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ベトナム南部の魅力 日本からの投資に寄せる熱い想い
在ホーチミン日本国総領事館
ベトナム南部といえば、ホーチミン市をまず思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。本稿では、ベトナム経済のハブであるホーチミン市を中心とした南東地域、農水産業が盛んなメコンデルタ地域で所在する2つの市(ホーチミン市、カントー市)と16の省を紹介します。ベトナムは63の省・市で構成されており、ホーチミン市はまさにベトナム最大の人口を抱え、経済の中心です。ベトナム南部には特色豊かな省・市がありますが、日本ではあまり名前が知られていないのが実情ではないでしょうか。そのような中、ベトナム南部の地方省においても、日本企業進出に対する期待は高く、本稿では、日本と当地の間の情報ギャップを埋めるという視点で、ベトナム南部の概要について経済面を中心にお伝えしたいと思います。
1 経済を牽引する南東地域、農水産業が盛んなメコンデルタ地域
このベトナム南部(南東地域・メコンデルタ地域)について、3つの切り口(人口・地理、所得、産業構造)から眺めてみたいと思います。
まず、両地域合わせた人口は約3500万人です。これはベトナム全体の人口(約9600万人)の37%に相当します。とくに南東地域は人口増加率が全国の中で最も高く、人口の流入超過が続いている地域です。ベトナムは南北に長く、地域ごとに特徴があるのも大きな魅力です。ベトナム南部は熱帯モンスーン気候に位置し、雨季(5月~10月)・乾季(11月~4月)があり、年間平均気温は27℃と1年間を通じて暑い日々が続きます。気候の影響からか、料理の味付けも砂糖を用いた甘い味付けが多く、おおらかで前向きな人が多い印象を受けます。消費者意識として、最新のトレンドにも敏感です。
平均年間所得について、全国省・市別のランキングをみてみると、上位5省市のうち3省市が南東地域に所在する省・市(第1位はビンズオン省3,654ドル、第2はホーチミン市3,403ドル、そして第4位はドンナイ省2,926ドル(2020年))です。上位20省市まで範囲を広げるとメコンデルタ地域に所在する省・市もランクインしており、第一次産業からの収入が多い同地域の省・市においても着実に所得が伸びていることがわかります。ベトナム全体のGDPに対して、ホーチミン市は約2割弱、南東・メコンデルタ両地域で約5割を占めることから、経済面での重要性は非常に高いことがわかります。
産業構造に着目すると、ベトナムへの海外直接投資(FDI)のうち、約4割(累積額)が南東地域への投資です。ホーチミン市及びその近郊を中心に外資企業が集積しています。また、コメ、果物(マンゴー、ココナッツなど)、カシューナッツ、エビやなまずといった農水産資源が豊富なメコンデルタ地域では、労働力人口の約4割が第一次産業に就労しています。昨年、ベトナムはタイを抜いて世界第2位の米輸出国となりましたが、ベトナムで生産される米のうち56%がこのメコンデルタ地域で栽培されています。市場規模は小さいもののジャポニカ米の生産も行われており、昨年、The Rice Traderが主催した米品評会ではメコンデルタ産の米(ST25)が世界第2位に選定されました。また、環太平洋パートナーシップ(CPTPP)、越EU自由貿易協定(EVFTA)等の発効により農水産物の輸出が伸びています。これら豊富な農水産物に加え、同地域にはメコンクルーズをはじめとする観光資源もあり、発展のポテンシャルは高く、今後、高速道路や鉄道をはじめとするインフラ面の更なる改善が期待されます。
2 日系企業進出状況、地方自治体連携状況
日系企業のベトナムへの進出は、日本政府がODAを再開した1990年代以来、南部を中心にはじまりました。北部と比べ、南部では中小製造業の進出が比較的多く、日系企業の数が最も多い地域です。近年では、国民所得増加に伴う旺盛な内需を期待して、輸出加工目的ではなくベトナム国内消費者をターゲットとした小売・サービス業の進出も増えている点が特徴です。日本でおなじみの企業がホーチミン市に第1号店を構えるケースも少なくありません。
当地のホーチミン日本商工会議所(JCCH)の会員企業数は2019年に大台の1000社を超え、商工会の会員規模では世界第3位です。特に昨年来の新型コロナウイルス感染拡大にも拘わらず新規会員企業が増えている点は注目です。JCCHは、年に一回、日系企業からのビジネス環境・生活環境などに関する要望をホーチミン市人民委員会に届ける場として、「ラウンドテーブル」という枠組みを設けています。また、ホーチミン市周辺の省・市でも必要に応じて意見交換の場が設けられるなど、当地の行政機関との情報交換や意見交換の機会が確保されているのも、日系企業進出の後押しに貢献していると言えます。
日本の地方自治体との交流については、16省・市のうち、9省・市が覚書などの協力関係を築いています。新型コロナウイルスが拡大する前の2019年には延べ34の地方自治体が海外販路拡大や工業団地視察等の目的でベトナム南部を訪問しました。人の往来ができなくなった昨年は、オンライン形式でビジネスマッチングを開催する省・市もあるなど、自治体間の交流が地道に継続されています。
3 ベトナム南部地方省・市の日系企業進出に対する期待
当館が日頃、地方省・市のトップを含む関係者と接触する中で一様に感じることは、それぞれの省・市が寄せる日系企業進出に対する強い期待です。ホーチミン市やその近郊省といったすでに日系企業が数多く進出している地域だけでなく、ホーチミン市から離れ、日系企業の進出が現時点では数えるほどの省からも、「ぜひ日系企業を誘致したいがどうすればよいか」といった相談を受けます。それぞれの省・市が日系企業の進出を期待する分野、優遇政策、日本の自治体との連携希望分野などのメニューを取り揃え企業の進出に秋波を送っており、省・市の中には日本語ウェブサイトを開設したり、日本企業に対応できるジャパンデスクを開設しているところもありますが、日本に向けて情報を発信する機会が少ないことが一つの課題です。なお、当館では、ベトナム南部に進出する日本企業を対象に「日本企業支援窓口」を設置しています。詳細は当館(在ホーチミン日本国総領事館)ホームページをご覧下さい。
今後、当館(在ホーチミン日本国総領事館)のホームページにて、ベトナム南部のいくつかの省・市を取り上げ、その特徴・魅力などを連載形式で紹介していく予定ですので、そちらもご参照いただけますと幸いです。また、この機会にベトナム南部に興味をお持ちになられた方はベトナム南部の投資関連情報を統括しているIPCS(計画投資省外国投資局直属の南部投資促進センター)にご連絡ください(連絡先:bbt@ipcs.vn、英語可)。
(注)本文中の統計はベトナム統計総局(GSO)及びベトナム商工会議所(VCCI)が公開している統計を参照しています。