第4節 日本への理解と信頼の促進に向けた取組
1 戦略的な対外発信
(1)総論
外務省は、国際社会で日本に関する理解が深まり、客観的事実に基づく認識が形成されるよう、発信の取組を強化している。特に、国際的な情報戦が恒常的に生起する昨今において、日本の信用を毀損する情報発信へ適切に対応することは、情報操作の余地を狭めていく上で極めて重要である。そのため、日本の政策や取組に対する理解や日本への関心を高めるための戦略的対外発信(Strategic Communication)がこれまで以上に重要になってきている。外務省では、(ア)日本の政策や取組、立場の発信及び(イ)日本の多様な魅力の発信を行うことで(ウ)日本への関心・理解・支持を拡大する、という基本方針の下、様々な角度から情報収集し分析を行った上で、国家安全保障戦略も踏まえながら、戦略的に対外発信を行っている。
ア 日本の政策や取組、立場の発信
2025年は、ロシアによるウクライナ侵略が長期化し、中東での危機も続くなど、国際社会は分断と対立の様相を一層深める状況となった。こうした状況を受け、外務省は様々な外交機会や取組を通じ、国際社会の平和と安定及び繁栄、法の支配に基づく国際秩序の維持・強化や地球規模課題への日本の基本的考えや取組について、ソーシャルメディアを含む様々な媒体を活用し、重点的に発信した。さらに、歴史認識や領土・主権の問題への理解の促進に取り組んだ。
具体的には、総理大臣や外務大臣を始めとする政府関係者が、記者会見やインタビュー、寄稿、外国訪問先及び国際会議でのスピーチなどで発信し、在外公館においても、任国政府・国民及びメディアに対する発信を積極的に行っている。また、事実誤認に基づく報道が海外メディアによって行われた場合には、速やかに在外公館や外務本省から客観的な事実に基づく申入れや反論投稿を実施し、正確な事実関係と理解に基づく報道がなされるよう努めている。加えて、政策広報動画などの広報資料を作成し、海外テレビネットワーク及びウェブサイトやソーシャルメディア等を活用して発信している。また、日本の基本的立場や考え方への理解を得る上で、有識者やシンクタンクなどとの連携を強化していくことも重要である。このような認識の下、外務省は、海外から発信力のある有識者やメディア関係者を日本に招へいし、政府関係者などとの意見交換や各地の視察のアレンジ、取材支援などを実施している。さらに、日本人有識者を海外に派遣して講演等を実施しているほか、海外の研究機関などによる日本関連のセミナー開催の支援を強化している。
さらに、いわゆる慰安婦問題を始めとする歴史認識、日本の領土・主権をめぐる諸問題などについても、様々な機会・ツールを活用した戦略的な発信に努めている。また、外務省ホームページに旭日(きょくじつ)旗に関する説明資料や動画を多言語で掲載するなど、旭日旗に関する正しい情報について、国際社会の理解が得られるよう様々な形で説明している(1)。そのほかにも、事実に基づかない発信に対しては、情報が即時に世界規模で拡散される現在の状況に鑑み、必要な反論や正確な事実の発信を迅速に行っている。
これらの発信を一層効果的なものにするためには、X、Facebook、Instagram、YouTubeといったソーシャルメディアや外務省ホームページの活用が不可欠である。幅広い層の理解を得るため、ソーシャルメディアにおいてショート動画やインフォグラフィックス(2)を積極的に活用するなど、発信の強化に努めている。

イ 日本の多様な魅力の発信
このような日本による発信を含め、日本と国民が好意的に受け入れられる国際環境を醸成することも重要であり、(ア)正確な情報発信と(イ)魅力ある多様な文化の発信は、広報文化外交(パブリック・ディプロマシー)の両輪である。外務省は、日本の多様な魅力の発信に関し、海外における対日理解の促進を通じ、日本の味方である「ジャパン・フレンズ」の輪を一層拡大し、日本と日本国民が好意的に受け入れられる国際環境を醸成するとの観点から、在外公館や独立行政法人国際交流基金を通じ、様々な文化交流・発信事業を実施している。
具体的には、世界各地の在外公館や国際交流基金の海外拠点を活用した文化交流事業や日本国際漫画賞などの事業を通じ、伝統文化からポップカルチャーまで幅広い日本文化の魅力をソーシャルメディアなども活用して積極的に発信した。また、その際、国内外の関係者と協力し、世界の有形・無形の文化遺産の保護の取組と、日本の文化・自然遺産の「世界遺産一覧表」及び「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」への記載を推進した。さらに、より深い対日理解の促進のため、国際交流基金などを通じて、人的・知的交流や日本語の普及及び世界の主要国の大学・研究機関での日本研究支援を進めるとともに、「対日理解促進交流プログラム」などによる日本と諸外国・地域間の青年交流も促進している。
これらの広報文化外交の取組を通じ、今後も、外務省は、日本への関心・理解・支持を拡大することを目指し、一層の努力を行っていく。
(2)偽情報対策を含む情報戦への対応
地政学的な競争が激化する中、偽情報の拡散を含む情報操作などを通じた、認知領域における国際的な情報戦が恒常的に発生しており、特にウクライナやイスラエル・パレスチナ情勢などをめぐり、このような傾向が顕著に見られる。外国からの情報操作は、国家及び非国家主体が、日本の政策に対する信頼を損なわせ、民主的プロセスや国際協力を阻害するような偽情報やナラティブ(解説)を意図的に流布するものであり、対応の重要性が高まっている。
外務省としても、このような認識の下、国家安全保障戦略も踏まえ、情報・政策・発信部門が連携し、情報戦に対応する情報収集・分析・発信能力を着実に強化してきており、情報収集・分析の結果を踏まえた戦略的対外発信も適時適切に行うように努めている。
外国からの情報操作への対応に当たっては、メディア、シンクタンク、NGOなどを含む社会全体のレジリエンス(強靭(じん)性)を高めることが極めて重要であり、官民一体となって取り組んでいくことが不可欠である。2024年4月には、情報戦に対する外務省の国際的な取組状況について広く理解を得るため、外務省ホームページ上に「偽情報の拡散を含む情報操作への対応」に関するページを開設し、随時更新を行っている。
また、情報操作への対応については、同様の懸念を共有する諸国が一致して対処していくべきものとの認識に基づき、同志国を始めとする各国との協力を進めている。そのほか、二国間やG7即応メカニズム(RRM)(3)を始めとする多国間協議などにおいて、情報操作に関する協議を継続的に行い、価値を共有する各国・地域との情報共有や対応能力の強化に向けた協議などを行ってきている。
(3)インターネットを通じた情報発信
外務省は、情報がインターネット空間で急速に増大し、拡散するようになっている状況を踏まえ、日本の外交政策に関する国内外の理解と支持の増進のため、X、Facebook、YouTubeに加え、2023年にはInstagramの公式アカウントを新たに開設するなど、様々なソーシャルメディアや外務省ホームページを通じた情報発信に積極的に取り組んでいる。外務大臣の定例記者会見のライブ配信(日本語・英語)のほか、第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)などの国内外での外交行事、ウクライナ情勢、ガザ情勢などに関する情報発信を迅速かつ積極的に行っている。さらに、外務大臣が関与する国内外の外交行事について、ソーシャルメディアで外務大臣が自らメッセージを発信するショート動画を投稿したり、文字以外に図やイラストなどを用いたインフォグラフィックスを活用したりするなど、近年のトレンドを活用した外交政策の発信も重視している。
また、外務省ホームページ(英語)を、広報文化外交の重要なツールと位置付け、領土・主権、歴史認識、安全保障などを含む日本の外交政策や国際情勢に関する日本の立場、日本の多様な魅力などについて英語での情報発信の強化に努めてきている。さらに、在外公館(大使館、総領事館及び政府代表部)のホームページやソーシャルメディアを通じ、現地語での情報発信も行っている。
(4)諸外国における日本についての論調と海外メディアへの発信
外務省は、日本の政策・取組・立場について国際社会からの理解と支持を得るため、海外メディアに対して迅速かつ積極的に情報提供や取材協力を行っている。海外メディアを通じた対外発信としては、総理大臣・外務大臣へのインタビュー、外務大臣による定例の記者会見(オンラインでのライブ配信を実施)、記者ブリーフィング(概要説明)、プレスリリースの発出、プレスツアーなどを実施し、外交日程を踏まえて、時宜を得た戦略的かつ効果的な対外発信を行うよう努めている。また、看過できない事実誤認、日本の立場とは相容(い)れない報道がなされた場合には、速やかに当該メディアへの申入れや反論投稿を行うことにより、正確な事実関係と理解に基づく報道がなされるよう努めている。
2025年は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の開催、TICAD 9の横浜での開催、高市内閣発足及びその後の外国訪問、トランプ米国大統領訪日に際しての日米首脳会談、「中央アジア+日本」対話・首脳会合の東京での開催など、日本外交が国際社会から注目を集めた。総理大臣や外務大臣は頻繁に外国を訪問し、寄稿・インタビューを通じて海外メディアに積極的に発信した。例えば、高市総理大臣は、総理大臣就任後初めての外国訪問となった10月の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議(マレーシア)、及びG20ヨハネスブルグ・サミット(南アフリカ)において、各首脳会議に臨む日本の立場や、日本と訪問国の二国間関係の意義などを発信するために、各訪問先の主要紙に寄稿した。
このような形で、2025年には、総理大臣の寄稿・インタビューを計71件、外務大臣の寄稿・インタビューを計20件実施し、外務報道官などによる海外メディアに対する発信、総理大臣及び外務大臣の外国訪問の際の現地外国メディアへの記者ブリーフィングを随時実施した。海外メディアの招へい事業については、2025年は、12件の招へい案件を実施し、21か国から32人の記者の参加を得た。
(5)ジャパン・ハウス
外務省は、日本の多様な魅力や様々な政策・取組・立場の発信を通じ、これまで必ずしも日本に関心がなかった人々を含む幅広い層を惹(ひ)き付け、親日派・知日派の裾野を一層拡大することを目的に、サンパウロ(ブラジル)、ロンドン(英国)及びロサンゼルス(米国)の3都市に戦略的対外発信拠点「ジャパン・ハウス」を設置している。
ジャパン・ハウスでは、(ア)政府、民間企業、地方公共団体などが連携してオールジャパンで発信すること、(イ)現地のニーズを踏まえること、及び(ウ)日本に関する様々な情報をまとめて入手できるワンストップ・サービスを提供することで、効果的な発信に努めている。
ジャパン・ハウスは、「日本を知る衝撃を世界へ」を標語として、各拠点が独自に企画する「現地企画展」に加え、日本で広く公募し、専門家による選定を経て3拠点を巡回する「巡回企画展」を開催し、現地・日本双方の専門家の知見をいかした質の高い企画を実施している。また、展示のみならず、講演、セミナー、ワークショップ、ウェビナー、図書スペース、ホームページ、ソーシャルメディア、物販、飲食などを活用し、伝統文化・芸術、ハイ・テクノロジー、自然、建築、食文化、映画、漫画などのポップカルチャー、デザインを含む日本の多様な魅力や様々な政策・取組・立場を発信している。一部の展示については、他都市や近隣国での開催や、対面とオンラインのハイブリッドでの実施、大阪・関西万博にちなんだ展示・イベント方式での発信など、新たな訴求対象の獲得に向けても積極的に取り組んでいる。2025年12月末には、3拠点の累計来館者数が842万人を超え、各都市の主要文化施設として定着しつつある。
(1) 旭日旗に関する説明資料の外務省ホームページ掲載箇所はこちら:
(ア)https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/rp/page22_003194.html

(イ)動画リンク:https://www.youtube.com/watch?v=Oaehixu4Iuk
『伝統文化としての旭日旗』(2021年10月8日からYouTube外務省チャンネルで公開)

(2) インフォグラフィックスとは、データや情報などを分かりやすく表現した図やイラスト
(3) RRM:Rapid Response Mechanism
