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米国サンアントニオ市熊本園の修復事業について
熊本市都市建設局土木部
公園課 全国都市緑化フェア推進室
はじめに
熊本市は、1987年に米国テキサス州サンアントニオ市と姉妹都市提携の盟約を結び、1989年、両市友好のシンボルとして、また日本文化の一端を紹介する場として、サンアントニオ市植物園(555 Funston Place, San Antonio)の一画に、日本庭園「熊本園」を築造しました。
熊本園の概要
「熊本園」は、本市の水前寺成趣園や京都の桂離宮に代表される江戸時代前期の伝統的な庭園技法に基づいた、面積約630平方メートルの方形の池泉回遊式日本庭園で、外周は日本を代表する桂、大名、建仁寺、大津の四種の竹垣で囲まれています。
庭園内は、灯篭や手水鉢、延段、休憩しながら庭を眺めることのできる東屋が設けられているほか、水前寺成趣園を参考に、池の周りに大小の滝組、中之島、笹山、座禅石を配置し、美しい築山を数多く作りながら、その中の二つを熊本市、サンアントニオ市の山と見立てて、両市の友好の契りを中央の石橋で結ぶよう表現しています。
植栽は、現地での植生に配慮し、既存マツの利用やカエデ、竹、笹、芝など、米国内で調達可能な樹木が植え付けられており、燈篭や延段、つくばいなどの特殊な石材、竹加工材、木材については、日本から輸入して設置されました。
熊本園の修復

(2020年1月14日)
開園後、1994年と2005年の2度にわたり修復工事を実施しましたが、前回工事より15年が経過し、再び東屋や竹垣等の老朽化が進んできました。そこでこの度、国土交通省の海外日本庭園再生プロジェクトの一環として、新たな修復工事に向けた現地調査及び今後の維持管理にあたっての技術指導を、一般社団法人熊本市造園建設業協会(以下、「協会」という。)の協力の下に実施することとなりました。
まずは2020年1月、本市職員と協会の造園技術者2名がサンアントニオ市を訪問し、現地の植物園管理スタッフの案内で園内の実地調査を行い、日頃の維持管理状況を確認するとともに、修復工事の優先順位や内容、実施スケジュールについて協議しました(写真1参照)。
その結果、東屋と竹垣の修復が急務であるとの結論に至り、特に東屋は柱の損傷が激しく倒壊の恐れがあるため、まずは緊急の安全対策を行うとともに、早急に建て替えを行うことにしました。また竹垣については、老朽化による劣化がみられることから、現存のものを撤去し新設することにしました。


これまでの2度にわたる修復工事も、東屋と竹垣の修復を主に実施してきたところですが、今回の修復工事では、維持管理技術の現地移転や、資材の可能な限りの現地調達を検討するなど、現地スタッフによる継続可能な維持管理が実現できる方法で実施します。
当初、2020年度に東屋、2021年度に竹垣の修復工事を実施する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により往来が制限され、予定通りの実施が困難となったため、時期については再度調整を図っているところです。
2020年1月のサンアントニオ市訪問の際には、現地スタッフへの技術指導も実施しました。これは、日ごろ、現地スタッフが書籍やインターネットから得た情報を基に熊本園の維持管理を行っている、サンアントニオ市側からの強い要望により実施したものです。
樹木の剪定については、日本庭園に相応しい剪定方法の実演を行い、また竹垣の補修については竹垣の結び方を指導するなど、日本の造園技術者が持つノウハウやスキルを伝承する良い機会となりました。現地スタッフも、その様子を撮影し映像として記録に残すなど、熱心に日本の技術を学んでいました。(写真2、3参照)
海外に建造した日本庭園を、作庭後も適切に維持管理していくためには、管理者である外国人技術者に、日本庭園の維持管理手法を理解してもらい、さらにその手法を引き継いでもらう必要があります。そのため、帰国後、日英両言語で熊本園の維持管理マニュアルを作成するとともに、樹木の剪定技術を納めた動画を作成し、両市で共有しました。
交流
サンアントニオ市に滞在した時間は、実質2日間と大変短いものでしたが、昼間は実地調査や協議を行う一方、夜は盛大なおもてなしをいただき、テキサスサイズ(特大)の美味しい料理を囲んで、楽しい会話に花が咲きました。また、アメリカ有数の観光都市であるサンアントニオ市を象徴するリバーウォークの視察や、大型ショッピングセンターでの作業工具の調達など、サンアントニオ市の文化や日常にも触れることができ、大変貴重な経験となりました。
おわりに
熊本市は2022年(令和4年)春、全国都市緑化フェアを開催いたします。期間中、今回紹介したサンアントニオ市に加え、同様に日本庭園再生プロジェクトを実施している仏国エクサンプロヴァンス市との交流事業を予定しており、事業内容を協議するため定期的に両都市とウェブ会議を実施しているところです。
日本庭園再生プロジェクトや緑化フェアでの交流事業実施を契機に、日本庭園を活用した日本文化の魅力の発信に繋げていくとともに、日米両市両国民のさらなる友好発展へと繋がっていくことを期待しています。