外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

4 経済安全保障

(1)経済安全保障

ア 経済安全保障を取り巻く動向

近年、安全保障と経済を横断する領域で様々な課題が顕在化しており、安全保障の裾野が急速に拡大している。例えば、窃取され又は流出した先端的な民生技術が他国において軍事転用されるおそれ、外国政府の影響を受けたサプライヤーが情報通信など重要インフラ施設の安定的な運用を害するおそれ、重要な物資の他国への過度な依存に伴う供給途絶のおそれ、サプライチェーン上の優位性や自国市場の購買力を梃子(てこ)に政治的目的を達しようと他国が講じる経済的威圧を受けるおそれなどが生じている。

経済的手段に関連したこうした様々な脅威が生じていることを踏まえ、日本の平和と安全や経済的な繁栄などの国益を経済上の措置を講じて確保すること、すなわち経済安全保障の重要性が高まっている。

2022年12月に策定された「国家安全保障戦略」では、経済的手段を通じた様々な脅威が存在していることを踏まえ、日本の自律性の向上、技術などに関する日本の優位性、不可欠性の確保などに向けた必要な経済施策に関する考え方を整理し、総合的、効果的かつ集中的に措置を講じていくことが記されている。

2023年6月に閣議決定した「開発協力大綱」においては、開発の観点からもサプライチェーンの脆弱性によって多様な分野で負の影響が生じ得ることが明らかになったことを踏まえ、日本の開発協力の重点的取組の一つとして、開発途上国の経済社会の自律性・強靱性を強化するため、サプライチェーンの強靱化・多様化や経済の多角化、重要鉱物資源の持続可能な開発、食料の安定供給確保などのための協力を推進していくことを掲げた。

経済安全保障に関する国内法整備も進んでいる。2022年5月には、サプライチェーン強靱化、基幹インフラ役務の安定的な提供の確保、先端的な重要技術の開発支援、特許出願の非公開の四つを柱とする「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(経済安全保障推進法)」が成立し、この四つの柱に関連する各種制度が実施されている。2025年11月、高市総理大臣は、小野田紀美経済安全保障担当大臣に対して、経済安全保障推進法の改正に向け早急な検討の開始を指示した。

また、2024年5月には、経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度を導入する「重要経済安全保障情報の保護及び活用に関する法律」が成立し、2025年5月に施行された。

イ 各国の最近の取組状況

経済安全保障を推進する取組は、ほかの主要国でも近年急速に進展している。

米国では、1月20日にトランプ大統領が就任し、国内産業及び技術的優位性の強化による経済及び国家安全保障擁護の方針を示した「米国第一の貿易政策」や、米国内の安価で信頼性の高いエネルギー確保のための「米国エネルギーの解放」、米国のグローバルなAI優位性の維持・強化を目的とした「AIにおける米国のリーダーシップへの障壁撤廃」など、経済安全保障分野に関連する多くの大統領令が発出された。また、米国は、他国からの製品輸入が国家安全保障を損なう恐れがあるとして、通商拡大法第232条に基づき鉄鋼・アルミニウム、自動車・自動車部品、銅の半製品及び派生品、木材とその派生製品に対する関税措置を実施したほか、半導体・医薬品・重要鉱物などに対し、同条に基づく商務長官の調査を行い、これらの重要物品の輸入に関する国家安全保障上の影響を精査している。また、8月末には、米国内務省は、経済及び安全保障上重要な鉱物のリスト(重要鉱物リスト)にカリ塩、シリコン、銅、銀、レニウム及び鉛を追加する案を発表した。AIに関しては、ホワイトハウスは、7月、AIイノベーションの加速、AIインフラの構築及び国際的なAIに係る外交と安全保障の主導を3本柱とする「米国のAI行動計画」を発表した。

EUでは、引き続き、2023年6月に公表された「欧州経済安全保障戦略」及び2024年1月に発表の同戦略推進のための五つのイニシアティブ(対内直接投資審査、輸出管理、対外投資、デュアルユース技術の研究開発支援及び研究セキュリティから構成)に基づいた取組が進められている。対外投資に関しては、意見公募を踏まえた欧州委員会勧告が1月に発表された。対内直接投資審査規則改正案は5月に欧州議会、6月にEU理事会がそれぞれの立場を採択し、欧州委員会を含めた三者協議プロセスに移行している。重要原材料の確保やサプライチェーン強靱化を始めとした経済安全保障上の課題への対応の必要性について、フォン・デア・ライエン欧州委員長は、6月のG7カナナスキス・サミットや9月の同委員長による一般教書演説でも確認している。また貿易・経済安全保障担当欧州委員が中心となり、「経済安全保障パッケージ」を12月に発表し、優先的に取り組むべき高リスク分野として、物品・サービスにおける戦略的依存の低減、安全な投資の誘致、力強い欧州防衛・宇宙産業やその他の重要産業セクターの振興、重要技術分野におけるEUのリーダーシップ確保、機微情報及びデータの保護、重要インフラの防御の6分野を指定した。

オーストラリアは、これまでも、自国が保護すべき技術の特定などを推進する方針を示す「サイバー・重要技術国際関与戦略」の策定(2021年4月)、機微な国家安全保障に係る土地・事業への投資審査制度の厳格化(2021年1月)など、国家の強靱性の確保や、資産・インフラなどの防護を国益として位置付け、具体的な取組を進めてきている。また、2024年11月には重要インフラ保安法を改正し、事業者などが政府に提供した営業上の秘密の保護の明記などによる官民情報共有の促進や、重要インフラの所有者及び運用者に義務付けられているリスク管理プログラムの策定に係る規制当局による是正指示権限の導入など、更なるセキュリティ強化を図っている。

カナダは、2022年、「重要鉱物戦略」を発表し、重要鉱物の調査・探査からリサイクルまでの取組を強化した。2024年1月には、国家安全保障に危険を及ぼし得る軍事、国防、国家安全保障機関リスト及び機微技術研究リストを公表し、これらに関連する大学、研究機関、研究所の傘下にある活動に従事、ないし資金や物品を受理した研究者が関与する同分野の研究に資金供与を行わないことを盛り込んだ「カナダの研究を保護するための新たな措置に関する声明」を発出した。同年8月には、カナダ政府は、中国の不公正な貿易慣行からカナダの労働者及び主要な経済部門を保護するためとして、中国製電気自動車(EV)に対し100%、中国からの鉄鋼・アルミニウム製品の輸入に対し25%の追加関税などの措置を発表し、同年10月から追加関税の適用を開始した。

ウ 経済安全保障の推進に向けた外交上の取組

経済安全保障の推進において、外交が果たす役割は大きい。日本は、同盟国・同志国との連携の更なる強化、現行のルールを踏まえた対応、新たな課題に対応するルールの形成などについて、国際社会と協力しながら、積極的な外交を展開している。

同盟国・同志国との連携の更なる強化については、日米経済政策協議委員会(経済版「2+2」)や経済安全保障対話などを通じた二国間の取組に加え、G7や、日米豪印、日米韓の連携などを活用し、共通認識の醸成や政策面での協調を行うなど、協力の拡大・深化を図ってきている。

現行のルールを踏まえた対応に関しては、他国による不公正な貿易政策や慣行に対し、WTO協定などの現行のルールとの整合性の観点などから、同志国と連携して是正の働きかけを行ってきている。また、同志国の取組も参考にしつつ、経済安全保障上の措置と通商ルールとの関係に関する情報収集・分析などを行い、日本の経済安全保障上の政策的ニーズが適切に満たされるよう努力してきている。

新しい課題に対応するルール形成に関しては、重要・新興技術、経済的威圧など、既存の国際約束では十分に対応できず、更なる国際ルールの形成が必要とされる分野において同志国と連携しつつ引き続き国際的な議論をリードしていく。

エ 同盟国・同志国との連携

同盟国・同志国との連携については、前年に引き続き2025年も著しい進展が見られた。

G7の枠組みにおいては、6月に開催されたG7カナナスキス・サミットにおいて、経済安全保障関連では、「G7重要鉱物行動計画」、「繁栄のためのAIに関するG7首脳声明」、「量子の未来のためのカナナスキス共通ビジョン」の三つの首脳声明が発出された。同サミットでは、石破総理大臣から、重要鉱物のサプライチェーンの強靱化・多角化は喫緊の課題であり、G7やパートナー国と緊密に連携して対応することの必要性を強調するとともに、資源国の役割は非常に重要であり、サプライチェーン多角化のための新規鉱物資源プロジェクトの立ち上げや、開発途上国の現地高付加価値化に向けた「強靭で包摂的なサプライチェーンの強化(RISE)に向けたパートナーシップ」などにおける協力が重要であることを指摘した。

6月に開催されたOECD閣僚理事会では、WTOを中核とする、ルールに基づく、開かれた、公正な多角的貿易体制は重要であり、より安定した、予測可能で、強靱なサプライチェーンの構築に不可欠である点が確認された。また、日本と副議長国リトアニアの共催により開催された経済安全保障の強化と経済的強靱性の構築に関するサイドイベントでは、国際貿易システムの維持のためにOECDが果たす役割に触れつつ、経済的強靱性の強化と世界経済の安定確保に向けた多国間協力の強化を呼びかけた。

6月に開催されたG7貿易大臣会合では、過剰生産を生み出す非市場的な政策及び慣行への対処、経済安全保障及びサプライチェーンの強靱化、国際貿易システムの抱える課題の解決などについて、活発な議論が行われた。

7月に開催された日米豪印外相会合では、重要鉱物のサプライチェーンの確保と多様化に向けて協働することにより、経済安全保障と集団的強靱性を強化するため、日米豪印重要鉱物イニシアティブを立ち上げることで一致した。

日米韓3か国では、2月、4月、7月、9月及び10月に外相会合を開催し、経済安全保障についても議論を積み重ねてきている。例えば、9月に開催された日米韓外相会合では、日米韓の行動志向の議論が具体的な取組につながってきていることを歓迎しつつ、重要鉱物を含むサプライチェーンの強靭化や、量子・AIを含む重要・新興技術の保護・促進を始めとする経済安全保障などについても意見交換し、協力を一層進展させることを確認した。

米国との間では、2月に開催された日米首脳会談において、両首脳は、経済パートナーシップを新たな次元に引き上げるため、二国間産業基盤の強化及びAI、量子コンピューティング、先端半導体といった重要技術開発において世界を牽(けん)引するための協力や、経済的威圧への対抗及び強靭性構築のための取組を強化することを確認した。また、輸出管理を通じたものも含む重要機微技術の一層の促進及び保護並びにサプライチェーンの強靱化のため、政策を整合させるための議論を継続することを決意した。また、10月に開催された日米首脳会談において、高市総理大臣とトランプ大統領は、重要鉱物及びレアアースに関する文書(「採掘及び加工を通じた重要鉱物及びレアアースの供給確保のための日米枠組み」)に署名したほか、AIを始めとする重要技術、造船など、幅広い分野において、経済安全保障の取組を一層強化していくことで一致した。

欧州諸国との関係では、3月に、初の日英経済版2+2閣僚会合(経済版2+2)が東京で開催され、両国閣僚は経済安全保障、自由で開かれた国際貿易の推進、エネルギー安全保障、これらのテーマに関するグローバル・サウスを含む第三国との連携という四つのテーマを中心に議論を行った。また、10月には、2024年7月に行われた日独首脳会談の成果に基づき、第2回日独経済安全保障協議が開催された。さらに、11月、2023年12月に日仏首脳間で発表された「特別なパートナーシップ」の下、日仏協力のロードマップ(2023-2027年)に基づき、第2回日仏経済安全保障作業部会が開催され、両国の代表者は、重要鉱物を含むサプライチェーンの強靱化、非市場的政策・慣行、過剰生産への対応、重要・新興技術の保護など、経済安全保障に係る重要課題について議論を行った。その上で、両国は、今後も二国間の協力を一層強化するとともに、2026年にフランスが議長国を務めるG7を始めとする国際場裡(り)における連携も強化していくことの重要性について一致した。

EUとの関係では、5月に開催された第6回日・EUハイレベル経済対話において、経済安全保障に関する双方の取組について意見交換を行い、双方は、志を同じくするパートナー間の協力の重要性を確認した。また、「透明、強靭で持続可能なサプライチェーン・イニシアティブ」の下、達成されてきた実質的な進展を確認し、重要鉱物サプライチェーンの強靱化・多角化と重要・新興技術の促進・保護のため引き続き協力していくことで一致した。さらに、7月に開催された第30回日・EU定期首脳協議においても経済安全保障について議論し、「日・EU競争力アライアンス」を立ち上げ、経済安全保障を含む幅広い分野で具体的な協力を推進することで一致した。

韓国との関係では、2026年1月の李在明(イジェミョン)大統領訪日に際して開催された日韓首脳会談において、両首脳は、経済、経済安全保障の分野で、戦略的で、互いに利益をもたらす協力を進めていくため、関係部局間で議論を深めていくことで一致した。また、その中で、サプライチェーン協力について踏み込んだ議論を行った。

オーストラリアとの関係では、9月に開催された第12回日豪外務・防衛閣僚協議(「2+2」)において、両国は、日豪経済安全保障対話の活用を含め、経済安全保障分野での連携を更に強化していくことで一致した。また、サプライチェーンの強靱化、重要鉱物、エネルギー、海底ケーブルなどの分野において、日豪間で具体的な連携を強化していくことを確認した。

インドとの間では、8月のモディ首相訪日に際して開催された日印首脳会談において、両首脳が、重要物資のサプライチェーン強靱化を始めとする両国の連携を強化するため、「日印経済安全保障イニシアティブ」を立ち上げ、産官学による具体的取組を示す「日印経済安全保障協力ファクト・シート」を公表した。同ファクト・シートでは、両国は、戦略的協力において優先的に取り組むべき主要な分野として、半導体、重要鉱物、情報通信、クリーン・エネルギー、科学協力、医薬品の分野を特定した。

カナダとの間では、2022年にエネルギー安全保障分野での協力を含む「自由で開かれたインド太平洋に資する日加アクションプラン」を発表したほか、2023年9月にバッテリーサプライチェーン及び産業科学技術に関する二つの協力覚書に署名し、これらの分野での協力を一層加速化させている。

東南アジア諸国との関係では、4月の石破総理大臣のベトナム訪問時に、日・ベトナム両国は経済安全保障の協力拡大について一致し、また、5月のフン・マネット・カンボジア首相訪日時に日・カンボジア両国は、経済的強靱性及び経済安全保障の重要性についての認識を共有し、国際経済秩序を強化していくことで一致した。さらに、7月に開催された日米比(フィリピン)外相会合では、インフラ、情報通信、重要鉱物を含む資源のサプライチェーンの強靱化などの分野で3か国の協力を更に進め、具体化していくことで一致した。その後、10月にASEAN関連首脳会議に出席するためマレーシアを訪問した高市総理大臣は、アンワル・マレーシア首相との間で、液化天然ガス(LNG)の安定供給やレアアース、AIといった経済安全保障分野で連携を一層強化していくことを確認した。

(2)エネルギーの安定的かつ安価な供給の確保

ア エネルギーをめぐる内外の動向
(ア)世界の情勢

近年、国際エネルギー市場には、(1)需要(消費)構造、(2)供給(生産)構造、(3)資源選択における三つの変化が生じている。(1)需要については、世界の一次エネルギー需要が、中国、インドを中心とする非OECD諸国へシフトしている。(2)供給については、「シェール革命」(24)により、石油・天然ガスともに世界最大の生産国となった米国が、2015年12月に原油輸出を解禁し、また、米国産のLNGの更なる輸出を促進するなど、エネルギー輸出に関する政策を推進している。(3)資源選択については、エネルギーの生産及び利用が温室効果ガス(GHG)の排出の約3分の2を占めるという事実を踏まえ、再生可能エネルギーなどのよりクリーンなエネルギー源への移行に向けた動きが加速している。また、2015年12月に気候変動に関するパリ協定が採択されてからは、企業などによる低炭素化に向けた取組が一層進展するとともに、2021年以降、世界各国において、今世紀後半のカーボンニュートラル宣言がなされている。一方、2021年から上昇傾向にあったエネルギー価格は、2022年にはロシアのウクライナ侵略が引き起こしたエネルギー危機、また2023年10月以降の中東情勢の緊迫化で大きな変動を経験した。

2024年のエネルギー価格は比較的落ち着きを取り戻し、2025年も6月にイスラエルによるイラン攻撃に端を発する中東情勢の緊迫化により一時的に原油価格が上昇したものの、その後の緊張緩和に加え、米国の関税措置による景気減速懸念やOPEC(25)プラス(26)による減産の縮小(増産)などによる需給の緩和に伴い、エネルギー価格は比較的安定して推移している(2025年末時点)。しかしながら、国際社会は引き続きエネルギーの安定的な確保と脱炭素化の実現をいかに達成していくかという課題に直面している。

(イ)日本の状況

東日本大震災以降、日本の発電において化石燃料が占める割合は、原子力発電所の稼働停止に伴い、震災前の約60%から2012年には約90%に達した(2024年度実績で約67.5%)。石油、天然ガス、石炭などほぼ全量を海外からの輸入に頼る日本の一次エネルギー自給率(原子力を含む。)は、2011年の震災前の20%から2014年には6.3%に大幅に下落し、近年においても12%から13%台で推移しており、他のOECD諸国と比べると依然として低い水準にある。日本の原油輸入の約95%が中東諸国からである。一方、LNGや石炭については、中東への依存度は低いものの、そのほとんどを国外からの輸入に依存している状況に変わりはない。このような中、エネルギーの安定的かつ安価な供給の確保に向けた取組がますます重要となっている。同時に、気候変動への対応も求められている。

イ エネルギーの安定的かつ安価な供給の確保に向けた外交的取組

エネルギーの安定的かつ安価な供給の確保は、活力ある日本の経済と人々の暮らしの基盤を成すものである。外務省として、これまで以下のような外交的取組を実施・強化してきている。

(ア)在外公館などにおける資源関連の情報収集・分析及びエネルギー・鉱物資源に関する在外公館戦略会議の開催

エネルギー・鉱物資源の獲得や安定供給に重点的に取り組むための在外公館の体制強化を目的とし、2025年末時点で計53か国60公館に「エネルギー・鉱物資源専門官」を配置し、石油、天然ガス、石炭及び重要鉱物資源に関する現地情報を収集・集約し、民間企業、関係機関などとの連絡・調整を通じ、資源国との包括的かつ互恵的な二国間関係の構築・強化に努めている。

また、2009年から、主要資源国に設置された在外公館、関係省庁・機関、有識者、企業などの代表者を交えたエネルギー・鉱物資源に関する在外公館戦略会議を定期的に開催し、日本のエネルギー・鉱物資源の安定供給確保に向けた外交的取組について議論を重ね、政策の構築と相互の連携強化を図ってきている。今後も、各国における資源外交の取組の現状及び課題を共有し、国内の関係機関及び在外公館間の連携を深化していく。

(イ)エネルギー市場安定化に向けた取組

2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵略により、石油価格は1バレル当たり130ドルを超え、欧州ガス市場では100万英熱量(BTU)当たり70ドルを突破するなどエネルギー価格は大きく高騰し、エネルギー市場は不安定化した。

この状況下、日本は、同年2月と3月に、欧州での天然ガスの需給逼迫(ひっぱく)を緩和するため、日本企業が取り扱うLNGの一部を欧州に融通し、また国際エネルギー機関(IEA)(27)加盟国として、同年3月から4月に2回にわたる石油備蓄の協調放出を実施し、過去最大の放出量となる計2,250万バレルの石油備蓄を放出した。

エネルギー市場の安定化に関しては、資源生産国に対して、市場の安定化や増産の働きかけも行っている。2025年5月及び9月に石破総理大臣とサバーハ・ハーリド・クウェート皇太子との会談を行ったほか、同年5月に岩屋外務大臣とファイサル・サウジアラビア外相との会談を実施した。産油国に対して、日本政府は、こうした首脳・閣僚レベルでの累次の会談の機会に働きかけを行ったほか、在外公館や関係省庁を通じて様々なレベルでも働きかけを行っている。

(ウ)国際機関などを通じた取組と成果

エネルギーの安定供給のサプライチェーンの多角化・強靭化に向けた国際的な連携・協力のため、日本は、国際的なフォーラムやルールを積極的に活用してきている。エネルギー安全保障を確保しつつ、脱炭素化に向けて現実的なエネルギー移行を図るために、エネルギーの安定供給の確保、供給源の多角化及びエネルギー移行に不可欠な重要鉱物資源の安定供給体制の確保が重要であることを国際社会に発信している。

3月、ビロルIEA事務局長が来日し、石破総理大臣を表敬するとともに、岩屋外務大臣と会談を行った。その際、石破総理大臣は、東京電力柏崎刈羽(かりわ)原子力発電所への視察を含め、日本のエネルギー政策に対する支援への謝意を表するとともに、エネルギー自給が厳しい日本として、また、世界のエネルギー情勢が不安定な中で、IEAとの協力は一層重要になると述べた。岩屋外務大臣は会談において、IEAの中核的ミッションはエネルギー安全保障であると述べ、それに対し、ビロル事務局長からは、IEAとしてエネルギー安全保障は最重要課題であるとの発言があるとともに、日本のIEAに対する貢献への謝意と今後の日本とIEAの更なる協力関係の強化への期待が伝えられた。

4月には、IEA及び英国の共催で「エネルギー安全保障の未来サミット」がロンドンで開催され、日本からは藤井外務副大臣が出席し、複雑化し変容するエネルギー安全保障を幅広い視野から捉えるべきであることに言及しつつ、引き続き、多角化、地政学的リスクへの注意、緊急時への備えが重要であることを指摘し、日本は世界のエネルギー安全保障の強化に向けて引き続き様々なアクターと連携して協力していくと発言した。

(エ)エネルギー憲章条約

エネルギー憲章に関する条約(ECT)(28)は、ソ連崩壊後の旧ソ連及び東欧諸国におけるエネルギー分野の市場原理に基づく改革の促進、世界のエネルギー分野における貿易・投資活動を促進することなどを宣言した「欧州エネルギー憲章」の内容を実施するための法的枠組みとして定められ、1998年4月に発効した多数国間条約である(日本については2002年に発効)。欧州及び中央アジア諸国を中心とした40か国が本条約(29)を締結している(2025年10月時点)。2020年以降の条約改正交渉を経て、2024年12月のエネルギー憲章会議第35回会合で改正条約案が採択された。改正条約には、水素やアンモニアなどの新たなエネルギー原料に対する本条約上の投資保護規律の適用、投資保護に係る締約国の義務の明確化、投資家対国家の紛争解決(ISDS)手続の詳細の明文化、持続可能な開発と企業の社会的責任に係る規定の新設、通過の自由の更なる促進に係る規定などが盛り込まれた。日本は、2016年には東アジア初となるエネルギー憲章会議の議長国を務めるなど、ECTの発展に貢献してきている。なお、2021年9月から、ECTに基づき設置されているエネルギー憲章事務局の副事務局長に廣瀬敦子氏が日本人として就任している。

(オ)広報分野での取組

3月、外務省は、「エネルギー移行におけるエネルギー安全保障」をテーマに、ハイブリッド形式でのセミナーを開催した。本セミナーでは、IEA、戦略国際問題研究所、東アジア・アセアン経済研究センター及び日本エネルギー経済研究所の専門家による基調講演が行われ、後半のパネルディスカッションでは、エネルギー移行に伴って現れる新興のエネルギー安全保障リスク及び変質しながらも残り続ける伝統的なエネルギー安全保障リスクに対して必要な取組について、活発な議論が行われた。

(3)食料安全保障の確保

ア 食料安全保障をめぐる情勢

世界の食料安全保障の状況は、新型コロナの流行、エネルギー価格の高騰、気候変動、紛争などによる複合的リスクにより、サプライチェーンの混乱や途絶といった農業・食料システムへの影響が顕在化していたところに、ロシアのウクライナ侵略によって、特にアフリカや中東を中心に世界規模で急激に悪化した。さらに、食料生産のための土地利用、気候変動に適応した農業生産、効率的な肥料の利用などといった持続可能で強靱な農業・食料システムの構築に向けた課題に直面している。

2025年の「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)」(30)によると、2024年には世界全体で6億3,800万人から7億2,000万人が飢餓に直面したと推定され、東南アジア、南アジア及び南米等の地域では飢餓人口が減少したものの、アフリカのほとんどの地域及び西アジアでは依然として増加している。

イ 食料安全保障の確保に向けた外交的取組

外務省として、国際社会における食料安全保障の確保に向けて、これまで以下のような外交的取組を実施・強化してきている。

(ア)国際的枠組みにおける協力

G20においては、2025年の議長を務めた南アフリカの下、食料安全保障タスクフォースが設けられ、日本は議論に積極的に貢献した。このタスクフォースが策定した「食料安全保障及び栄養、並びに過剰な食料価格の変動に関するウブントゥ・アプローチ」は、全ての人々が、十分かつ安全で負担可能な価格の栄養価の高い食料を入手できる未来を形作るとの決意の下、特に低所得世帯における過剰な食料価格の変動の悪影響に対処することを目的として、今後も強靭で持続可能な食料システム及び食料安全保障を確保していくとの内容であり、その作成は、11月のG20ヨハネスブルグ・サミットにおいても首脳レベルで歓迎された。また、同サミットのセッション2「強靱な世界―G20の貢献」において、日本は、強靱で持続可能な農業・食料システムを構築するために、各地域の実情に応じた生産力強化に向けた支援を行っていくと発信した。

(イ)国際機関との連携強化

日本は、国際社会の責任ある一員として、食料・農業分野における国連の筆頭専門機関である国連食糧農業機関(FAO)(31)の活動を支えている。日本は、主要ドナー国の一つとして、強靱で持続可能な食料システム構築に資する開発援助の実施や、食品安全の規格などの国際的なルール作りなどを通じた世界の食料安全保障の強化に大きく貢献している。また、日・FAO年次戦略協議を実施し、FAOの事業への日本の政策方針の反映等を含め、日・FAO関係の強化にも取り組んでいる。

(4)漁業(マグロ・捕鯨など)

日本は世界有数の漁業国及び水産物の消費国であり、海洋生物資源の適切な保存管理及び持続可能な利用に向け、国際機関を通じて積極的に貢献している。

日本は、鯨類は科学的根拠に基づき持続的に利用すべき海洋生物資源の一つであるとの立場から、国際捕鯨委員会(IWC)(32)が「鯨類の保護」と「捕鯨産業の秩序ある発展」という二つの役割を有していることを踏まえ、30年以上にわたり、収集した科学的データを基に誠意を持って対話を進めてきた。しかし、持続的利用を否定し保護のみを主張する国々との共存は極めて困難であることが明らかとなったため、日本は2019年にIWCを脱退し、商業捕鯨を再開した。

日本は、領海と排他的経済水域(EEZ)(33)に限定し、科学的根拠に基づき、IWCで採択された方式により算出された、100年間捕獲を続けても資源に悪影響を与えない捕獲可能量の範囲内で商業捕鯨を行っている。

国際的な海洋生物資源の管理に積極的に貢献するといった日本の方針は、IWC脱退後も変わることはない。日本はIWCを脱退した2019年以降もIWC総会やIWC科学委員会へのオブザーバー参加を続け、北大西洋海産哺乳動物委員会(NAMMCO)(34)といった国際機関に積極的に関与し協力を積み重ねている。また、日本は非致死性の鯨類資源科学調査を展開し、その一部はIWCと共同で実施している。その成果は、鯨類資源の持続的利用及び適切な管理の実現の基礎となる重要なデータとして、IWCを始めとする国際機関に提供している。

違法・無報告・無規制(IUU)漁業は、持続可能な漁業に対する深刻な脅威である。2025年に行われた第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)やG7、G20、APECなどを始めとする国際会議の機会を捉え、国際社会が連携しつつIUU漁業対策を推進していくことの重要性を引き続き確認した。また、日本は、寄港国がIUU漁船に対して入港拒否などの措置をとることについて規定する「違法漁業防止寄港国措置協定」(PSMA)(35)への加入を未締結国に対して呼びかけている。さらに、開発途上国に対してIUU漁業対策を目的とした関連機材の供与を含む能力構築支援を行っている。

JICAによるIUU漁業対策のための研修の実施(9月10日、岩手 写真提供:JICA)
JICAによるIUU漁業対策のための研修の実施
(9月10日、岩手 写真提供:JICA)

中央北極海では、地球温暖化に伴う一部解氷によって、将来的に無規制な漁業が行われる可能性が懸念されている。このような懸念を背景として、2021年6月、北極海沿岸5か国に日本などを加えた10か国・機関が参加する「中央北極海無規制公海漁業防止協定」が発効した。2025年6月に開催された同協定の第4回締約国会合では、試験漁業に係る保存管理措置の策定などに向けた議論が行われた。

日本は、まぐろ類の最大消費国として、まぐろ類に関する地域漁業管理機関(RFMO)(36)に加盟し、年次会合などにおいて保存管理措置の策定に向けた議論を主導しており、近年、国際的な資源管理を通じた積極的な取組の成果が上がりつつある。太平洋クロマグロについては、12月、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)(37)の年次会合において、管理方式の策定等に関する議論の進捗状況が報告された。また11月に開催された大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)(38)の年次会合において、2026年から2028年の大西洋クロマグロの総漁獲可能量(TAC)及び各締約国の国別割当の増加が認められた。ミナミマグロについては、10月に開催されたみなみまぐろ保存委員会(CCSBT)(39)の年次会合において、科学委員会からの勧告を踏まえ、2026年について、現在のTACを維持することが合意された。

サンマについては、3月、大阪で開催された北太平洋漁業委員会(NPFC)(40)の年次会合において、資源水準に応じて総漁獲可能量を自動的に算出する漁獲管理規則に基づき、サンマのTACを10%削減する措置が合意された。引き続き資源管理を一層充実させることが重要となっている。

ニホンウナギについては、6月、ウナギに関する第4回科学者会合が日本主導の下で開催され、ウナギ類の資源管理に関する科学的知見が共有された。また、同月に、静岡で、第18回ウナギの国際的資源保護・管理に係る非公式協議が対面形式で開催され、日本、韓国、中国、台湾の間で、シラスウナギの養殖池への池入れ上限の設定などについて議論及び確認が行われ、4者間で協議の結果を共同発表した(ニホンウナギの保全に係るワシントン条約締約国会合における議論は258ページ 第3章第2節2.(4)ア(イ)。

(24) シェール革命:2000年代後半、米国でシェール(Shale)と呼ばれる岩石の層に含まれる石油や天然ガスを掘削する新たな技術が開発され、また経済的に見合ったコストで掘削できるようになったことから、米国の原油・天然ガスの生産量が大幅に増加し、国際情勢の多方面に影響を与えている。

(25) OPEC:Organization of Petroleum Exporting Countries(石油輸出国機構)

(26) OPECプラスはOPEC加盟国と非加盟国の主要産油国で構成

(27) IEA:International Energy Agency

(28) ECT:Energy Charter Treaty

(29) エネルギー原料・産品の貿易及び通過の自由化、エネルギー分野における投資の保護などを規定した本条約は、供給国から需要国へのエネルギーの安定供給の確保に寄与し、エネルギー資源の大部分を海外に頼る日本にとって、エネルギー安全保障の向上に資するほか、海外における日本企業の投資環境の一層の改善を図る上で重要な法的基盤を提供している。

(30) 世界の食料安全保障と栄養の現状報告(SOFI):SOFI(The State of Food Security and Nutrition in the World)は、国連食糧農業機関(FAO)、国連児童基金(UNICEF)、国連世界食糧計画(WFP)、国際農業開発基金(IFAD)及び世界保健機関(WHO)が共同発行する世界の食料不足と栄養に関する年次報告書

(31) FAO:Food and Agriculture Organization of the United Nations

(32) IWC:International Whaling Commission

(33) EEZ:Exclusive Economic zone

(34) NAMMCO:North Atlantic Marine Mammal Commission

(35) PSMA:Agreement on Port State Measures to Prevent, Deter and Eliminate Illegal, Unreported and Unregulated Fishing

(36) RFMO:Reginal Fisheries Management Organization

(37) WCPFC:Western and Central Pacific Fisheries Commission

(38) ICCAT:International Commission for the Conservation of Atlantic Tunas

(39) CCSBT:Commission for the Conservation of Southern Bluefin Tuna

(40) NPFC:The North Pacific Fisheries Commission

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