グローカル外交ネット
ユネスコ世界遺産に関わる外交業務(国際文化協力室)
外交実務研修員 天野 芳昭
(沖縄県から派遣)
1 はじめに
2019年4月から外務省大臣官房国際文化協力室で勤務しております、沖縄県庁の天野と申します。
これまでにJICA青年海外協力隊や外資系企業勤務を経て沖縄県に入庁、同庁では科学技術、土木建築分野の業務に従事しました。縁あって、本省2年及び在外公館2年の計4年間外務省に派遣され、間もなく本省勤務を終えようとしているところですが、今回本稿執筆の機会をいただきましたので、当室での業務概要や経験した出来事を記載させていただきます。今後、外務省で勤務される方の参考となりましたら幸いです。
2 国際文化協力室の業務
国際文化協力室は、我が国における国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)及び国連大学に関する外交政策を所管しています。ユネスコが対象とする分野は広範にわたりますが、私はその中で、ユネスコ世界遺産条約に関する手続き、特に日本からの新規世界遺産の推薦や登録済みの国内世界遺産に関する報告手続き等を、数名の室員とともに担当させていただきました。世界遺産のある地元では、環境省、文化庁、内閣官房、そして地元自治体が保全管理に携わっていますが、当室はこれらの機関とユネスコや世界遺産条約締約国をつなぐ日本政府の窓口として、世界遺産に関わっています。
3 在任中に経験した出来事
(1)「百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群 古代日本の墳墓群」の世界文化遺産登録

2019年7月6日、アゼルバイジャンの首都バクーで開催されていた第43回世界遺産委員会で、本資産は国内23件目の世界遺産として登録されました。同委員会に関し、私は日本政府代表団の一員として現地へ出張させていただき、国内及び現地関係者間の連絡調整や、現地での代表団の参加・滞在手配等の後方支援業務に携わりました。
本資産に関する審議が終了し、世界遺産一覧表への「記載」を採択する議長の木槌が鳴った瞬間、本省にその結果を速報しましたが、それから間もなく国内で「世界遺産登録」が報じられた一連の経緯が今も鮮明に思い出されます。
(2)首里城跡(「琉球王国のグスク及び関連遺産群」)の火災

2019年10月31日未明、沖縄の首里城跡で火災が発生しました。報道を確認してすぐに職場に出勤し情報収集にあたりましたが、同年4月にフランス・パリのノートルダム大聖堂でも火災が発生、重大な被害が発生したことが脳裏をよぎり、同じ年に続けて発生した世界遺産での火災に大きな衝撃を受けました。国内外関係者と連絡を取り合い現状確認と情報共有を進める中、ユネスコのアズレー事務局長から「全人類にとって大きな損失であり、日本国民に深い同情と連帯の意を表する」とのメッセージが当日中に発せられ、世界遺産に対する世界の関心の高さを感じました。
その後、現場検証が進み、世界遺産としての価値を持つ首里城跡の遺構は損失を免れたことが判明しましたが、復元建造物とは言え、沖縄県民に親しまれ沖縄の象徴の一つでもあった首里城正殿が失われたことは、本当に悲しい出来事でした。日本政府や沖縄県、その他多くの国内関係者が力を合わせ復元に向けた取組みを進めているところ、一日も早く、在りし日の姿が蘇ることを心から願っています。
(3)世界自然遺産推薦資産「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界遺産登録審議延期

沖縄・鹿児島の両県に跨る本資産は、2017年に日本の新たな世界遺産候補としてユネスコに推薦されていたものの、2018年5月、世界遺産委員会諮問機関の国際自然保護連合(IUCN)から、世界遺産一覧表への「記載延期」を勧告されたことにより、日本政府としていったん推薦を取り下げる判断がなされました。推薦内容が改めて検討された後、2019年に2度目の推薦が行われ、同年10月には、IUCNによる推薦地の現地調査も実施されました。2020年にはIUCNによる勧告と第44回世界遺産委員会での審議を控え、世界遺産登録実現に向けた準備を国内関係者とともに進めていましたが、世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、同委員会の開催及び本資産の審議は延期されてしまいました。
残念ながら私が当室に在籍している間に、地元沖縄の世界遺産の登録に立ち会うことはできませんでしたが、日本政府が積み上げてきた取組みは、今後必ず世界遺産登録につながるものと信じています。
4 終わりに
国際文化協力室で2年間、世界遺産という広く知られた制度に関わる、地方と世界の結びつきを実感できる業務を担当させていただき、とても有意義で充実した経験を得ることができました。外務省の方々の意思決定のプロセスや迅速な対応ぶりを目のあたりにして、仕事や協議の進め方として大いに学ぶものがありました。これからの2年間は在外公館勤務となりますが、外交の現場でも経験を重ね、今後の沖縄と海外のつながりや交流の一層の発展に取り組んでいきたいと考えています。
最後になりましたが、長期にわたる外務省派遣を認めてくださった沖縄県、国内外の幅広い関係者と関わる業務を担当させていただいた外務省、また様々な場面で至らない部分のあった私にお力添えやご指導をいただいた当室内外の関係各位には、この場を借りて深く御礼申し上げます。
多くの方々のご理解やご協力の下、外務省で業務に取り組むことができる巡り合わせに感謝しながら、今後も一日一日を大切に過ごしていきたいと思います。