平成23年8月8日
8日,20時10分からの約20分間,飯倉別館において,訪日中の潘基文国連事務総長と松本大臣との会談に引き続き,共同記者会見が行われたところ,概要以下のとおり(同時通訳)。
潘基文国連事務総長の来日を歓迎する。事務総長には毎年訪日頂いているが,今回は,8月7日及び8日に東日本大震災の被災地である福島を訪問され,佐藤福島県知事との意見交換に加え,福島市及び相馬市では被災者と交流された。事務総長が示された国連の連帯と支援は被災者を勇気づけたものと確信。また,我が国は,これまで頂いた国際社会の暖かい支援を踏まえ,既に表明した国際的コミットメントは誠実に実行していくこと及び「開かれた復興」を進めていくことをお伝えした。
今回の会談では,まず潘事務総長の再任決定にお祝いを申し上げ,その上で,国際社会の主要な課題について話し合った。
防災については,第3回国連防災世界会議の日本開催を目指していることをお伝えし,これに対し,事務総長より歓迎の意を頂いた。
原子力安全については,我が国は積極的に取り組んでいく考えであり,9月に開催される国連の原子力安全及び核セキュリティに関するハイレベル会合についても積極的に貢献していきたい旨,また,来年にはIAEAと共に原子力安全に関する国際会議を開きたい旨述べたところ,これに対しても,事務総長より歓迎の意を頂いた。
核軍縮・不拡散についても話し合った。事務総長は昨年,広島・長崎に訪問しており,「核兵器のない世界」の実現に向けて,強い意志を示された。これに対しては,我が国はその実現に向けて最も強い意志を持つ国の1つであることをお伝えした。
地域情勢については,PKOを含む南スーダン,飢饉に見舞われているアフリカの角情勢,北朝鮮情勢について話し合ったが,我が国の拉致問題を含めて,事務総長の理解を得た。
安保理改革を含む国連改革については,改革の実現のため,柔軟性をもって幅広い国々と協議・協力していくという我が国の決意を改めて事務総長に伝え,ご理解願った。
今回の事務総長の訪日を契機に,我が国と国連との連携を進めたい考えており,また進むものだと思う。
(以下,日本語)
日本のみなさま,こんばんは。
松本大臣との会談では,日本と国連との関係について,とても有意義な話し合いを持つことができた。日本は国連にとって重要な国の1つであり,日本にとっても国連は重要な組織である。日本が東日本大震災より早期に回復し,国際社会への貢献を強化していくことを期待している。世界も国連も応援している。力を合わせて頑張って頂きたい。
(以下,英語)
3月11日に津波が襲ったとき,日本の様子を見て大変な衝撃を受けた。多くの人命が失われたことは本当に悲しいが,そこには希望の光もあった。日本国民が強いリーダーシップと意志を持って険しい道に進んでいる姿に希望を感じた。今回の経験をぜひ世界と分かち合ってほしい。日本だけではなく,世界も学ばなければならない。
今回は,被災地を訪れることができたが,あづま総合運動公園体育館のメインアリーナでは多くの被災者の方と直接お会いし,国連は出来る限りのことを行って二度と同じような災害が起こらないようにしてほしい旨伝えられた。また,福島南高校の高校生とも話をしたが,今後国連と国際社会が一緒になって防災を推進し,原発事故を減らしていってほしい旨伝えられた。その意味で,日本が来年,大規模災害に関するハイレベル会合を開催すると表明したことを歓迎する。また,2015年に第3回国連防災世界会議を日本で開催するという希望をもっていると聞き,心強く思っている。
松本大臣とは,地域の問題についても話し合った。日本政府が,非常に寛大な支援をアフリカの角に住む人々に寄せたことに感謝を申し上げる一方,この地域におけるより一層の協力をお願いした。1,200万の人々が苦しんでいる中,世界からの支援が必要であると菅総理及び松本大臣に要請したところ,前向きに検討するとのことであった。
また,国連と日本が共に世界で,特にアフリカでの平和と安全保障を維持するために,どのような協力ができるかについても話し合った。とりわけ,自衛隊施設部隊のアフリカPKOミッションへの派遣をお願いした。日本政府は,ハイチにPKOを派遣しているが,昨年1月のハイチの地震直後に,世界に先駆けて自衛隊の施設部隊を派遣し,ポルトー・プランスやドミニカ共和国での復旧工事に携わってもらった。いわゆるロジ面,救援物資や人を運ぶ上で,日本の貢献は大きな力となった。明日,防衛大臣と会談し,改めて相談したいと考えているが,南スーダンのPKOミッションへの派遣については,是非前向きに検討頂きたい。
日本の自衛隊は,現在,東北で復旧・復興のために仕事をしていることはよく承知している。日本は今までも力強く寛大なコミットメントをもって世界の安全・平和のために貢献してきた。日本国内にある悲劇にも関わらず,外に向かって協力を惜しまないで努力して下さったことに感謝する。
日本の今回の原発事故に関わる経験は,世界に教訓をもたらした。もちろん,各国には主権国家の判断として,原子力エネルギー使用の是非を決定するが,すべての国はその安全使用について関心を有している。自分(潘事務総長)は,IAEAの天野事務局長がまとめた原子力安全プラン(nuclear safety plan)を評価している。政治的なモメンタムを維持するため,国連は9月に原子力安全及び核セキュリティに関するハイレベル会合を開催するが,現在,国連の全組織を動員して福島の原発事故の影響を検討しているところである。
核軍縮についても申し上げたいが,日本が広島及び長崎で原爆を落とされ,沢山の方々が亡くなって60年以上が経過した。昨年は国連事務総長としてはじめて平和祈念式典に出席し,多くの被爆者とお目にかかり,核のない世界を作るために努力することを約束した。この文脈で,日本,豪州等の軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)に感謝する。日本は,国連にとって,核の脅威を終わらせるための重要なパートナーである。
この度の暖かいもてなしに対し感謝するとともに,事務総長としての2期目に日本とより協働できることを楽しみにしている。また,日本政府及び国民からの事務総長としてのリーダーシップに対する力強い支持についても重ねて感謝申し上げる。今後,日本を含むすべての加盟国とよりよい世界を作りあげるために協力し続ける所存である。
(潘事務総長に対し,)なぜ南スーダンのPKOミッションに日本の参加が必要なのか。
(松本大臣に対し,)自衛隊の南スーダンのPKOミッション派遣については,震災対応やハイチへの対応が落ち着けば,派遣の環境が整うと考えるか。また,そうであれば,それを事務総長側に伝えたのか。
日本は,国連のPKOに対して,多大な貢献を長年行ってきた。昨年は,ハイチが大地震に見舞われた際,施設部隊を派遣し,目覚ましい仕事をして下さったことに感謝している。南スーダンは,新たな国造りにあたって,国際社会のあらゆる協力,援助を必要としている。とりわけインフラ整備を必要としており,日本のように効率的で規律があり能力のある部隊を派遣してもらえれば,南スーダンの国民にとって大きな助けとなる。
我が国としては,国連PKOが国際社会の平和と安定に貢献する最も有効な手段の一つであると考えていることに変わりない。その考え方,姿勢についても,事務総長にお話しした。その上で,具体的な協力については,我が国の特色が活かしたものであるか,現地の受け入れ状況はどうか,自衛隊をということであれば自衛隊の様々な任務がある中でどのような任務が可能か,ということを総合的に考えながら検討を進めている。このことについても,事務総長にお話しした。震災対応であるとか,ハイチへのPKO派遣について状況が変わることは,PKOを出すに当たってはプラスに働く要因であるとは思うが,今申し上げたように,そのことだけで決める訳ではなく,総合的に考えて決めていきたい。
(潘事務総長に対し,)菅総理に対し,9月に原子力安全及び核セキュリティに関するハイレベル会合に出席するか確認したか。
(松本大臣に対し,)同ハイレベル会合に日本として貢献したいと述べたが,具体的にどのような貢献を考えているか。
防災能力の強化,原子力安全基準の強化のために日本や国際社会がどのような協力ができるのかを検討し,また,福島における原発事故の教訓及び津波からの復旧プロセスを共有することは意義があり,総理のハイレベル会合への参加が重要であると申し上げた。総理からは,日本政府は積極的に貢献し,参加するとの話を頂いたが,これについては,さらに協議を進めねばならないと考えている。
原子力の安全使用については,我が国はもっとも高い水準を誇る国の1つでありながら,このような原発事故が起きてしまった。事故を調査・検証し,知見と教訓を共有することが必要と考えている。日本政府としても,6月に第1次事故調査報告を発表したが,9月であればその検証が進み,直近の情報を国際社会に伝える機会になると考えている。また,原子力安全が,原子力の平和利用にとっていかに重要か,このような事故を起こした国だからこそ率直に申し上げることができるのではないかと思う。すなわち,原子力安全に向けた意志及び内容の2つの面で貢献できると考える。
(潘事務総長に対し,)一部の国々が脱原発の意志を表明しているが,このような流れについてどのように考えるか。
国連の見解については,多くの機会を捉えて明確に述べている。原子力エネルギーの利用をすでにやめた国,段階的にやめることを検討している国,原子力を依然として重要なエネルギー源と考えている国がいることは承知しているが,これらの政策はそれぞれの主権国家が判断し決定することである。自分が強調してきたのは,福島第1原発の事故を受けて,原子力の安全を強化しなければならないということである。国レベルの原子力の安全だけでなく,地域,国際レベルでコーディネートできれば,より世界のエネルギー促進のためになる。IAEAの天野事務局長も原子力は依然として有効なエネルギーであると述べていたが,12億の人々が電力にアクセスを持たない状況を改善するのに原子力は有効な手段であるという観点を踏まえて,国連加盟国で議論することが必要であると考える。