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東京2020大会・ホストタウン交流はコロナを超えて拡大(千葉県旭市とザンビア)
駐ザンビア日本国特命全権大使 水内 龍太
1 ザンビア・オリンピック選手団壮行会と旭二中生徒の応援ビデオ
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)開幕を2か月後に控えた2021年5月19日、大使公邸においてザンビア選手団の壮行会を挙行しました。ザンビアにおいて新型コロナウイルス感染症は下火になっていたとはいえ、厳重な感染症対策を敷いた上で、三密を回避するために屋外の庭園を会場として実施したものです。コロナ禍が世界的に広まって以降の選手たちの練習環境は、感染リスクの回避とパフォーマンスの向上を両立させねばならないという過酷な条件下だったようです。国民の目に触れることもなく、公式な結団式もなかったとのことで、なんと、公邸での壮行会がオリンピック選手団として初めて一堂に会する機会になったのだそうです。

私やザンビア・オリンピック委員会会長等がスピーチをする間、選手たちは緊張の面持ちに包まれていました。それもそのはず、初めて日本の地を踏むアスリートたちがほとんどだったとのことで、異郷の日本に旅立つ選手の胸中では期待と不安が交錯していたのではないかと思われました。そんな緊張を破ったのは、旭市立第二中学校の生徒たちが作ってくれた、ビデオによる歓迎と応援のパフォーマンスでした。一生懸命作ってくれたビデオの中で、ボクシングのザンビア選手に扮した生徒が、某先進国選手に扮した生徒を逆転でノックアウトすると、選手団の間から歓声と拍手が湧き起こりました。
2 ザンビアと旭市との交流の始まりとオリンピック・ホストタウン
千葉県旭市は、太平洋の波洗う、九十九里浜に面した緑豊かな自治体です。もともとドイツのデュッセルドルフ市と卓球交流を続けている等、国際交流の盛んな町として知られています。2019年にザンビアが千葉県内で事前のキャンプ地を探していることを聞いた旭市側が、駐日ザンビア大使館を訪問して招致を行ったことから交流が始まりました。同年8月のザンビア・オリンピック委員会による視察を経て、2020年1月には両者間で「事前キャンプに関する覚書」を交わしました。それ以来旭市では、ザンビアを紹介する動画「ブイーノ(現地ニャンジャ語でgoodの意味)・ザンビア」を制作したり、「あさひオリンピック新聞」の発行、ザンビア応援グッズの製作等を通じたりして、ホストタウン交流を盛り上げてくれていました。先に紹介したビデオパフォーマンスもその一環です。
しかし、日本での新型コロナウイルス感染症の拡大のために、事前の合宿は中止になってしまいました。厳しい自己管理を行って感染者を出していなかったザンビア選手団にとっては本当に残念なことでしたし、また一生懸命受入の準備をしてくれていた旭市の皆さんの落胆にも心が痛みました。ザンビアのアスリートたちはメダルには手が届きませんでしたが、それぞれの種目で立派な活躍をしました。特に女子サッカーの「コッパークイーン」チームのキャプテン、バーバラ・バンダ選手がオリンピック女子サッカー史上初めてとなる2試合連続のハットトリックを決める大活躍をしたことは日本のファンにも強い印象を与えました。このときのバンダ選手のユニフォームや開会式で選手が着用した衣装などが、ザンビア・オリンピック委員会から駐日大使館を通じて旭市に届けられ、事前合宿で使われる予定だった旭市総合体育館で展示されることになりました。
3 ホストタウン交流は東京2020大会もコロナも超えて
東京2020大会の終了後、2021年8月には旭市から新型コロナ感染症対策としての医療用マスク5,000枚と医療用防護服(PPE)2,000着が在ザンビア日本国大使館に届けられました。この防護服はザンビア国内でオミクロン株が流行する直前という絶妙のタイミングで、新型コロナウイルス感染症の重点病院となっているレヴィ・ムワナワサ大学病院に届けられました。

2022年4月5日、一時帰国中だった私は、ホストタウン交流のお礼と将来の交流拡大に向けた意見交換を目的として、日帰りで旭市を訪問し、米本弥一郎市長、飯島茂副市長らから歓待を受けました。旭市総合体育館も視察しましたが、バンダ選手のユニフォームは別格扱いで大切に展示されていました。
また、壮行会にビデオ・メッセージを送ってくれた旭市立第二中学校では、加瀬政美校長や外国人の英語教師たちとの間でさまざまな話をしました。ビデオを作ってくれた生徒は卒業してしまったのですが、オリンピック・パラリンピックをきっかけに、ザンビア国内の2つの中学校(ルサカ州及び中央州)との間で、リモートでオンラインを通じた生徒間交流が始まり、それが後輩にも引き継がれることになったと聞きました。この交流は、「ホストタウン(オリンピックレガシー)」の標題で発信されており、随時新しい情報が更新されています(https://www.city.asahi.lg.jp/site/hosttown-legacy/)。近い将来、新型コロナウイルス感染症が終息した暁には、中学校を始めとする対面での交流が必ずや始まり、また拡大して行くであろうことを祈ってやみません。

旭市立第二中学校の卒業生がザンビアの中学生のために集めた、スポーツ用品や学用品などの支援物資が5箱ほどあるそうなのですが、輸送資金が不足しているために届けることができないで保管されているとのことです。私からもザンビアと日本を結んでいる航空会社に頼んでみたりしたのですが、残念ながら支援が得られていません。今後も配送方法については、旭市と共に最善の策を検討していくところです。