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海を越えて矢がしなり、パドルを漕ぐ手にモルドバを感じる!リモートがかなえた交流の新たな架け橋 (山形県鶴岡市・西川町)
山形県鶴岡市・西川町
東欧のモルドバ共和国はルーマニアとウクライナに挟まれたところに位置し、旧ソ連から独立した国です。鶴岡市内の企業が政府開発援助(ODA)でモルドバにペレット製造プラント・ペレットボイラーを整備したことがきっかけとなり、ホストタウンとしてモルドバ共和国の選手受け入れを進めることとしました。
モルドバではカヌー競技も盛んであり、東京オリンピック競技大会の事前合宿の要望があったことから、練習環境が整っている西川町を共同のホストタウンとし、鶴岡市と連携を取りながらホストタウン交流事業を推進しています。
鶴岡市ではまず、駐日モルドバ共和国大使館との交流、特産のモルドバワインを楽しむ会やモルドバ料理教室といった、相手国を知ろうという事業から始めました。
続いて取り組んだのは、事前キャンプの実証実験として昨年4月にモルドバのアーチェリー選手団、同年8月と11月にモルドバの柔道選手団の強化合宿を受け入れ、様々な課題を検証しました。滞在中は対応いただいた地元の競技団体や市の担当職員ともコミュニケーションがとられ、文化や言葉が違っても良い信頼関係を築くことができました。
今年の7月に東京2020オリンピックの事前合宿として、モルドバのアーチェリーと柔道の選手団を受け入れる準備をしていた矢先、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、東京2020大会は1年延期され事前合宿も延期となりました。
すべてが1年延期された状況の中でホストタウン事業をどのように推進していくかが課題でしたが、ヒントを与えてくれたのはコロナ禍で一気に広がったweb会議システムです。ホストタウン事業にこれまで協力いただいた関係団体とも協議を重ね実現したのがこのシステムを活用した「鶴岡ホストタウン日本・モルドバリモートアーチェリー親善大会 KAKEHASHI2020」です。この大会は、両国の時差6時間を考慮し競技の開始時間を調整して同時進行で9月12日に開催しました。
日本では、新型コロナウイルスの影響で各種大会が中止となったり、練習すらできなかった時期もあり、選手にとっては久々に真剣勝負ができたことと、同年代の異国の選手とのwebを通した交流が図られ、とても良い機会となりました。鶴岡市から47名、モルドバから23名の計70名の参加をいただきましたが、web会議システムから聞こえるモルドバの方々の声を聞くと、国際親善大会が身近に感じられました。今後もこのようなリモートでの親善大会を継続して開催したいとお互いが希望しているので、引き続き両国の架け橋となる交流が図られることを期待しています。
一方、西川町では、2020 MOLDOVA CUP Kayak & Canoe Sprint Championshipsを9月6日に開催しました。本大会は、町民やカヌーに携わるすべての人々が、ホストタウンでつながったモルドバ共和国を忘れることなく、将来にわたって交流を継続させる東京2020大会のレガシーとしての意義と、ジュニア選手たちが世界を意識するきっかけの一つになるような大会にしたいという想いから開催するに至りました。
開催にあたり、モルドバ共和国オリンピック・スポーツ委員会と、同国カヌー・カヤック連盟から後援のご支援を快諾いただき、両組織のロゴや名称をプログラムや大会バナー、賞状などに使用することで、モルドバ共和国の関わりを随所に表すことができました。
競技種目には、カヤック(座って両側を漕ぐ種目)とカヌー(片膝立ちの姿勢で片側だけを漕ぐ種目。日本国内では「カナディアン」と呼ばれていますが、国際的には「カヌー」と呼ばれているのが一般的。本大会では国際的な意識を持ちこのようにあえて表記した)のほか、SUP(Stand Up Paddle Board)や、ドラゴンカヌー(10人一組で漕ぐ種目)を設け、当日は選手135名と大会役員及び競技役員65名、応援観客約150名の、合わせて約350名が会場に来ました。
新型コロナウイルス感染防止対策のため、大声での声援はできないものの、場内には音響設備をセットし、アップテンポのBGMを流すことで、競う合う中にも大会を楽しむ演出を行いました。また、表彰式においては、元ALT(外国語指導助手)で、今は町職員のアメリカ人が司会を務め、英語による国際大会的なメダルセレモニーを行い、ジュニア選手たちが大勢の前でも喜びを表現できるメンタルの強さや自己表現力を養う機会としました。
来年度の開催は、事前キャンプ中の7月中旬に行い、モルドバの選手たちと来場者が交流できるような内容にしたいと思っています。また、将来的には、県内外から多数のエントリー者が集う大会となり、場内には多数の出店者も出てくるなど、交流人口の拡大や経済波及効果にも資することができるようなイベントにしていければと考えています。
いよいよ来年は1年延期となった東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されます。モルドバのアーチェリーと柔道選手団は鶴岡市で、カヌーは西川町でオリンピック前に事前合宿を行う予定です。コロナ禍でもできる交流を今後も工夫しながら実施していくことが重要であると考えており、オリンピック・パラリンピック開催後のレガシーとしても、ホストタウン事業で築き上げた絆を基に、今後もモルドバと鶴岡市・西川町をつなぐ架け橋がより強固なものになることを願っています。