グローカル外交ネット
梨を通じてのドミニカ共和国との交流
松戸市経済振興部文化観光国際課
きっかけ

松戸市は,平成27年9月に,外務省との共催で,松戸市内の観光名所などを在京大使等に見ていただく「駐日外交団ツアー」を実施しました。本市は,二十世紀梨の原産地であることもあり,現在でも50園ほどの観光梨園がにぎわっています。そこで,大使等在京外交団の皆さまにも旬の梨を味わっていただきました。
和梨は落葉樹のため,冬でも落葉しない中南米では栽培されておらず,参加されていたドミニカ共和国のペレイラ公使は,初めて食した和梨の味を大変に気に入り,大使館に戻り,ドミンゲス大使にも報告されました。その結果,その年の12月に,大使より本市本郷谷市長に対して,ドミニカ共和国内でも和梨の栽培をしたいので支援して欲しいとの要請がなされました。
本市としても,市の名産品が広まることは名誉なこととは思いましたが,実際に育つのかどうか,確認する必要がありましたので,ドミニカ共和国からの招待もあり,当時の織原和雄副市長を団長とする調査団を組織し,平成28年6月に同国を訪問しました。ドミニカ共和国の中央部には,ラベガ県コンスタンサ市という標高1200メートルほどの高地があり,農産物の生産拠点となっています。そこには,日本人も移住していて,日本人会もあります。その日本人会のご家庭を調査団が訪れた時に,同行していた梨農家の人が洋梨の木を見つけ,標高が高いところであれば,和梨の栽培も可能ではないかとの調査報告を行いました。
そこで,同年11月に,外務省がエミリオ・トリビオ農地庁長官を招いた機会に,松戸市にも訪問していただき,本市市長と同国農地庁長官の間で,正式に「梨の交流に関する覚書」を締結し,本事業がスタートすることとなりました。
プロジェクトの進展
プロジェクトを推進するため,松戸市の近隣にある白井市で梨の育種や国内外等でも栽培指導をしている田中茂氏の協力をあおぐこととしました。ドミニカ共和国内で禁止されているウィルスの関係も考慮し,更には,現地にどのような病気があるかもわかりませんので,品種は同氏が開発した病気にも強い「秋ゴールド」と「秋のほほえみ」を持ち込むことになりました。また,29年4月には,JICAの企画調査員として,同国をはじめ中南米スペイン語圏で活躍されていた綿引純男氏を松戸市観光協会の職員として採用し,現地との調整等にあたっていただくことにしました。
そして,30年1月に,秋ゴールドの苗木25本を送るとともに,訪問団を組織し,同国を訪れ,コンスタンサ市にある農地庁農牧林研究所の試験場に,苗木25本を植樹しました。また,梨の台木(台木に穂木を接木したものが苗木です。)づくりも併せて行いました。そして,現地での研修なども実施し,植えてきた苗木等は,農地庁職員が管理することとし,定期的に生育状況を田中氏等へ報告することを確認しました。
梨の栽培は,簡単に覚えられるものではありませんので,その後は,年に2~3回,田中氏と綿引氏に現地の生育状況の確認と農地庁職員の指導を行うため,ドミニカ共和国へ訪問してもらうこととし,また,同国の農地庁職員や農業関係者を招いて,千葉大学園芸学部等の協力も得ながら,栽培研修も年1回実施しています。
現在の状況
最初に植えた苗木25本のうち16本は枯れてしまいましたが,9本が残っており,今年10月に,そのうちの3本から5個の実を収穫しました。収穫・試食には,トリビオ長官やサンチェス・コンスタンサ市長も訪れ,「大きさはまだ小さいけれど,大変甘かった」と話されたそうです。糖度は計測によると13.75度あったそうです。
また,種から育てた台木が250本ほどあり,生育の良い150本には,「秋ゴールド」や「秋のほほえみ」の穂木を接木してあり,来年あるいは再来年には,こちらにも梨の実ができることを期待しています。
今後への期待


本プロジェクトは,当初想定していた以上に,同国政府の農業政策・観光政策への貢献についての期待が大きいものでした。梨の育成については,まだ緒についたばかりで,現地での生産サイクルを確立するには,あと数年を要するものと考えています。今後は,試験場での苗木の本数を増やし,現地農家が管理する農地に移植することで,現地農家が野菜栽培から果樹栽培に切り替え,所得改善に貢献していきたいと考えています。そのためにも,同国から要望を受けている苺や葡萄についての支援も検討しているところです。
また,来年には,「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」が開催されますが,松戸市は,この梨プロジェクトがきっかけで,同国のホストタウンとなり,現在,バレーボール,ソフトボール,テコンドーなどの事前キャンプ受入れの協議も行っています。そのほかにも,昨年外務省が招へいした同国バルカセル青年大臣には,松戸市立第一中学校にも訪れていただき,子どもたちと給食を共にするなど交流していただきました。また,昨年から,10月に開催している松戸まつりに,同国のメレンゲやバチャータなどのダンスチームに来ていただき,子どもたちを楽しませていただいています。
今後,このプロジェクトがしっかりと定着するとともに,心の底から明るい国民性を持った同国と,文化・スポーツや教育など様々な分野での交流が広がることを期待しています。