グローカル外交ネット

令和2年2月26日
京都府・南山城村での旧高尾小学校の活用
三重県・御浜町尾呂志の様子
三重県・御浜町尾呂志でのウスビ・サコ学長 三重県・御浜町尾呂志での
ウスビ・サコ学長

ウスビ・サコ
京都精華大学学長

1 はじめに

 日本全国に見られる少子化と高齢化の現象に伴い、人口が著しく減少し、中小規模の地方都市や農村地域の過疎化が深刻な問題になっています。過疎化対策として、これらの地域への移住促進と地域経済の活性化が図られています。私は京都のコミュニティの変容と学校の統廃合を調査する中でこういった地域課題に関心を持ち始めていました。それから縁あって、南山城村の研究チームに加わり、高尾地区の旧高尾小学校の再生と地域拠点づくりに関わることができました。旧高尾小学校再生の過程で、日本の農村や山間地域が抱える特有の課題に触れたことをきっかけに、南山城村の調査のほか、那智勝浦の色川や三重県御浜町尾呂志村の調査を手掛けることになりました。この一連の調査で、住民組織の変容、学校の統廃合や再生が地域活性化の中心課題であることがわかりました。これらの経験を通して、日本の山間地域がどのような状態にあるのか、また今後、これらの地域がどのような可能性を秘めているのかを探りたいと思います。

2 日本の地域をどう見るのか

(1)小学校の廃校と南山城村高尾地区の変容

 南山城村は1955年に高山村と大河原村の合併により発足した村です。奈良県、三重県、滋賀県と隣接する京都府下唯一の村であり、2012年現在の人口は3000人前後で推移しています。南山城村では地元の銘産として、栽培農家が宇治茶、煎茶を広い面積の茶園で栽培を行なっています。これまで南山城村では茶園の拡大整備、共同製茶工場による生産部門の近代化、農協での共同販売による一元集出荷体制の確立など、さまざまな取り組みを行ってきました。しかし現在では過疎化が進み、田山、高尾、大河原、野殿童仙房の4つの小学校が統廃合され、それに伴い南山城村は一村一小学校となり、相楽東部広域連合立南山城小学校(以下、南山城村小学校)に小学校の機能を移す事となりました。
 人口減少が進む南山城村の中でも高尾地区の人口は最も減り、村内を歩く村民の姿をほとんど見かけません。廃校となった旧高尾小学校は竣工されてから20年しか経っておらず、鉄筋コンクリート造りの校舎としては利用可能な状態ですが、新たな利用方法を見出す事が出来ないまま長い間に放置されていました。そのような状況にあった旧高尾小学校ですが、2007年から学校統廃合研究会や民間団体、アーティストなどの働きかけにより校舎を活用した地域活性化の動きが始まりました。

(2)地域再生と学校の役割

 旧高尾小学校の活用には、住民組織との話し合いを経て、校内の旧図書館を図書スペースと多目的スペースに再整備し、「色々茶論(いろいろサロン)」が誕生しました。しかし、図書館の開閉曜日は当番をする住民の都合で決まり、年間を通して30人未満しか訪れていないのが現状です。また、活性化に関わる町長や住民による映画上映会、音楽会、高尾フェスなどが開催されましたが、住民の少子高齢化によって、地元の参加者が非常に少ない上に婦人会や青年団の会合に使われている記録もなく、地域の拠点として再生できたとは言い難い状況です。

3 尾呂志学園の統合再生に見るコミュニティの活性化

 少子高齢化が進む山間地域で、学校統廃合を機に住民主導で校舎の建て替えが行われた例もあります。三重県にある御浜町、尾呂志学園学校区はその一例です。学校区は、坂本、上野、川瀬、栗須、片川の5つの地区に分かれており、学園は上野地区に位置しており、御浜町役場の調査では2015年現在366世帯が尾呂志学園学区に住んでいると報告されています。
 尾呂志学園は、2003年に尾呂志小学校と尾呂志中学校が統合し開校しました。2015年度の児童・生徒数は27名で、非常に小規模な学校です。校舎には、地産地消の木材をふんだんに使った内装木質化が見られ、旧来のパターン化された学校舎とは違い、児童・生徒数や地域に合わせた学校規模です。しかし、地域住民全体のコミュニティ・スクールに対する理解が浅いまま、学校施設や運営制度の策定がされ、地域住民自身がその変化についていけず、「地域に開かれた学校」という目標と実態に乖離がきたされています。
 地域利用を計画に取入れた尾呂志学園小中学校校区では、住民の学校利用が非常に少なく、一部の図書スペースやコミュニティルームで、地域行事、会合が行われることがあるくらいです。現在に至るまで、学校を日常的に使っていなかったにも関わらず、ハード面で校舎が変わったからといって、地域住民の日常生活が変わるわけではなく、「学校=教育の場」というイメージは、深く根づいたままです。地域の存続には学校が不可欠なものであり、特に山間地域では、学校がなければ過疎化が急速に進み、若い世代の離郷が顕著に現れます。尾呂志学園学校区の場合は、地域の拠点として学校を設置しましたが、地域住民全体と学校がより密になるという課題が残されています。

4 移住促進と地域再生の可能性

 日本の山間地域では学校の再生や活用と並行して、移住促進の施策(Uターン・Iターン・Jターン)を検討している自治体、地域組織が増えています。移住の仕組み、移住者と地域の活性化に関する新たなあり方が議論されています。特に、移住者の一部が外国出身者であることや、移住者による地域のポテンシャルの活用とイノベーションの取り組みが、山間地域の新しい可能性を指し示しています。
 今後、移住の仕組みや移住者の地域活性化への役割、移住者と既存コミュニティとの共存方法を整理する必要があります。また、地域を支える新しいソーシャルビジネスの展開を把握し、内発的発展と移住促進との関連性を今後探っていくことが重要です。

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