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「かもめ」が運んできた幸運
(岩手県陸前高田市と米国カリフォルニア州デルノーテ郡クレセントシティ市の交流)
岩手県陸前高田市
1 岩手県陸前高田市と米国カリフォルニア州デルノーテ郡クレセントシティ市の概要
陸前高田市は岩手県の東南端、三陸海岸の南の玄関口であり、宮城県との県際に位置しています。また、同市は北上山地の南端部に位置し、氷上山などをはじめとする山地、豊かな緑や水を育む気仙川注ぐ広田湾、なだらかな斜面や低地が広がっています。気候は、三陸沿岸に位置しているため、海洋の影響と地理的条件から四季を通じて比較的温暖です。
米国カリフォルニア州デルノーテ郡クレセントシティ市は、人口8千人程度の小さな街ですが、市街地には、雄大なエルク・クリーク川が流れ、山からの豊かな水を海に運ぶなど、自然環境について陸前高田市との共通点があります。また、クレセントシティ市では肥沃な土壌や地の利を生かし、農林水産業、有機乳製品・ビール等の農水産加工などの産業が栄えており、世界遺産にも登録されている、レッドウッド国立州立公園の玄関口としても知られています。ちなみに、「クレセント」という名前は、市南部の砂浜が三日月形をしていることに由来しているそうです。
2 姉妹都市交流のきっかけ
遠く離れた陸前高田市とクレセントシティ市を結びつけたのは、「かもめ」という名の一隻の船がきっかけでした。
2011年の東日本大震災の津波で陸前高田市から流出した「かもめ」は、太平洋を横断し、震災から2年後の2013年にクレセントシティ市の海岸に漂着しました。その後、地元デルノーテ高校の生徒の手によりボートが清掃されて、県立高田高校の海洋システム科の実習で使用されていた船であったことが判明しました。その後、デルノーテ高校の生徒たちは募金を集め、多くの人の協力を得て、最終的に無事に「かもめ」を高田高校に返すことができました。この出来事をきっかけに2017年2月に高田高校とデルノーテ高校は姉妹校となり、その後も交流は発展・拡大を続け、2018年4月には陸前高田市とクレセントシティ市及びデルノーテ郡で姉妹都市協定が提携されるに至りました。2019年1月には、この姉妹都市提携がカリフォルニア州全般に貢献しているということから、カリフォルニア州上下両院より「カリフォルニア州上下両議会顕彰議決書」を授与いただいています。
3 産業面での姉妹都市交流
実習船の返還をきっかけに、高田高校とデルノーテ高校の間で学生交流がはじまりましたが、より持続的に、幅広く相互の発展につながるよう、両市の交流は産業の分野でも深まってきています。
クレセントシティ市で評判の地ビール会社「Sea Quake Brewing」社では、「かもめ」号を通じた両市の友好関係を記念して「KAMOMEエール」という名前の新しいビールを開発し、2019年7月には同社の社長が来日して、ビアガーデンにて市民にもお披露目されました。現在、市内レストランにてSea Quake Brewing社と技術提携する形での地ビールを開発中です。今後、陸前高田市とクレセントシティ市との新たな絆として、Sea Quake Brewing社のKAMOMEエールと市内での新たな友好記念地ビールの2つの味を楽しむことができる日も遠くないでしょう。
また、創業100年を超えるチーズ会社「ルミアーノ・チーズ」社でも、友好を象徴する商品作りに取り組みはじめ、岩手県産の塩を材料とした老舗ならではのチーズ作りの技術を生かした「KAMOME」というハードチーズを完成させました。当初、陸前高田市では塩が作られていなかったのですが、このチーズづくりのために、陸前高田市で新たに塩づくりのプロジェクトが始まりました。震災後同市に移住した市民がクラウドファンディングで調達した資金を元手に、まきストーブを使って地元の海水から塩を作るプロジェクトを立ち上げ、昨年12月までに約11キログラムの塩をクレセントシティ市に送ることができました。チーズ販売で得た資金を青少年交流の費用に充てる計画も進めています。
海を渡った「かもめ」によってもたらされた陸前高田市とクレセントシティ市の縁がこれからも続き、草の根レベルでの交流も深まっていくことが期待されます。