文化外交(海外広報・文化交流)

京都ビジョン(仮訳)

平成24年11月

序文

 我々,世界遺産条約採択40周年記念最終会合の参加者は,この比類ない国際的保存条約がもたらした成果,現在の課題,そして将来における発展について考える会合の場を提供して頂いた日本の関係当局の厚意と知的な指導力に,感謝を表明したい。

 我々はまた,世界遺産条約締約国会議及び世界遺産委員会により,この40周年のために採択された「世界遺産と持続可能な開発:地域社会の役割」が中心的テーマであることを改めて確認する。世界遺産と地域社会との関係は,条約の中心的位置を占めるとともに,人口増加と開発の圧力,グローバルな金融危機と気候変動により現在世界各地域が直面している課題に取り組む基礎である。

 我々は,この文脈から,国連持続可能な開発会議(リオ+20)の成果文書「我々の求める未来」(リオデジャネイロ,2012年6月),第18回世界遺産条約締約国会議において採択された「世界遺産条約履行のためのビジョンと戦略的行動計画2012-2022」(ユネスコ,2011年)及び,条約40周年の枠組みの中で世界の全地域で開催された専門家会合や諮問会合における深い考察と成果を想起する。

世界遺産条約の40年の成果

 我々は,締約国190か国を数える世界遺産条約が,顕著な普遍的価値を持つ文化及び自然遺産の保存を一つの条約をもって実現するという,遺産保護のための最も強力な手段の一つであることを認める。我々は,人類共通の,共有された遺産としての世界遺産の重要性と,その保護のための国際協力の促進を強調することを通じ,条約が,社会の結びつき,対話,寛容,文化的多様性と平和に明白に貢献していることを認める。

 我々はまた,世界遺産条約が,時とともに,グローバルな遺産保護の標準を提供する規範として,その政策と実践の強化を通じて成し遂げた貢献を認める。特に世代間の平等において条約が果たす役割に関し,次の世代を担う青年の重要性,そして,地域社会と先住民を含む,遺産の保存に関わる地元,国家,世界の各地域における全ての関係者の重要性を認めるとともに,この機会に敬意を表する。

 我々は,しかしながら,開発の圧力や紛争,人災及び自然災害,さらに,世界遺産一覧表が真に世界の遺産をバランスよく反映しているかといったものまで,世界遺産条約が直面する多くの深刻な課題を懸念する。特に開発途上国における条約履行のための技術,人材,そして財源の決定的な不足を懸念する。

持続可能な地球と世界遺産の役割

 我々は,地球の持続可能性を確保するために地球が直面している大きな課題を意識している。また,GDPを超えるより広い人類の進歩の姿を考慮しつつ,ポスト2015年開発目標の中に変革が反映されることの必要性を意識している。

 我々は,人間を主役に据えた世界の文化及び自然遺産の保存は,持続可能な開発を追求し,また,社会とそれを取り巻く環境との調和した関係を確保するために重要な学習モデルを提供する機会であると確信している。遺産は,社会とその環境とのダイナミックで継続的な相互作用により生じるものであり,遺産というコンセプトは,持続可能な開発という論理の基礎を成す。遺産は,人々の生活の質を維持し,向上させる。これは,生物多様性戦略計画2011-2020及び愛知目標など,関連の国際的政策においても一層強調されており,その達成は,文化及び自然遺産の双方にとって有益である。

 世界の文化及び自然遺産の多様性を認め,保存し,遺産の利用から得られる利益を公平に共有することは,人々の帰属意識や他者との相互尊重,集団全体としての目的意識を強め,ひいてはコミュニティに社会としての結びつきがもたらされる。

コミュニティの役割の重要性

 我々は,世界遺産条約の履行において,5つの戦略的目標の5番目の「C」(2007年採択)及び戦略的行動計画2012-2022にもあるとおり,地域社会と先住民を含むコミュニティが重要な役割を果たしていることを何度でも強調する。

 世界遺産条約は,その第4条において,文化及び自然遺産の認定,保護,保存,整備及び次世代への伝承を確保する締約国の責任を明記している。同時に,条約の目的の一つが,遺産に「社会(コミュニティ)生活における役割」を与える(第5条)ことであるならば,コミュニティの関心と要望は,遺産の保存と管理に向けた努力の中心に据えられなくてはならない。

 文化及び生物多様性の尊重に基づくとともに,有形,無形の両面を統合し,さらに持続可能な開発に方向を定めた,人々と遺産との強化された関係を通じてのみ,「我々の求める未来」の達成が可能となる。

 この強化された関係は,様々な分野からの幅広い参加を得た遺産の保存へのアプローチの上に成り立つべきものであり,社会的,経済的,環境的側面を統合し,特に弱者のグループに留意するとともに,全ての関連する国際的標準と義務を尊重したものであるべきである。世界遺産を管理していく上で,長期的な持続可能な開発との観点がなくては,世界遺産の顕著で普遍的な価値を守ることは結局は困難である。

 この観点から,十分に保護された文化及び自然遺産から生じる利益は,持続可能な開発の促進のため,遺産管理主体と専門家との緊密な協力を通じ,コミュニティに公正に分配されなくてはならない。それと同時に,世界遺産に関連した文化的・社会的文脈が変化していくものであることにも留意する必要があり,この変化が,利害や関心を持つ新たなグループの出現につながっていくことになる。

 この新しいアプローチと検討のためには,関係機関,政策決定者,遺産の実務関係者,コミュニティからネットワークに至るまで,あらゆるレベルの人材養成が必要である。特にコミュニティにおける人材養成は,遺産から生じる利益のコミュニティへの還元のために,認知向上のためのイニシアティブ,技術開発プログラム,ネットワーク構築を通じ,強化されなくてはならない。コミュニティは,また,災害や気候変動によるリスク低減をはじめとする遺産の管理と保存活動に,全面的に参画すべきである。

 持続可能な観光の開発も,地域社会にとっての経済的利益及び経済力強化のよりどころの一つとして,さらに,観光客による文化的多様性の正しい理解のための一助との観点から注目されるべきである。

行動への呼びかけ

 40年に亘り,世界遺産条約は,保存に関するグローバルな理想と倫理を体現してきた。全ての人類にとって重要な,卓越した遺産の保護の重要性を強調し続ける一方で,我々の社会の基礎を脅かす新たな課題から生まれる,より広い局面を含めるために全体論的アプローチが必要となっている。特別な遺跡を破壊や放置から救うことのみではなく,適切な保存と管理を通じて,戦略,さらには継続性という価値に基づく開発モデルを明示していくことが問われているのである。

 このビジョンの実現に向け,参加者は,国際社会に対し,以下の点を呼びかける。

  • 連帯と協力の精神に基づく,グローバルな規模での遺産の保存のための十分な財源の確保。
  • あらゆるレベルでの人材養成を含む,世界遺産と持続可能な開発の支援に向けて,コミュニティに関する経験,グッド・プラクティスと知識を共有するために,革新的な対応策を開発すること。
  • 世界の文化及び自然遺産への脅威に効果的に対応するための責任を分かち合い,その持続可能な開発と全体的利益のために貢献すること。
  • ポスト2015年開発目標の議論において,世界遺産を考慮に入れること。その際に,環境,文化及び社会経済に関わるニーズを考慮した包括的アプローチのために,世界各地域及びグローバルなレベルの全ての関連した会合において,国際社会を関与させること。
  • 遺産の保存が社会全体の持続可能な開発に資するよう,世界遺産に関わる全ての関係者の協力と連携を強化し,また,地域社会と先住民,専門家,青年が世界遺産への推薦段階から保存に参画できるようにすること。
  • 無形文化遺産,文化的・創造的産業など,重要な役割を果たす世界遺産以外の領域を通じて,地域社会の持続性を確保すること。
  • 世界遺産条約締約国会議において採択された「戦略的行動計画2012-2022」を優先的に実施すること。

京都,2012年11月8日

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