グローカル外交ネット
外務省での勤務を通じて
外交実務研修員 久保 将太
(舞鶴市から派遣)
1 はじめに
私は、令和2年4月に京都府舞鶴市から外務省へ派遣され、アジア大洋州局中国・モンゴル第二課で勤務しております。舞鶴市は、天然の良港を持ち、古くから海とともに栄えてきたまちで、中国・大連市、ロシア・ナホトカ市、英国・ポーツマス市といった友好・姉妹都市をはじめ、韓国やウズベキスタンなど様々な国々と盛んに海外交流が行われております。私は、平成24年に入庁し、生活環境課、(一社)京都舞鶴港振興会、みなと振興・国際交流課を勤務したのち、外務省に派遣されました。舞鶴市では国際的な業務を担当する機会がありましたが、中国・モンゴル第二課での勤務では扱う業務のスケールの大きさなどに圧倒されています。この外務省勤務では吸収できることが多く、学びの多い日々を過ごしています。
2 中国・モンゴル第二課での勤務
私の配属先の中国・モンゴル第二課は、中国及びモンゴルの経済に関する外交政策を所管しており、日々変化する国際・経済情勢のなか、各国・地域との経済面の対話及び協力の維持・強化によって我が国との経済関係を発展させていくことを主たる業務としています。
しかし、私が着任した2020年4月は全世界で新型コロナウイルス感染症が拡大していたタイミングであり、着任当初の思い出は、新型コロナウイルス感染症関連の業務一色でした。中国の新型コロナウイルス感染症の状況を毎日確認・更新し、大きな変化があれば状況を把握すべく在外公館等と連携を取り、多くの関係者に対し毎日報告する業務に追われていたことが思い出されます。多方面の関係者から連日問い合わせを多く受けていたため、この報告を待っている人が多くいることが分かり、価値のある仕事ができたことは光栄でした。
時が経つにつれ、私が担当する漁業、地方連携、科学技術・宇宙、航空、環境などの業務の時間も増え、中国・モンゴル第二課の業務により幅広くより深く携わらせていただきましたが、本寄稿にあたっては、担当する業務の範囲が広いため、地方連携と漁業の業務を取り上げたいと思います。
(1)地方連携

地方連携業務は、日中の自治体間交流等を支援する業務ですが、最も大きな業務として、「地域の魅力海外発信支援事業」があります。これは、東日本大震災後の国際的風評被害対策として開始し、食品等の輸入規制等の撤廃・緩和とともに、地方創生の一環として地方の魅力発信、各地産品の輸出促進、観光促進等を支援する事業です。昨年は、訪日観光ができない中でも、中国にいながらにして、中国の消費者に日本の地域の魅力をより一層体感してもらい、日本食、日本産品の販売促進・輸出増加に取り組むことを目的に、自治体と中国を生中継でつなぎつつ日本各地の魅力をライブ配信する中継イベントや在中国日本大使館SNS上で自治体の動画配信等を実施しました(今年度も12月から1月にかけて実施中)。事業計画策定、委託事業者を決める企画競争入札、自治体動画配信の選定、自治体との連絡・調整、委託事業者との連絡・調整等、一年間を通して本件事業を担当したことにより、多種多様なステークホルダーとどのように協力し、円滑に事業を進めていくことができるかを学ぶ良い機会となりました。なお、結果として、中継イベントでは370万人以上の視聴数、自治体動画の配信では610万回以上の視聴数を得、多くの自治体の魅力を中国人に発信することができました。
(2)日中漁業
地域の魅力海外発信支援事業のように業務の成果が直接的に目に見える業務がある一方、目に見えないところで非常にタフな交渉を続けていかなければならない業務もありました。日中漁業共同委員会は、2000年に締結された日中漁業協定に基づき、日中双方の排他的経済水域(EEZ)において、海洋生物資源を保存し、操業の秩序を維持することを目的に、相互入漁の操業条件や資源管理等について交渉してきているものですが、2016年を最後に日本水域での中国漁船の漁獲量の削減について合意できず、近年は日本海大和堆付近の日本のEEZにて中国漁船の違法操業問題が大きな問題となっていることもあり、現在まで開催できていない状況が続いています。私は、中国漁船の違法操業問題における中国側への申し入れを始め、日中間の漁業問題に関わる業務について携わりましたが、様々な周辺情報や他の交渉状況、シチュエーションなどを踏まえ、交渉のタイミングや発言の内容・トーンなど目に見えない調整を行い、外交の奥深さを感じました。また、本件は日本の漁業者の利害に直結する分野であるため、国民の関心も高く、常に緊張感を持って業務にあたることが特に求められる仕事でもありました。国の仕事がなんたるものか、特にこの日中漁業を通して学びました。この経験は外務省でしか得られないものであり、自身の成長にもつながったと思います。
3 おわりに
外務省ではこれまで経験したことのないことばかりで、周りで飛び交う用語や対応の速さ、扱う業務内容の重さなど何もかもが違いすぎて、当初は困惑しましたが、中国・モンゴル第二課の皆様の優秀さとやさしさに助けられ、何とか無事にここまでやってこられました。中国という様々な点で世界的に関心を集める国を相手にする中国・モンゴル第二課で得られた経験は、今後の在外公館でも自治体に戻っても最大限活かしていきたいと思います。