地球環境

地球の持続可能性に関するハイレベル・パネル(GSP)
報告書
要旨

平成24年1月

強靱な人々,強靱な地球
選択の価値ある未来

I.ビジョン:選択の価値ある未来

 25年前,ブルントラント報告書が,経済成長,社会的公平及び環境の持続性のための新しいパラダイムとして,持続可能な開発の概念を国際社会に導入した。ブルントラント報告書は,持続可能な開発は,これら3つの柱すべてを含む統合された政策枠組みにより達成可能であると論じた。それ以降,世界は,我々が直面する相互に関連する課題についての理解と,持続可能な開発が人々が自らの未来を選択する上で最善の機会を提供するものであるとの認識を深めてきた。地球の持続可能性に関するハイレベル・パネルは,行動するコストと行動しないコストの双方を明らかにすることにより,政治プロセスが,持続可能な未来のための行動に必要な議論と政治的意志を呼び起こすことができると論じる。パネルの長期的ビジョンは,貧困を削減し,格差を是正し,成長を包摂的なものとし,生産と消費をより持続可能にしつつ,気候変動に対処し,その他地球の限界を尊重する,というものである。この観点から,この報告書は,持続可能な地球,公正な社会,そして成長する経済に向けたパネルのビジョンを前進させるため,様々な提言を行う。

II.持続可能な開発の現状

 持続可能な開発は目的地ではなく,適応,学習及び行動のダイナミックなプロセスである。それは,相互関連性-特に経済,社会及び自然環境の間の相互関連性-について認識し,理解し,そして行動することである。世界はいまだこの道に立っていない。進捗はなされたが,十分に速くも深くもなく,より広範な行動の必要性はますます喫緊なものとなっている。同時に,我々は,力強い変化の推進力の挑戦をますます受けており,それには,現在の生産及び消費のパターンの影響,資源不足,イノベーション,人口動向,世界経済の変化,グリーン成長,格差拡大,政治ダイナミズムの変化及び都市化が含まれる。

III.持続可能な選択を行えるように人々の能力強化を図る

 我々が社会により大きな影響を及ぼすようになるにつれ,我々が地球に与える潜在的影響はより大きくなり,持続可能に行動する我々の責任も大きくなる。このことは,グローバリゼーションと天然資源の制約により,個人の選択が地球規模の結果をもたらし得る今日,かつてなく該当している。しかしながら,あまりにも多くの人々にとって,問題は持続不可能な選択ではなく,そもそも選択肢がないことである。真の選択は,人権,基本的要求,人間の安全保障及び人々の強靱性が確保されて初めて可能となる。行動のための優先事項は,以下を含む。

  • 開発の基礎の実現:貧困削減,人権及び人間の安全保障の促進及びジェンダー平等の進展に対する国際的なコミットメント
  • 持続可能な開発のための教育の推進。これには,中等教育及び職業訓練,並びにすべての社会が今日の課題に対処するための解決に貢献し,機会を活用することを助ける技術の養成が含まれる。
  • 雇用機会の創出。グリーンで持続可能な成長を促進するため,特に女性及び若者の雇用。
  • 消費者に持続可能な選択と個人及び集団の責任ある行動の促進を可能とすること。
  • 資源の管理及び21世紀の緑の革命を可能にすること:農業,海洋及び沿岸システム,エネルギー,技術並びに国際協力
  • 健全なセーフティ・ネット,防災,適応計画を通じた強靱性の構築

IV.持続可能な経済に向けて

 持続可能性の達成は世界経済の変革を必要とする。周辺を繕っても意味がない。現在の世界経済危機は,多くの人に既存の世界経済のガバナンスのパフォーマンスに疑念を抱かせたが,実質的な改革の機会を提供している。それは,我々に対し,金融制度だけでなく,実体経済において,グリーン成長に向けて決定的な移行を行う機会を提供する。政策行動が多くの主要な分野で必要であり,それには以下が含まれる。

  • 社会面及び環境面のコストを財とサービスの規制及び価格に含めるとともに,市場の失敗に対処する。
  • 投資や金融取引において長期的な持続可能な開発をより重んじるようなインセンティブ・ロードマップの創出。
  • 持続可能な開発のための資金の増大。これには,公的・民間資金や新たな資金を大規模に動員するためのパートナーシップが含まれる。
  • 持続可能な開発の指標を策定することにより,持続可能な開発の進歩の計測方法を拡大。

V.制度的ガバナンスの強化

 持続可能な開発を実現するために,地方,国家,地域,世界のレベルで制度の効果的な枠組みと政策決定過程を構築する必要がある。我々は,単独の問題(サイロ)について設立された分断された制度の遺産,リーダーシップや政治的スペースの欠如,新たな課題や危機に適応する際の柔軟性の欠如,課題と機会の双方を予測し計画することの度重なる失敗-これらのすべては,政策の決定と実施の双方を損なうものである-を克服しなければならない。国家及びグローバルなレベルで持続可能な開発のためにより良いガバナンス,一貫性及び説明責任を構築するための優先行動分野には以下を含む。

  • 地方,国家,国際レベルでの一貫性の改善
  • 持続可能な開発目標(sustainable development goals)の策定
  • 定期的な世界の持続可能な開発に関するアウトルック・レポート(global sustainable development outlook report)の作成。これにより現在様々な制度に散逸している情報や評価を集約し,統合的な分析を可能とする。
  • 世界の持続可能な開発のための理事会(global sustainable development council)の創設の検討を含む,国際制度の再活性化及び改革に対する新たなコミットメント。

結論:行動の呼びかけ

 行動的なフォローアップが今や決定的に重要である。パネルは,国連事務総長に対し,その権限内に入る提言の実施と国連全体ですべての提言に取り組むことを期待する。パネルは,また,事務総長と国連に対し,すべてのレベルの政府,国際機関,市民社会,科学コミュニティ及び民間セクターを含め,広く国際社会において提言を推進するため,組織の招集能力を活用することを期待する。

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