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生物兵器(BW)の歴史は古く、紀元前4世紀に古代マケドニア王国のアレキサンダー大王率いる軍隊が、敵に疫病屍体を石弓で投射したことが記録に残っている。しかし、BWは、その効力が気象条件に大きく左右されること、化学兵器に比べて軍事的にコントロールが非常に困難であること等から、実戦での有効性には疑問があり、本格的な軍事作戦で使われた確証はないと言われている。他方、BWは安価かつ比較的容易に生産が可能であるため、化学兵器と共に「貧者の核兵器」と呼ばれ、途上国への拡散が国際的な懸念となっている。
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(2) |
BW拡散防止に対する国際社会の取組としては、1925年のジュネーブ議定書が生物・毒素兵器の戦時における使用を禁止。しかし、開発・生産・取引に関する規制は設けられなかった。
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その後、国際的な緊張緩和の流れを受け、核兵器不拡散条約(NPT)が成立した1968年、国連軍縮委員会の仮議題に「化学・細菌戦」が含められたことを契機にBWを禁止するための条約交渉が開始された。当初は生物・化学兵器を一括して禁止する方向で検討が開始されたものの、過去に実戦で大規模に使用されたことのある化学兵器と、その軍事的価値が疑わしいBWを一括して扱うことは実際的ではないとの認識から、両者は切り離されて交渉されることとなった。翌69年、米国が国内の生物兵器能力廃棄を宣言、72年に生物・毒素兵器の開発・製造・保有等を禁止する生物兵器禁止条約(BWC)が採択された(75年発効)。
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91年に起こった湾岸戦争では、その後行われたイラクに対する国連査察により、同国がかつてBWを製造していた事実が明らかにされた。イラクは91年6月、BWCに加盟し、所有していた生物剤・生物兵器を全て廃棄したと主張しているが、98年まで続けられた国連査察によってもその廃棄については確認されていない。こうした中、化学兵器関連資機材の輸出管理レジームとしてスタートしたオーストラリア・グループ(AG)は、92年より特定の生物剤及び生物兵器関連資機材・技術の規制を開始した。
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(5) |
BWCは、締約国による遵守を確保するための検証措置を欠いている。そのため、95年より、BWC締約国は「検証措置を含めた新たな法的枠組み」(検証議定書)の交渉を行ってきたが、2001年夏、米国がBWCの強化のためには検証議定書によらない新たな手法の導入を検討すべきであるとの提案を行い、議定書交渉は事実上頓挫した。
また、一部の途上国から、AGによる規制は締約国間の科学技術協力を定めるBWC第10条に基づく締約国の権利を制限するものである旨の批判がなされている。しかしながら、BWC第3条においては、締約国による生物剤等の平和目的でない移譲が禁止されており、AGはこれを補完し、BW不拡散をより効果的なものとしていく上で重要な要素である。AG参加国は、このような認識の下、AGの存続の必要性を確認してきている。 |
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生物兵器禁止条約(BWC) |
オーストラリア・グループ
(AG) |
(1)目的 |
生物兵器(BW)の開発・生産・貯蔵等を包括的に禁止すると共に、保有する生物兵器の廃棄を目的とする。 |
BW(及びCW)の原材料や製造設備の輸出規制を行うことにより、CBWの拡散を食い止めることを目的とする。 |
(2)参加国 |
170カ国(2013年4月現在) |
40カ国 |
(3)移譲制限の対象 |
(イ) |
平和目的による正当化が できない種類・量の生物剤 ・毒素 |
(ロ) |
生物剤、毒素を武力紛争 等において使用するための 兵器、装置又は運搬手段 |
(注)但し、具体的品目は列挙されていない。 |
(イ) |
生物剤(人、動物、植物に対 するウィルス・毒素等) :118種 |
(ロ) |
関連設備(貯蔵タンク等) :11品目 |
(ハ) |
関連技術 |
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(4)移譲の規制の態様 |
上記(3)に挙げる物資の締約国による移譲が禁止されている(第3条)。 |
全ての品目についてAG参加国、非参加国に関わらず、全ての国が輸出規制対象。
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(5)制裁 |
BWC第6条は、締約国による条約違反につき、他の締約国による国連安保理への苦情申し立ての権利、及び右に基づく安保理の調査に対する締約国の協力義務を定めるが、具体的制裁措置につき定めた規定は無い。
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ガイドラインの趣旨に則り、各参加国が責任を持って輸出管理を行うことが要求されている。右を実行しなかった場合でも、レジームの性格上強制的措置は取り得ない。 |