気候変動問題は、先進国、開発途上国を問わず、国境を越えて人間の安全保障を脅かす喫緊の課題であり、国際社会の一致団結した取組の強化が急務となっている。2007年11月、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書統合報告書が公表され、各国が現在の気候変動の緩和政策および持続可能な開発を実践しても、世界の温室効果ガス排出量は今後数十年間増加し続け、温室効果ガスの排出が現在以上の速度で増加し続けた場合、21世紀にはさらなる温暖化がもたらされ、その規模は20世紀に観測されたものより大きくなる可能性が非常に高いと予測しており、この問題の深刻さと速やかな対応の必要性を示唆した。
気候変動問題に対処するための国際的な法的枠組みは、各国の基本的な取組を規定する気候変動枠組条約(注1)、同条約を受けて先進国に対して2008年から2012年の温室効果ガスの具体的な排出削減目標等を定める京都議定書(注2)が採択されている。現在、2012年に終了する京都議定書第一約束期間後、即ち2013年以降の排出削減の在り方及び次期枠組み構築に関する交渉が、国連の下で行われている。
京都議定書は、排出削減に関する各国の具体的な義務を定めたという点で画期的であるが、同議定書には、世界全体の排出量の約2割を占める米国が参加せず、同じく約2割を占める中国が排出削減義務を負っていない等、排出削減義務を負う国の排出量は世界全体の約3割に過ぎないという点で不十分である。世界全体での温室効果ガスの排出削減を実現するためには、すべての国が排出削減に取り組む必要があり、先進国が大幅な排出量の削減を達成することによって世界全体の取組を主導する必要があるが、同時に、途上国、特に排出量の大きい主要途上国は、その責任と能力に応じて、排出削減のための行動をとる必要がある。
2009年9月、鳩山総理(当時)は国連気候変動首脳会合において、先進国は率先して排出削減に努める必要があるとの観点から、日本も長期の削減目標を定めることに積極的にコミットしていくとともに、中期目標についても、温暖化を止めるために科学が要請する水準に基づくものとして、すべての主要国による、公平かつ実効性のある国際枠組みの構築と意欲的な目標の合意を前提に、温室効果ガス排出量を1990年比で言えば2020年までに25%削減することを目指すと発表した。その後、排出削減等の気候変動対策に取り組む開発途上国、及び気候変動の悪影響に脆弱な開発途上国を広く対象として、国際交渉の進展状況を注視しつつ、2012年末までの約3年間で、官民合わせて1兆7,500億円(おおむね150億ドル)規模の支援(うち公的資金1兆3,000億円(おおむね110億ドル))を実施することを気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)の場において発表した。この発表は、各国から歓迎されるとともに、交渉の進展に弾みを付けた(参考:「鳩山イニシアティブ」における2012年末までの途上国支援について(PDF))。日本はこの方針に基づき,2011年10月末現在で125億米ドル以上の支援を既に実施している。(資料)
国連気候変動枠組条約第16回締約国会議(COP16)においては2013年以降の国際的な法的枠組みの基礎になりうる,包括的でバランスのとれた「カンクン合意」が採択された。これにより,我が国が目指す、すべての主要国が参加する公平かつ実効的な国際枠組みを構築という目標に向けて交渉が前進した。本年末に南アフリカ・ダーバンにて開催される気候変動枠組条約第17回締約国会議(COP17)に向けて引き続き国際交渉においてリーダーシップを発揮していく。
(注1)気候変動枠組条約
大気中の温室効果ガス(二酸化炭素、メタン等)の増大が地球を温暖化し自然の生態系等に悪影響を及ぼすおそれがあることを背景に、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを目的として、1992年の地球サミット(UNCED、於リオ・デ・ジャネイロ)で署名のため開放された条約。1994年に発効。現在我が国を含む195カ国及び欧州連合が締結(平成23年11月現在)。
(注2)京都議定書
気候変動枠組条約の目的を達成するためCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)で採択された議定書。先進国等に対し、温室効果ガスを1990年比で、2008年-2012年に一定数値(日本6%、米7%、EU8%)を削減することを義務づけている。また、右削減を達成するための京都メカニズム等を導入。ロシアの締結により発効要件が満たされ、平成17年2月16日に発効。我が国は平成14年6月4日に締結。現在192カ国及び欧州連合が締結(平成23年11月現在)。