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令和4年6月21日

在パラグアイ日本国大使館 特命全権大使
中谷 好江

1 パラグアイへの移住

 日本人移住の歴史は、86年前の1936年に遡ります。現在、日系社会の規模は約1万人と近隣国に比べれば小規模ですが、農業分野に限らず、財界、金融、医療、法曹界、エンジニア、学界と幅広い分野で活躍し、パラグアイ市民レベルに至るまで尊敬の対象となっています。私が、大使館次席として関わった移住80周年(2016年)は、日本とパラグアイの良好な関係を象徴する出来事として、記憶されています。眞子内親王殿下(当時)の臨席を賜った記念式典には、大統領以下、三権の長、主要閣僚が出席しました。日本人会が主催した「日本祭」には、約15,000人が参加して共に祝賀してくれました。これらは、パラグアイの発展に貢献してきた移住者及び日系人に対する敬意、日本と日本文化への関心の表れといえます。

(写真1)移住してきた際にとった記念写真 移住当時の写真

2 岩手県とパラグアイの交流

 移住者出身地との交流は、各県人会を中心として続いており、岩手県、広島県はじめ県人会の周年行事の際には、はるばる知事が来訪されていることは、二国間関係の発展を支えるものと感謝しています。東京2020オリンピック・パラリンピックにおけるパラグアイのホストタウンはいずれも、移住者出身地のご縁でした。ここでは、パラグアイにとって、初の選手団派遣という歴史的意味のあったパラリンピックにおいて、ホストタウンとなった岩手県一戸町、岩手県との交流についてご紹介します。岩手県からの最初の入植は、戦前に始まっていましたが、県人会が設立されたのは1960年でした。現在、岩手県人会は3カ所に拠点を置き、パラグアイにおいて最大の会員数(139世帯)を誇り、活発に活動していますが、岩手県との各種交流、入植記念事業への支援等が、これらの活動を支えています。
 本年4月、達増知事と県庁で面談し、直接お礼を申しあげました。達増知事が、往復3日の遠路をものともせず、3回もパラグアイを訪問されているのは、県人会支援への熱い思いの表れでしょう。

3 岩手県一戸町

 一戸町は、ホストタウンとして、パラグアイの文化を紹介する展示会、小中学校におけるパラグアイについての学習、フロレンティン駐日パラグアイ大使と小学生との交流、七夕祭りの代表団と小学生のオンライン交流等を通じ、準備万端で2021年8月、メリッサ・ティルネル陸上女子100メートル選手(視覚障がい)、ロドリゴ・エルモサ水泳男子50メートル選手(肢体不自由)を含む代表団9名を事前合宿として10日間受け入れました。帰国した一行は、ちょっと寒かったけれど、町を挙げての温かいおもてなしに感激したと語ってくれました。自然豊かな風景は、パラグアイに似ているところもあって、人なつこい町民の皆様のお陰でホームシックになることもなかったと聞いています。(感謝メッセージの動画別ウィンドウで開く

 一戸町の町を挙げての温かいおもてなしと応援のお陰で、2選手は、パラグアイ国内新記録を達成できました。一戸町の小中学生にとっても、パラグアイやパラリンピック選手を身近に感じることは、国際的視点や共生社会について視野を広げる得がたい機会となったでしょう。

(写真2)パラリンピック選手たち 一戸町で歓迎を受けるパラグアイ代表団

 私も、去る4月、一戸町を訪れ、パラグアイ代表団の気持ちを追体験し、小野寺町長、中嶋教育長等の関係者にお礼を申しあげました。パラグアイとの交流継続への思いを伺い、大使館の仕事への心強い応援団を得た様で嬉しくなりました。また、エルモサ選手の練習場のためのプールを提供し、児童との交流があった一戸小学校では、立柳校長とお話すると共に、5、6年生約60名との交流の機会がありました。昨年、世界遺産に認定された御所野遺跡では、愛護少年団団長・副団長(小学生)からの説明を受け、皆さんの郷土愛、探究心に感激しました。この郷土愛がパラグアイとの交流を支える原動力なのですね。
中谷大使の一戸町訪問別ウィンドウで開く

(写真3)世界遺産に認定された御所野遺跡の前で記念写真に写る中谷大使と愛護少年団団長・副団長(小学生) 中谷大使の御所野遺跡訪問

4 これから

 パラグアイと岩手県との交流を、日本とパラグアイ関係を支える象徴的な例として紹介しました。今回、岩手県、一戸町を訪問し、これまでも、現在も、二国間の絆は、多くの方々に支えられていること、コロナ禍で人的交流が中断してしまいましたが、顔を合わせてお話することの意義を改めて痛感しました。例えば、岩手県は、これまでパラグアイからの海外技術研修員及び県費留学生合わせて90名近くを受け入れてこられました。感謝しつつ、これらの制度が継続されることを切に願っています。
 一人でも多くの日系パラグアイの若者が日本人としての自らのルーツを誇りに思い、二国間関係の発展に貢献したいとの思いを抱いてくれること、日本の、特に中高生が移住の歴史及び南米における日系社会の現状を知り、同世代の若者が地球の反対側で日本語を学び、自分たちと同じように悩みながら夢の実現に向けて頑張っていることを励みにしてくれることを願ってやみません。その実現のために、大使館として何が出来るか思いを巡らせているところです。

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