生物・化学兵器
生物兵器禁止条約(BWC)概要
1 生物兵器禁止条約と概要
- (1)生物兵器禁止条約(Biological Weapons Convention、正式名称は「細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約」)は、生物・毒素兵器(以下生物兵器という。)を包括的に禁止する唯一の多国間の法的枠組みである。化学兵器及び生物兵器の戦時における使用を禁止した1925年のジュネーブ議定書(正式名称は「窒息性ガス、毒性ガス又はこれらに類するガス及び細菌学的手段の戦争における使用の禁止に関する議定書」)を受け、生物兵器の開発、生産、貯蔵等又は保有を禁止している。
- (2)生物兵器の規制をめぐっては、1966年の第21回国連総会において同議定書の目的に反する全ての活動を非難する決議が採択され、更に1969年、ウ・タント国連事務総長が、「化学・細菌(生物)兵器とその使用の影響」と題する報告書を提出すると、化学兵器及び生物兵器の規制の重要性について軍縮委員会や国際連合の場で活発に議論されるようになった。このような流れを受け、BWCは1971年の軍縮委員会会議において作成され、同年の第26回国連総会決議の採択を経て、1972年4月10日に署名開放され、1975年3月26日に発効した。我が国は1972年4月10日(署名開放日)に署名、1982年6月8日に批准した。
- (3)BWCの条文ごとの概要は以下のとおり。BWCには条約遵守の検証手段に関する規定や条約実施機関がなく、条約をいかに強化するかが課題となっている。
- 生物兵器の開発・生産・貯蔵・取得及び保有の禁止(第1条)
- 生物兵器等の廃棄及び平和的目的への転用(第2条)
- 生物兵器等の不拡散(第3条)
- 条約の国内実施措置の確保(第4条)
- 締約国相互の協議と協力(第5条)
- 安保理への苦情申し立て(第6条)
- 国際協力(第10条)
- (4)BWCの下では、締約国による運用検討会議が5年毎に開催される(これまで、1981年(第1回)、1986年(第2回)、1991年(第3回)、1996年(第4回)、2001年及び2002年(第5回)、2006年(第6回)、2011年(第7回)、2016年(第8回)並びに2022年(第9回:新型コロナウイルス感染症の影響により1年延期)に開催された)。また、運用検討会議間の活動(会期間活動)として、締約国会合が毎年開催される。
2 条約強化に向けた試み
(1)信頼醸成措置(CBM:Confidence Building Measures)
信頼醸成措置(CBM)とは、生物剤を用いた活動に疑義が生じることを予防するため、締約国が自国内にある研究施設、生物防護計画、疾病発生状況などについて定型のフォーマットにより毎年国連軍縮部に提出する措置である。第2回運用検討会議(1986年)においてCBMの導入が合意された後、第3回運用検討会議(1991年)においてCBMフォームの内容の修正及び範囲の拡大について合意され、更に第7回運用検討会議(2011年)においてもCBMフォームの内容が修正された。CBMの提出はBWC上の法的義務ではないものの、2022年には97の締約国が提出しており、締約国間の透明性の向上に貢献している。
(2)条約履行支援ユニットの設置
BWCには条約の実施機関がなく、第6回運用検討会議(2006年)において国連軍縮部ジュネーブ事務所の下に条約履行支援ユニット(ISU:Implementation Support Unit)を設置することが合意され、同年以降は同ユニットがBWC関連会合の開催といった事務作業や締約国によるBWCの国内実施の支援などを行っている。ISUは職員3名の体制であったが、2022年の第9回運用検討会議において、2023年から2027年までの期間、1名増員されることが決定された。
(3)検証議定書交渉
BWCは、化学兵器禁止条約(CWC:Chemical Weapons Convention、正式名称は「化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約」)と異なり、締約国の条約の遵守を検証する手段に関する規定が置かれていない。一部の締約国はCWCに相当するような検証措置を備えた新たな議定書(以下「検証議定書」という。)を作成するべきと主張している一方、生物剤は殺菌による証拠隠滅が容易であること等から、生物剤の検証そのものが困難と主張する締約国もあり、検証議定書について現在までに成案を得るに至っていない。
検証議定書をめぐっては、第3回運用検討会議(1991年)において、科学的・技術的な観点から検証手段について検討する「検証アドホック政府専門家会合」(VEREX)の設置が決定された後、1992年~93年に計4回のVEREX会合が開催され、検証制度の設置は可能であるとの結論に至っている。その後、多くのBWC締約国の要請により開催された締約国特別会議(1994年)において、VEREXの結果も踏まえ、検証議定書を検討することを目的とする「検証議定書を検討するための政府専門家アドホック・グループ」(AHG)が設置され、1995年から計24回開催されたAHGにおいて検証議定書の交渉が続けられた。一方、上述のとおり、検証という手法はBWC強化のために有効ではないとの主張もあり、第5回運用検討会議(2001年)において検証議定書に関して締約国間で意見がまとまらないままAHGのマンデート期限が到来し、検証議定書の交渉は終了した。
3 直近3回の運用検討会議及び会期間活動の概要
(1)第7回運用検討会議(2011年12月5日~12月22日)
第7回運用検討会議では、BWCの実施強化の必要性に対する締約国の広範な支持の下、専門家会合と締約国会合を第8回運用検討会議(2016年)まで毎年1回ずつ開催し、BWCの実施及び強化のために必要な方策について引き続き議論することとされた。また、締約国間の国際協力・支援を促進するためのデータベースの設置、履行支援ユニット(ISU)の任期期限の延長、信頼醸成措置(CBM)フォームによる申告内容の改善といった新たな措置について合意に至った。
(2)2012~2015年の会期間活動
第7回運用検討会議での合意に基づき、BWCの履行に関連する以下のトピックについて締約国間で議論していくこととされた。その際、BWCの履行・強化に繋がる具体的な方策について締約国間で共通理解をより深めていくため、3つの常設課題と1つの年次課題が設けられた。
- ア BWC第10条国際協力・支援(常設課題)
- イ 科学技術の進展のレビュー(常設課題)
- ウ 国内実施強化(常設課題)
- エ 信頼醸成措置(CBM)提出促進(2012年、2013年)
- オ BWC第7条(生物兵器使用疑惑の際の防護支援)実施強化(2014年、2015年)
(3)第8回運用検討会議(2016年11月7日~25日)
第8回運用検討会議では、履行支援ユニット(ISU)の設置期限を継続すること、スポンサープログラムを継続すること等について合意に至った一方、具体的な次期会期間活動の内容等については合意に至ることができず、翌年2017年に開催される締約国会議に結論が持ち越されることとなった。
(4)2018年~2020年の会期間活動
2017年締約国会合において2018年~2020年の会期間活動が合意され、締約国間でBWCの履行強化について協議すべく、専門家会合を8日間、締約国会合を4日間、年に1回ずつ開催することとなった。なお、2020年から本格化した新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大を受け、2020年の会期間活動は1年後ろ倒しの2021年に延期された。
- ア 国際協力(2日)
- イ 科学技術の進展レビュー(2日)
- ウ 国内実施(1日)
- エ 防護支援(2日)
- オ 条約の制度的強化(1日)
(5)第9回運用検討会議(2022年11月28日~12月16日)
第9回運用検討会議では、BWCの実施及び強化のために効果的な方策について特定・検討することを目的とする作業部会の設置が合意され、2023年から2026年までの期間、作業部会での会合に毎年15日間が割り当てられることとなった。また、条約履行支援ユニット(ISU)の2023年から2027年までの期間の1名増員につき合意に至った。
(6)2023年~2026年の会期間活動
第9回運用検討会議での合意に基づき、作業部会においてBWCの履行に関連する以下のトピックについて締約国間で議論していくこととされた。
- ア 第10条国際協力・支援に係る措置
- イ BWCに関係する科学技術の進展に係る措置
- ウ 信頼醸成及び透明性に係る措置
- エ 条約遵守及び検証に係る措置
- オ 国内実施に係る措置
- カ 第7条支援・対応・準備に係る措置
- キ 組織・機構・財政的事項に係る措置