グローカル外交ネット

令和2年2月25日

外務省大臣官房地方連携推進室

 ホストタウン交流を通じて,次世代を担う子供たちが多様性を理解し,国際社会でも通用する人材に育ってほしい。こうした願いを持つ地方自治体の関係者の声を何度か耳にしてきました。全国で若い世代が中心となって進めているホストタウン交流は数多くありますが,今回は福島県内の2つの自治体に焦点を当て,その取組を紹介します。

福島県飯舘村&ラオス

(写真1)ようこそ!飯舘中へ!と飾り付けられた黒板 ラオス・ドンニャイ村からようこそ!飯舘中へ!

 東北・山形新幹線の福島駅で下車し,バスに揺られること約1時間。右手に木造平屋造の建物が見えてきます。福島県飯舘村で住民交流や情報発信拠点にもなっているいいたて村の道の駅「までい」館です。「までい」という言葉は飯舘村で使われている方言で「手間ひまを惜しまず」「丁寧に」「つつましく」という意味を持ち,復興ありがとうホストタウンの相手国であるラオスの人々を最初にお迎えするのにふさわしい場に思えます。

 飯舘村とラオスとの交流は,2009年にラオスやベトナムで学校建設等の活動を行うNPO法人「アジア教育友好協会」が飯舘村で出前講座を行った際,村の小学生がラオスの人々の心の豊かさと,十分でない教育環境について学んだことがきっかけです。その後,小学生を中心に,ラオスに学校を寄贈するための募金活動やふるさと納税の呼びかけが行われ,集まった寄付金をラオス・ドンニャイ村の中学校の建設費用の一部として支援しました。この中学校の完成を待つ最中に,東日本大震災が発生したのです。

 ドンニャイ村民は飯舘村に祈りをささげ,米や鶏などの食料をお金に替えて寄付を出し合い,飯舘村に激励のメッセージとともに送り届けました。その後も飯舘村とドンニャイ村との交流は続き,飯舘村はラオスの選手に村で練習してもらい,同時に復興している姿を世界に発信したいとの思いでラオスの「復興ありがとうホストタウン」に登録され,2019年9月にはラオスのパラリンピック水泳選手の合宿も実現しました。

(写真2)記念写真の様子 共同制作したTシャツを着て記念写真に望むドンニャイ村と
飯舘村の中学生

 今年1月には,飯舘村は2016年10月以来となるドンニャイ村の中学生を含む受入れを行いました。前夜から降り続いた雪が積もった様子や子供たちが作る雪だるまはラオスの人々にとって珍しく,表情を輝かせて飯舘中学校での交流事業に参加しました。飯舘中学校では,現在も生徒の多くが村外からスクールバスで通っているそうですが,震災後にリフォームされた校舎は木のぬくもりを感じさせる温かい雰囲気です。
 「いつか自分の力で憧れの日本を再訪したいです。」と夢を語るドンニャイ村の中学生。ドンニャイ村で生産するコーヒー豆の豊穣を祈願した踊りが披露され,応援Tシャツの制作,地元産品を用いた給食,英単語のカードゲームを使った交流事業など,かけがえのない時間を共有しました。

 飯舘中学校ではふるさと学習を進めていますが,ふるさと飯舘村のよさでホストタウン交流を行っているラオスのみなさんをおもてなししようとテーマを設定し,生徒が中心となって食,ものづくり,メディアなどの班に分かれて探求学習を行っているそうです。これからもラオスとの末永い交流の担い手として期待されています。

福島県広野町&アルゼンチン

(写真3)ふたば未来学園のカフェコーナー ふたば未来学園のカフェコーナー。生徒が運営し,地域住民にも開かれています。

 2019年,サッカーのナショナルトレーニングセンターのJヴィレッジが全面再開を果たしました。そこから遡ること17年。2002年日韓サッカーワールドカップ開催時には,かつてのJヴィレッジで世界有数のサッカー強豪国アルゼンチンA代表のバティストゥータ,シメオネ,ベロン,サネッティなど錚々たるメンバーが事前合宿を行っていました。当時,A代表及び帯同したユース選手と住民との交流が実現すると,こうした縁が2020年につながり,Jヴィレッジが置かれる広野町と楢葉町,アルゼンチンのコスキン市と交流のある川俣町の3者連名でアルゼンチンの復興ありがとうホストタウンに登録されました。

 アルゼンチンはパラリンピック競技のブラインドサッカーでも世界ランキング1位を誇る強豪国です。2019年11月にJヴィレッジで行われた「復興ありがとうホストタウンイベント」の一環としてブラインドサッカー日本代表チームとの親善試合を行ったアルゼンチン代表チームはホストタウン住民との交流や茶道など日本文化を体験し,帰国の途につきました。

 その交流を行った場所の一つが広野町に所在する「ふたば未来学園」です。現在,休校になっている5つの県立高校が前身となり2015年に高等学校が先行開校,2019年に中学校が開校し,併設型の中高一貫校として開校しました。ふたば未来学園はスポーツ強豪校としても知られていますが,特にバドミントンについては前身の高校の一つ富岡高校の伝統を引き継ぎ,開校以来4年連続で全国大会を制覇しており,レスリングやサッカーなどの競技でも有数の強豪校に数えられます。
 ふたば未来学園のサッカー部員にとっては,同校を訪れたアルゼンチン代表とのブラインドサッカーの試合は忘れられない経験になったようです。普段はサッカーの技術に自信を持つ生徒も目隠しをした途端に足下がおぼつかなくなり,音や声がけだけを頼りに華麗なプレーを披露する代表選手の能力に圧倒されてしまいました。ただ,その後は代表選手が手に持つメダルを最初に触った人の恋が成就するといった遊びでは,メダルめがけて高校生が殺到するなど,楽しく親密な時間も共有したそうです。

 ふたば未来学園では「多様性を楽しむこと」を重視しているそうです。こうした海外で活躍するパラリンピック選手と心を開いて向き合う経験を通じて,感受性が豊かな高校生が世界の広さを知り,多様性を受け入れ,人がもつ無限大の可能性を感じることは,まさに様々なバックグラウンドをもつ人が手を取り合い,受け入れる,暮らしやすい社会の実現につながるのではないでしょうか。

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会が残すレガシーとは何か。今回ご紹介した交流には,この問いに対するヒントが隠されているように思えます。

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