グローカル外交ネット
地元の強みを生かして東京2020大会のレガシーを創出
(山梨県富士吉田市とフランス)
外務省地方連携推進室
ヨーロッパアルプスの最高峰モンブランの麓にあるフランスのシャモニー・モンブラン市と日本の最高峰富士山の麓にある山梨県富士吉田市。共にその誇りとする両山を懸け橋として1978年に姉妹都市提携に至り、40年以上にわたり交流を続けています。富士吉田市は2019年秋に開催されたラグビーワールドカップ2019日本大会でフランス代表の事前チームキャンプと公認チームキャンプを受け入れ、東京2020大会ではフランスのホストタウンとして同国7人制ラグビー男女代表チームの事前合宿を受け入れる予定です。
富士吉田市は、富士山信仰の聖地・北口本宮冨士浅間神社、富士山と富士吉田市の街並みを一望でき、四季折々の顔を見せる新倉山浅間公園、吉田のうどんなどが知られています。一方では、古くから織物の名産地としても知られており、豊富で綺麗な伏流水や養蚕に力を入れてきたことから、1,000年以上前の平安時代から織物の一大産地となり、江戸時代には高級織物として人気を博したそうです。
今回はホストタウン交流の一環として、富士吉田市の優れた繊維製品の認知を高め販路拡大につなげる目的で、国際的に活躍しているフランス人ダンサーが使用する衣装に富士吉田市の織物生地を使った取組などについて、富士吉田市から具体的なエピソードを交えてご紹介いただきます。

2018年7月に、フランス人アートディレクターのフレデリック・フォンタン氏と「20世紀で最も偉大なバレリーナの一人」とも言われるパリ・オペラ座バレエ団の元エトワール、アニエス・ルテステュ氏の2人が富士吉田市を来訪し、バレエ衣装に使用をするための織物生地の選定や製作・縫製などに関する協議を行いました。
織物生地の選定作業を実施するために、富士吉田市・西桂町の事業者の内で17事業者の協力を得て、2人に対して各事業者が取り扱っている織物生地の紹介をし、バレエ衣装に使用をする織物生地の選定を実施しました。

また、富士吉田市内の織物工場の見学を通じて、富士吉田市が優れた繊維製品の産地であることや、細い糸で繊細な絵柄を織り上げる高い技術力を有していることを肌で感じていただきました。2人の富士吉田市滞在期間中には、バレエ衣装で使用をする生地と本産地の特徴を表現したオートクチュールのドレスに関する情報共有や生地のサンプルを提供する等、お互いに顔の見える距離感だからこそ出来る貴重な時間を過ごすことが出来ました。住民交流の一環としての市民夏祭りへの参加については残念ながら台風の影響で叶いませんでしたが、富士吉田市や西桂町の織物事業者等が集まり、2人の歓迎夕食会を行い、今後のバレエ衣装の製作や公演に関する情報共有を行うと共に、お互いにプレゼント交換をする等、より一層の友好な関係性を築くことが出来たひと時を過ごすことが出来ました。
翌2019年2月にはフランスで開催されたジャポニスム2018公式企画第6回「伝統と先端と 日本の地方の底力」では、バレエ衣装とオートクチュールの衣装を多くの人達に見ていただき、これまでの生地の選定からデザイン・縫製などの経過を踏まえた動画も加えて、フランス国内において、バレエ衣装を披露する有意義な機会となりました。特に、初日に開催された「公式レセプション」では、参加自治体を代表して、富士吉田市から2人と共同で実施してきたプロジェクトの過程から今後の展望を挨拶の中で言及し、2人からは、富士吉田市の印象や織物生地の感想を踏まえて、本事業により製作したバレエ衣装とオートクチュール衣装のコンセプト等を説明しました。会場内の視線が2人と衣装に集中していました。
単に衣装の展示にとどまらず説明の機会を得たことで、より現地の方々へ効果的な発信が出来たと感じました。展示期間中は多くの来場者にバレエ衣装とオートクチュール衣装のほか、同会場内において、富士吉田市の繊維製品を扱った品物(ハンカチ・スカーフ・傘など)も合わせてご覧いただき、来場者には本産地の織物生地の良さやバレエ衣装に使用された生地を間近で見られる貴重な機会となりました。

2019年8月に山梨県甲府市で開催された「PARIS BALLET LEGENDS」パリ・オペラ座ダンサーたちによる夢の競演)は、富士吉田市と連名でフランスのホストタウンとなっている山梨県が運営の中心を担い、当日は、県内バレエ教室に通う小学生の「花のワルツ」から始まり、富士吉田市の織物生地を使用したバレエ衣装による演目が実施されました。フレデリック・フォンタン氏による振付をダンサー等全員が演舞した姿やアニエス・ルテステュ氏の演舞する姿は、会場を埋め尽くした県内外からの来場者の心に響き、フィナーレは拍手喝采で幕を閉じました。演目以外にも、会場入り口に展示をしたオートクチュール衣装には、人の流れが切れることなく、多くの来場者が貴重な衣装を写真に収めていました。
本公演に際しては、山梨県と富士吉田市のみではなく、織物協同組合や芸術文化協会、そして多くの協賛企業などの力が集結して実現できた事業であり、その結果、当日は約1,400名の来場があり、県内外に広く富士吉田市の織物をアピールすることができました。
こうした一連のプロセスは、多くの方々に支えられ実現できたものです。何よりも、フレデリック・フォンタン氏との素晴らしい出会いからスタートし、バレエ公演に向けての展望や富士吉田市の織物生地に興味を持っていただいたことや、パリ・オペラ座をはじめ世界の権威ある劇場を舞台に長きにわたり活躍し、今回の衣装デザインを担当したアニエス・ルテステュ氏との奇跡とも言える出会いが、今回の素晴らしい事業の成功につながったものと考えます。本事業に関わる全ての方々の情熱が、日本の伝統技術である「織物」と、フランスの文化を代表する「バレエ」を見事に融合させ、プロジェクトを成功に導いてくれたものと心より感謝しています。
富士吉田市では、本プロジェクトが、国内外のメディアにも取り上げられたことで、多くの方々に触れ、その結果、高い技術を有する優れた繊維製品の産地として本市及び本地域の認知を高めることが出来ました。繊維産地としての国際化を一層促し、国際市場への進出など販路開拓に繋がった稀なプロジェクトとして、事業の成功に誇りに感じ、今後も本事業を契機とした国内外の販路開拓と拡大に努めていきたいと考えます。
この他にも、富士吉田市はフランスを交流の相手国とする富士北麓の近隣自治体(富士吉田市・西桂町・忍野村・山中湖村・鳴沢村・富士河口湖町)と連携して2018年11月に「フランスホストタウンフェス in 富士北麓」を開催し、多くのフランス人と富士北麓地域住民との間で食や文化・芸術に関する交流を実施しました。イベントでは、各自治体がホストタウン交流事業の取組を紹介するブースや、フランス商工会議所やエールフランス航空等のフランス関連団体の協力を得て「エールフランス航空で行く!モニタリングツアー」等のクイズ形式で行う企画を実施しました。また、市内のフランス料理店にも協力をしていただき、来場された方々にフランス料理や県産ワイン等の飲食の提供やマヨネーズ作りの体験等を行うことで、フランス共和国の人々と富士北麓地域住民との交流を行いました。
また、富士吉田市文化祭とも連携し、フランスの方々に、市民による日本の文化・芸術の展示とともに、茶道や生け花・書道などの体験コーナーを通じて日本文化に触れていただきました。当日は、駐日フランス大使館関係者やラグビー元代表キャプテン、ツアー会社等、多くのフランス関係者に参加いただき、地域住民と触れ合うイベントとなりました。イベントの幕開けには、来場された皆さんにフランス国旗をイメージした「青・白・赤」の風船を配布し、一斉に空へと放たれた風船はイベントを盛り上げる最大の演出となりました。それに加えて、本市の姉妹都市である「シャモニー・モンブラン市」の芸術家が本市を訪れて、イベント開催中に絵画を描き上げる演出を行い、ステージ上にて披露された絵画はイベント終了後も、富士吉田市役所で飾られました。
本事業は、上記のようにホストタウン交流事業の取組みをPRする場である一方で、本市がフランスのシャモニー・モンブラン市との姉妹都市締結40周年という節目の年である記念事業として、富士吉田市文化祭とタイアップして芸術・食文化など交流を図ることができ、イベント当日は約3,000名の方が来場され、多くの人達に楽しんでいただく機会となりました。
東京2020大会に向けたフランス7人制ラグビー男女代表チームの事前合宿受入を契機として、同国ラグビー連盟との交流を引き続き行い、シャモニー・モンブラン市との姉妹都市提携45周年の節目にあたるラグビーワールドカップ2023フランス大会開催年には、記念事業の企画も考えています。
そして、翌2024年は、パリオリンピック・パラリンピック競技大会開催のため、これらの大会を契機としたホストタウン交流事業を引き続き展開していくと共に、スポーツ分野のみならず、地場産品の情報発信や販路拡大の促進、世界における観光認知度の向上・来訪促進等も図ることで、スポーツ・観光・文化等といった多種多様な交流を通じて、本大会を契機としたレガシーを創出していきたいと考えます。