金の海外拠点がない国・地域では、在外公館の文化担当官には任国政府との窓口として、各事業の推進に協力していただいているというお話がありました。外交実務研修員は意欲と関心に溢れた眼差しで、講演を聴講していました。

講演の終盤では、赤澤課長から、英国における日本語普及への取組についての経験談を聞きました。赤澤課長がJFロンドン日本文化センターへ赴任した際、英国では大学入試改革のため外国語科目から日本語を含む受験者少数言語の選択廃止の危機と小学校への外国語科目導入という好機が同時に訪れたそうです。ランゲージ・ショー(外国語見本市)へのブース出展やアニメ映画会での来場者への日本語紹介、英国国会内で中等教育の日本語教育に中心的な役割を果たす学校への「JFさくらネットワーク」加盟証(認証)の授与など、英国政府等への働きかけに奔走した結果、最終的には日本語の試験がなくなることは避けられたそうです。外交実務研修員は皆、赤澤課長の貴重な経験談に対して熱心に耳を傾けていました。
3 国際交流基金日本語国際センター内視察

研修後半では、飯澤副所長から、海外の日本語教育の現状及び日本語国際センターの概要について説明を受けた後、同基金職員の案内を受けながら施設内視察を実施しました。冒頭、「海外日本語教師基礎研修」(教授経験の短い若手日本語教師を対象とした研修)を視察しました。外交実務研修員は、普段あまり目にすることがない日本語教育の現場を体感することができました。
その後、研修参加者用の宿舎棟、而学堂(研修参加者向けの茶道や華道のデモンストレーションに利用する和室)、食堂、図書館の視察を実施しました。中でも図書館は、一般的な図書館とは異なり、世界各地の日本語教材・関連資料を網羅的に収集している日本語教育専門図書館となっており、様々な国の日本語の教科書や参考書などが数多く陳列されていました。外交実務研修員にとって、実際に使われている外国の日本語教科書などは非常に興味深いものでした。

4 終わりに
研修後、外交実務研修員からは、「日本の文化を発信する具体的な取組事例を多数ご紹介いただき、大変興味深く、勉強になった。在外公館勤務の際や派遣元地方自治体へ戻った際も、国際文化交流を推進すべく尽力していきたい」などの感想が多数寄せられました。
今回、国際交流基金で国際文化交流の実務に携わる職員の方に直接お話を伺い、日本語教育の現場を視察した経験は、外交実務研修員にとって大変貴重なものとなりました。
本研修を快諾していただき、本研修の調整及び大変貴重な講義を行っていただいた国際交流基金の皆様に厚く御礼申し上げます。