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フランス人の私がなぜ鳥取県三朝町を好きになり移住を決意したのか



SNS用の写真撮影
三朝町 地域おこし協力隊
リエヴェン・アントニー
私はフランスの北西にあるノルマンディー地方で生まれ,田舎の子として育ちました。小さい頃から村の外のことに関心を持っていました。でも残念ながら旅行があまりできない家庭だったので,代わりに映画を通じて旅に出ていました。何歳だったかはっきり覚えていませんが,小学校低学年の頃に初めて日本の映画を見ました。黒澤明の「七人の侍」でした。字幕がほとんど読めなかった私はこの50年代の白黒映画に何か新しく,今まで見たことがない風景を見ました。また,普遍的なストーリーに魅了された印象的な体験でした。大人になって振り返ると映画で旅をしていたと言えます。それ以来,日本に行きたいという夢ができ,自分自身のストーリーを描く映画が始まったきっかけとなりました。
高校卒業後,日本に行きたい気持ちが強くなり,それを目標に2004年に大学で日本語を勉強することにしました。なぜかというと,日本に行きたければまずは日本語を勉強するべきだという単純な考えでした。勉強に熱中していたらいつの間にか日本に行くチャンスに繋がり,子供の頃は遠いと思っていた夢が目の前にありました。2007年に大学の企画で初めて旅行ができました。一か月間の滞在で,主な場所は京都,鬼怒川温泉と沖縄でした。最高の体験だったので,もう一度日本に行くことを決意しました。次の年,大学院一年生として関西大学に留学することになり,日本語の勉強に加えて映画に関する研究もしました。一年の留学を終え,フランスに帰ってもう一年勉強して大学院を卒業しました。
卒業後,大学で紹介されたJETプログラムに合格し,2011年から5年間鳥取県三朝町の国際交流員を勤めました。それが三朝町と出会ったきっかけでした。国際交流員の仕事は姉妹都市との交流と町民の方との交流が主な内容でしたが,映像で三朝町の魅力をアピールする活動もしました。映画好きな私は三朝町を舞台にした映画も2本作りました。小学生が三朝を救う「三朝少年物語」とマスコットキャラクターの湯けむり怪獣ミササラドンが主人公となる「らどんな一日」でした。多くのメディアに取り上げられた企画になり,町の魅力の発信に貢献した実績です。2016年に国際交流員の任期を終え,自分の人生の大きな区切りとなりました。私のストーリーを描く映画はここで終わりましたが,続編があります。
その後3年間三朝町を離れた後,2019年に地域おこし協力隊としてもう一度三朝町で活躍をするチャンスを得たのです。戻った理由は主に二つあります。一つ目は心の中で三朝にいたい気持ちが強かったからです。もう一つは新たな形でもう一度町に貢献するチャレンジをしたかったからです。新たなストーリーの始まりです。
全国的にインバウンド客が増え,三朝町を訪れる外国人観光客も急増し,2018年に年間2万人を突破しました。新型コロナウイルスの影響で流れが一転しましたが,三朝町でもインバウンド対策が必要です。私は地域おこし協力隊として三朝町の観光案内所に勤務しており,主なミッションとしてインバウンド対策と情報発信の業務を担ってきました。
これまでに私が関わったインバウンド対策は,多言語の案内看板とパンフレット作成,観光案内所での英語案内の改善,町内の旅館や施設へのサポートなどです。また,新型コロナウイルスの影響でインバウンド客がしばらくの間減っても,復活に向けて対策を続けております。例えば,5月に旅館・ホテルの従業員を対象に英語会話教室を行い,パンフレットの増加(追加言語)を行っているところです。また,観光協会の公式ホームページの多言語化を進めております。ホームページに関しては情報発信の拠点になるので,私が担当して完全リニューアルも行いました(2020年4月公開)。リニューアル後の更新も担当し,さらにSNSでの情報発信を強化するために,インスタグラム
とフェイスブック
を中心に日本語と英語で投稿しています。そのような対策でインバウンド対応がよりスムーズになり,三朝町の魅力を広く伝えるツールができました。今後も継続するのが鍵だと思っています。
また,個人的な思いとしては,インバウンド客だけではなく日本人の方にもこの地域の素晴らしさを再発見してもらいたいです。近年,三朝温泉を訪れる国内のお客さんが減っている厳しい状況の中,新型コロナウイルスの影響で今までになくさらに深刻になりました。自分ができることでお客さんが増えたら,町への貢献に繋がると考えています。そのために自分は何ができるかを考えることが毎日の課題です。もちろん具体的な対策が必要ですが,自分の思いを伝えることも大切です。三朝町は人々に感動を与える普遍的な魅力のある町ですから,その感動をたくさんの方に感じてもらいたいのです。私が三朝町にいることでその魅力が日本人の方にも伝われば,町に貢献できますし,地域おこし協力隊としても成功です。
最後に,最近,三朝温泉の「お湯」の価値を再発見した機会をご紹介します。ラドン温泉である三朝温泉は細胞を活性化させ,免疫力や治癒力を高める効能が期待できます。新型コロナウイルスで,ヘルスケアや健康意識が高まったことで,三朝温泉の効能がさらに期待されており,三朝温泉の素晴らしさを再認識するチャンスとなっています。それを感じたきっかけは5月にあった三朝温泉の一斉休業でした。その期間は温泉を楽しむことができませんでしたが,毎日お客さんから問い合わせがあり,三朝温泉のおかげで健康状態が良くなったのにと言って三朝温泉の営業を望む方が多くいらっしゃいました。それを聞いた私はお湯が貴重な資源だと改めて思い,人々を癒す三朝温泉の力を実感しました。自分の活動でもどのように温泉の良さを効率的にアピールできるか考えるべきだと感じました。
そのような気づきが三朝町に貢献できる活動に繋がったらいいなと思います。三朝町は私にここに住みたいと思わせてくれた町なので,恩返しをしたいです。三朝町の良さが国内外に伝わり,三朝温泉を訪れて癒される方が増えれば,その恩返しへの第一歩だと信じています。