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令和元年8月26日

国土交通省都市局公園緑地・景観課緑地環境室
国際緑地環境対策官 脇坂隆一

神戸市建設局公園部整備課
吉﨑 文人

1 はじめに

 海外に日本庭園がどのくらいあるかご存じですか?
 東京農業大学の調査によると、世界で500以上の日本庭園があり、これまでに北米や西欧を中心に100以上の国と地域に整備されています。
 そもそも、海外の日本庭園が注目されたのは、19世紀における万国博覧会で明治政府が日本庭園を出展したことにはじまります。これが西欧におけるジャポニズムブームを巻き起こす中、富豪の邸宅や植物園などに見よう見まねで日本庭園が作られはじめ、戦後においては平和国家日本の国際交流のツールとして、海外の文化施設や大使館、また姉妹都市の交流の一環として相手国の求めに応じて日本庭園が造られました。特に米国では、日本庭園はZen Gardenとも呼ばれ、禅や茶道の空間として、心の疲れを癒やす場としても人気を博しております。

2 海外日本庭園の現状と課題

 このような状況の中、近年では、1993年にJGS(英国日本庭園協会:Japanese Garden Society, UK)、2011年にNAJGA(北米日本庭園協会:North American Japanese Garden Association)が設立され、海外において独自に日本庭園愛好団体が活動するようになっております。
 何をもって日本庭園と呼ぶのかは様々な考え方がありますが、一般的に日本庭園は日本の四季の風景を岩石や土、木材や竹、樹木や草本といった自然物で表現した庭園ですので、樹木の剪定や竹垣の更新などといった定期的な維持管理が不可欠です。しかしながら海外には日本庭園の知識がありその管理に熟達したいわゆる日本の「庭師」がいるわけではないため、その適切な管理が困難となっている事例もみられ、それに対する国内外のサポート体制もない状況でした。

3 海外日本庭園再生プロジェクトの立ち上げ

 国土交通省では、外務省と連携して平成29年度から「海外日本庭園再生プロジェクト」を立ち上げました。これは、在外公館から寄せられた海外日本庭園の修復要請の中から、相手国側の協力体制や庭園の維持管理体制が整っており、修復効果が高いものについて、日本の造園業関係団体から技術者を派遣し、現地の技術者とともに修復を行い、あわせて講習会や管理マニュアル等によりその適切な維持管理を図るものです。初年度は2箇所の日本庭園を修復しました。
 あわせて総務省と連携して国内の全自治体に海外姉妹都市等にかかる日本庭園現況調査を行ったところ、108の自治体から152の日本庭園の報告があり、これらのうち、国土交通省による修復支援制度があれば活用したい意向のある庭園が22に上ったことから、2年目の平成30年度はその門戸を在外公館から姉妹都市にも広げ、6箇所の日本庭園を修復しました。

4 米国フィラデルフィア市「フェアマウント公園松風荘庭園」の取組事例

 今回はその中で、神戸市の親善協力都市である米国フィラデルフィア市フェアマウント公園松風荘庭園の修復事業について紹介します。
 この日本庭園は1876年開催のフィラデルフィア万博に日本代表団が整備した日本庭園がもとで、展覧会閉鎖後にいったん取り壊され、1905年に再度日本庭園が造られ、建物は1954年にニューヨーク現代美術館内で展示されていたものを1957年に移築したものです。2018年5月に神戸市の相楽園との間で庭園連携の調印を行った縁もあり、国土交通省の海外日本庭園再生プロジェクトに選定され修復が行われました。
作業に当たっては、神戸市より2名、(一社)神戸市造園協力会からの技術者3名が派遣され、フェアマウント公園の技術者3名及びフィラデルフィア日米協会から10名が通訳等サポートを行う形で、2018年10月19~25日にかけて修復がなされました。
 作業内容は、飛び石が途切れている園路での飛び石の設置、樹木の剪定、移植を予定しているマツの根回し、四つ目垣の設置、鹿威しの新規設置、石段の改修といった内容でした。作業期間中に松風荘庭園開園60周年記念イベントや、フィラデルフィア市役所の表敬なども行われ、神戸市とフィラデルフィア市の交流に大きく寄与しました。
 これまでほぼ手付かずの状態であった樹木の剪定や当初の設計図にあるが現在は無くなっていた園路の修復作業等ができ、結果についてもとても満足していただけました。また、松の剪定や生垣設置講習の実施により、現地の管理スタッフの管理技術のスキルアップに貢献できたのではないかと思います。
現地に赴くまでには作業の段取りや材料の手配等についてEメール等で入念に打ち合わせを行いましたが、実際に到着してみると板石の納入が間に合わなかったり、生垣の支柱や鹿威しに合う水中ポンプを購入するためにホームセンターを何軒も周るなど、発生したトラブルに現地のスタッフと協力しながら取り組んだことで、なんとか作業を完了することができました。
 日本から庭園技術者が訪れて技術指導を行うのは初めてということで、非常に歓待を受けました。今後もこれをきっかけに日本庭園を通じた技術や文化の交流が継続できればと思います。

  • (写真1)現地スタッフと記念撮影
    鹿威しの完成
    (現地スタッフと記念撮影)
  • (写真2)樹木の剪定の状況
    樹木の剪定の状況
  • (写真3)飛び石の設置状況
    飛び石の設置状況
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