グローカル外交ネット

令和元年10月23日

クリス・グレン
有限会社パスト・プレゼント・フューチャー 代表取締役
インバウンド観光アドバイザー

 私が初めて日本へ来たのは,16歳の頃のこと。交換留学生として札幌で暮らしました。来日当初は,たった5つの日本語しかできなかった私ですが,1年間,必死に日本語と日本の文化や暮らしを学びました。留学生活を終え,母国へ帰国した後も,日本での生活を忘れることができなかった私は,24歳で再来日。以来28年,日本で生活しています。

 私が住む愛知県は,織田信長,豊臣秀吉,徳川家康といった三英傑をはじめ,多くの有名な武将を輩出した地域です。国宝・犬山城,そして近世城郭の最高峰ともいわれる名古屋城など,世界に誇れる城もあります。欧米豪人が好きそうな古い街並みの残る有松(日本遺産に認定)や東海道の宿場町もあれば,それとは真逆の大都会・名古屋の街もあります。海もあり,山もあり,自然も豊かです。そして,世界的に有名なトヨタ自動車のお膝元でもあるため,経済も潤っています。世界初の木製ロボット・からくり人形は,愛知が世界に誇る文化の一つでもあり,その人形たちが素晴らしいパフォーマンスを披露する「山車からくり」も有名です。ユネスコ無形文化遺産に登録された「山・鉾・屋台行事」18府県33件のまつりのうち,愛知は最多,5つも認定されています。これは地域の誇りです。また,徳川家康が,ふるさとの味を求めて,江戸にまで取り寄せたと言われる八丁味噌は,今なお昔ながらの製法でつくり続けられており,愛知独特の豆味噌文化は,地域のソウルフードである「なごやめし」には欠かせない存在です。その他にも,まだまだ,ここでは語りつくせないほどの魅力が愛知には溢れているのですが,多くの人は口を揃えて,こう言います。「私の街には魅力がない。」「面白くない。」「友人が来ても紹介したい,連れていきたい場所がない。」と。でも本当は,そうじゃない。魅力がないのではなく,その魅力に気づいていないだけなのです。

 私は幸い,テレビやラジオ,新聞,イベント,講演活動等を通して,地域の皆さんに,まちの魅力を伝えることができる環境にあります。大好きな日本,大好きなまちの魅力について語ると,みなさん必ずこう言ってくださいます。「私たちのまちって凄いんですね!これからは,もっと自慢します!」「まちの魅力を外国の人に教えられているなんて,恥ずかしい。これからは,もっと自分のまちのことを勉強しますね。」と。また,自治体の方からは「観光に携わる人間は,クリスさんくらいの熱量で地域の魅力を語れなければいけない!私たちのために勉強会をしてもらえませんか?」という熱いラブコールを受けることもあります。こうした言葉を聞くと,私は少しホッとします。「あぁ,みんなやっぱり自分のまちが大好きなんだな。」と。つまり「私のまちには魅力がない。」「面白くない。」と言っていた人たちは,自分のまちを知る,好きになる,魅力に気づく,きっかけがなかっただけなのです。私は一人でも多く,自分のまちの魅力を語ることができる人が増えて欲しいと思っています。それは,いずれ必ず,まちの活力へとつながると信じているからです。

 現在,日本全国どの地域もインバウンド観光に力を注いでいます。しかし,メジャーな観光地やシンボリックな観光スポットを持つ地域以外は,まだまだ苦戦しています。そこで重要になってくるのが,地域の魅力を語る力,伝える力です。世界中に存在する魅力的な地域の中から,私たちのまちを選んでもらうことは,容易なことではありません。その地域にしかないモノ,コト,ストーリーを掘り起こし,いかにして伝えるのか。また,私たちのまちの魅力は,どういった人たちに伝えれば響くのか。これらを徹底的に考え抜き,着実に取り組んでいく必要があります。そのためには,やはり,地域に関わる人たちが,地域を愛し,その魅力を理解し,伝えていかなければなりません。

 私は,日本を愛する一人の外国人として,またインバウンド観光アドバイザーとして,大好きな日本の魅力を国内外に伝える活動を今後もライフワークとして,全力で取り組んでいきます。これは私の第二のふるさと,そして,お世話になった日本への心からの恩返しです。

  • (写真1)愛知,名古屋の魅力を伝える講演多数
    愛知,名古屋の魅力を伝える講演多数
  • (写真2)名古屋城大天守・小天守と復元された本丸御殿(手前)
    名古屋城大天守・小天守と復元された本丸御殿(手前)
  • (写真3)四季桜と紅葉の共演(愛知県豊田市小原)
    四季桜と紅葉の共演(愛知県豊田市小原)
グローカル外交ネットへ戻る