文化外交(海外広報・文化交流)

世界遺産条約採択40周年記念最終会合
「世界遺産と持続可能な開発:地域社会の役割」
(11月6日~8日,於:京都)

京都ビジョン(ポイント)

平成24年11月

序文

  • 世界遺産と地域社会との関係は,世界遺産条約の中心であり,人口増加と開発圧力,グローバルな金融危機,気候変動など,現在世界が直面している課題に取り組む基礎を成す。

世界遺産条約の40年の成果

  • 世界遺産条約は,文化遺産と自然遺産の保存を一つの枠組みで実現していくための最も強力な手段の一つである。またこの条約は,人類共通の遺産としての世界遺産の重要性を強調し,遺産保護のための国際協力の促進を通じて,社会の結びつき,対話,寛容,文化的多様性と平和に大きく貢献している。
  • 世界遺産条約は,その歴史の中で,政策と運用を通じ,遺産保護のグローバルな標準を提供してきた。これまで遺産の保存に関わった全ての関係者に敬意を表するとともに,条約の将来に向け,次の世代を担う青年の役割が重要であることを認識する。
  • その一方で,開発による圧力や紛争,災害,さらに,世界遺産一覧表が真に世界の遺産をバランスよく反映しているかといったものまで,多くの課題が生じている。特に,開発途上国における遺産保護のための技術,人材,財源の決定的な不足を懸念する。

持続可能な地球と世界遺産の役割

  • 地球の持続可能性を如何に確保していくかが大きな課題である今日,そのために必要な変革を,ポスト2015年開発目標に反映させていかなくてはならない。
  • 人間を主役に据えた遺産の保存は,持続可能な開発及び,社会とそれを取り巻く環境との調和した関係を再構築するための重要な学習モデルとなり得る。社会と環境との相互作用の結果としての遺産は,持続可能な開発の論理の基礎である。これは「生物多様性戦略計画2011-2020」及び「愛知目標」など,関連の国際的政策にも強調されており,その達成は,文化・自然遺産にとって極めて有益である。
  • 文化・自然遺産の多様性を認識し,遺産から得られる利益を公平に共有することにより,他者との相互尊重が促進され,コミュニティに社会としての結びつきがもたらされる。

コミュニティの役割の重要性

  • 世界遺産条約履行のための戦略的目標に「5つめのC」(注) としてコミュニティが掲げられているとおり,世界遺産の保護のためには,地域社会と先住民を含むコミュニティが重要な役割を果たしている。
  • 世界遺産条約が,その目的の一つとして,遺産に「社会(コミュニティ)生活における役割」を与えることを掲げている(第5条)ことから,コミュニティは遺産の保存・管理に十分に参画する必要がある。
  • 文化・生物多様性の尊重に基づく人々と遺産との強化された関係のみが,「我々の求める未来」の達成を可能とする。この関係は,様々な分野からの幅広い参加を得た遺産の保存へのアプローチにより成立する。世界遺産を管理していく上で,長期的な持続可能な開発の観点なしでは,世界遺産の「顕著で普遍的な価値」を守ることは困難である。
  • この観点から,文化・自然遺産から生じる利益は,遺産管理主体と専門家との協力を通じ,持続可能な開発の促進のため,コミュニティに公正に分配されなくてはならない。
  • この新しいアプローチと検討のためには,関係機関,政策決定者,遺産の実務関係者,コミュニティからネットワークに至るまで,あらゆるレベルの人材養成が必要である。特にコミュニティにおける人材養成は,遺産から生じる利益のコミュニティへの還元のために強化されなくてはならない。コミュニティは,また,災害や気候変動への対策を含む遺産の管理と保存活動に,全面的に参画すべきである。

 (注)世界遺産条約履行のための戦略的目標「5つのC」:「信用性の確保(Credibility)」,「保存活動(Conservation)」,「能力の構築(Capacity building)」,「意思の疎通(Communication)」,「コミュニティの活用(Community)」(2002年の世界遺産委員会で採択。5つめのC(コミュニティ)は,2007年の世界遺産委員会で追加された。)


行動への呼びかけ

  • このビジョンの実現に向け,京都会合の参加者は,国際社会に次の行動を起こすよう呼びかける。
    • グローバルな規模での財源の確保。
    • あらゆるレベルでの人材養成を含む,世界遺産と持続可能な開発の支援に向けた,コミュニティに関する経験,グッド・プラクティスと知識の共有。
    • 世界遺産への脅威に効果的に対応するための責任を分かち合い,その持続可能な開発と全体的利益のために貢献すること。
    • ポスト2015年開発目標の議論において,国際社会全体で,環境的,文化的,社会経済的ニーズを考慮し,世界遺産を考慮に入れること。
    • 世界遺産に関わる全ての関係者の協力と連携を強化し,また,遺産の保存保護が社会全体の持続可能な開発に資するよう,地域社会と先住民,専門家,青年を世界遺産への推薦段階から保存に参画させること。
    • 無形文化遺産,文化的・創造的産業など,世界遺産以外の領域を通じて,地域社会の持続性を確保すること。
    • 世界遺産条約締約国会議において採択された「戦略的行動計画2012-2022」を優先的に実施すること。
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