3 北アフリカ地域情勢
(1)エジプト
中東・アフリカ・欧州地域が交差する地政学的要衝に位置するエジプトは、人口1億1,450万人以上を有する中東・北アフリカの地域大国である。エルシーシ大統領の安定した政権運営の下、8月に上院、11月に下院議員選挙が実施された。2023年10月以降のガザ情勢悪化の影響を受け、スエズ運河通行料や観光関連の収入減少はエジプト経済に多大な影響を及ぼしたが、エジプト政府が取り組む外国為替の自由化を始めとする経済改革により、実質経済成長率はプラスを維持している。
両国間の要人往来としては、7月にエルハティーブ投資・貿易相が大阪・関西万博のナショナルデーに出席した。8月にはマドブーリー首相がTICAD 9に出席するため初訪日し、石破総理大臣との会談で二国間関係及び地域・国際情勢について意見交換して緊密な連携を確認した。このほか、教育・技術教育相や観光・考古相等閣僚級の訪日が続いた。また、5月にあべ俊子文部科学大臣がエジプトを訪問、11月には日本が建設・運営や遺物修復・展示などの支援を行ってきた大エジプト博物館の正式開館式典が盛大に催され、79か国・機関から賓客が出席する中、日本政府からは高市総理大臣の特使として国光あやの外務副大臣が出席した。
ガザ情勢については、エジプトは引き続き人道支援を主導・調整し、イスラエルとハマスの間の仲介努力を行っており、情勢の沈静化に向けた議論を主導するなど地域の安定のために重要な役割を果たしている。10月9日には、米国、カタール、トルコと共に取り持った仲介が功を奏し、「ガザ戦争終結のためのシャルム・エル・シェイク合意」締結に至った。同月13日にはエルシーシ大統領がトランプ米国大統領と共同議長としてシャルム・エル・シェイク平和サミットを主催し、欧米、アラブ諸国、アジア諸国などから元首・政府首脳が出席した。シナイ半島駐留多国籍部隊・監視団(MFO)は、エジプト・イスラエル間の停戦監視活動と両国間の対話・信頼醸成の促進という重要な任務を引き続き遂行しており、日本はMFOに対して財政支援と司令部要員派遣の両面から支援を継続し、引き続き地域の平和と安定に貢献していく。8月には辻清人内閣府副大臣がMFO南キャンプを視察、11月にはディブルMFO事務局長が訪日した。
(2)リビア
リビアはアフリカ1位の原油埋蔵量を誇るエネルギー大国であるが、2011年のカダフィ政権崩壊後、東西に政治勢力が並立する不安定な状況が続いている。2019年4月には、東部の実力者であるハフタル「リビア国軍」(LNA)総司令官がトリポリへの進軍を指示し武力衝突に発展した。2020年10月に両勢力間が恒久的停戦合意に署名して以降、東西両勢力間の武力衝突事案は大幅に減少し、経済が活性化してきている。2025年8月には、ハナ・テテ国連事務総長リビア担当特別代表が国政選挙実施のためのロードマップを発表したが、国政選挙の実施を通じた政治的統一の達成には課題が山積している状況である。
日本は、2024年1月に首都のトリポリに大使館事務所を再開してから、リビアとの間で要人往来が活性化しており、2025年1月には、前年に続きラーフィー首脳評議会副議長が訪日し、林官房長官及び岩屋外務大臣と会談を行い、二国間関係を進展させるとともにリビアの安定のために平和に資する分野での協力を進めることで一致した。8月にもTICAD 9に出席するためラーフィー首脳評議会副議長が訪日し、石破総理大臣との会談を実施した。また、同時に訪日したバーウール外相代行と岩屋外務大臣との間で外相会談を実施し、人材育成や平和構築の分野で一層の協力を進めていくことについて認識を共有した。
(3)マグレブ諸国(チュニジア・アルジェリア・モロッコ)
マグレブ地域は、欧州・中東・アフリカの結節点に位置する地理的優位性や豊富な若年労働力を背景に、依然としてアフリカ北部における戦略的な重要性を有している一方、引き続き貧困層の拡大、地域格差や高失業率、インフレによる経済・社会面での不安定性の克服が課題となっている。加えて、リビアやサヘル地域からの武器や不法移民・難民の通過・定着による治安・安全保障面での影響が懸念されている。
チュニジアでは、3月にザアフラニ首相が任命された。経済面では、農業生産や観光収入の回復による外貨準備高の増加や製造業・サービス・再生エネルギー分野での外国直接投資の増加の傾向が見られる一方、貿易赤字、財政赤字、失業率の高止まり、成長率の低迷などの継続的課題に対し、構造改革の着実な推進が喫緊の課題となっている。日本との関係では、5月に松本外務大臣政務官がチュニジアを訪問したほか、8月の大阪・関西万博ナショナルデーには、アブデルハフィーズ経済・計画相が訪日した。さらに、TICAD 9には、ザアフラニ首相が参加し、首脳会談ではチュニジアの水不足解消に向けて協力することを確認するなど、二国間関係を一層強化していくことで一致した。

アルジェリアでは、9月にグリエブ首相が任命された。アルジェリア経済は、アフリカ有数の石油・天然ガス埋蔵量を背景とした炭化水素輸出に依存する構造となっている。最近では、世界的なエネルギー需要の高まりや、ロシアによるウクライナ侵略を受けた欧州を中心とするエネルギー供給源多様化の動きを踏まえて、アルジェリアの天然ガス輸出が再注目されている。こうした動きと同時に、非炭化水素分野の産業育成や外国投資の誘致など、経済の多角化を目指した経済政策の見直しも行われている。日本との関係では、5月に松本外務大臣政務官がアルジェリアを訪問し、第1回日・アルジェリア合同経済委員会を開催したほか、7月の大阪・関西万博ナショナルデーにはラルバウィ前首相が訪日した。8月のTICAD 9には、ワーダハ知識経済・スタートアップ・零細企業相が参加し、藤井比早之外務副大臣との会談を通じて、スタートアップ分野を始めとする幅広い分野で一層の協力を推進していくことで一致した。11月にはアルジェリアからスタートアップ学習遠征プログラム(ASEP)代表団が初めて訪日し、日本企業や政府関係者との面談に加え、大西洋平外務大臣政務官への表敬を行った。

モロッコでは、第2期アハヌーシュ内閣が政権運営を継続しており、水資源、気候変動、再生可能エネルギーといった政策課題に注力している。また、2030年のサッカー・ワールドカップ開催に向けたインフラ整備が加速している。西サハラ問題(8)については、10月、国連西サハラ住民投票監視団(MINURSO)の任期更新に関する国連安保理決議第2797号が採択され、同決議には、モロッコの自治提案が紛争解決の最も現実的な解決策であるとの言及が盛り込まれた。日本との関係では、10月に、ジダン投資相が訪日し、国光外務副大臣らと会談し、両国間の経済関係深化に向けた意見交換を行った。

11月1日、大エジプト博物館(GEM:Grand Egyptian Museum)がついに正式開館を迎えました。単一文明を扱う博物館としては世界最大であり、開館式典には、79か国の公式代表団が参加し、日本からは彬子(あきこ)女王殿下が御臨席されるとともに、総理特使として国光あやの外務副大臣(衆議院議員)が出席しました。

ラムセス2世像と共に(11月1日、エジプト・ギザ)

エジプト政府は開館式典を国家の一大行事と位置付け、荘厳かつ華やかな演出で世界に博物館の門出をアピールしました。式典のクライマックスとなるエルシーシ大統領のスピーチでは、唯一国名を挙げる形で日本について言及があり、「大エジプト博物館の開館には友好国日本の協力があったことを忘れてはならない。」と謝意が表明されました。また、東京の浅草寺で収録された日本のオーケストラの演奏ビデオも披露されました。
大エジプト博物館の建設に向けた日本とエジプトの協力は20年以上前、2003年の小泉総理大臣のエジプト訪問に遡ります。この訪問において、日本の博物館建設支援について合意が成立し、2006年に建設が開始されて以来、両国が様々な困難を乗り越え、ついに正式開館に至りました。
日本による協力は、博物館建設に係る円借款の供与、ツタンカーメン関連を始めとした収蔵品や展示品の保存と修復、展示方法や博物館運営に関する技術協力、そして別館に展示される「第二のクフ王の船(太陽の船)」の復原まで多岐にわたります。さらに、日本の民間企業もプロジェクトに携わってきており、博物館の外観と展示物を覆うガラスなどに日本製の機材が使われています。
こうした協力もあり、大エジプト博物館には、日本人が楽しむことができる多くの仕組みが設けられています。目玉であるツタンカーメン・ギャラリーの展示品には日本語での解説が付されており、太陽の船展示棟にも、これまでの協力について日本語での解説が掲載される予定です。また、一般公開初日から、アラビア語、英語とともに日本語版オーディオガイドも導入され、多くの展示品について日本語での解説を聞くことができます。
日本は、大エジプト博物館に蓄積された遺物保存修復に関する知見の国際社会への共有や、正式開館後の博物館運営を引き続き支援していきます。
日本とエジプトの友好関係の新たな象徴である大エジプト博物館は、二国間関係を超えてエジプトと世界の架け橋となり、エジプトの社会経済の発展につながっていくことでしょう。
(8) モロッコと民族解放組織「ポリサリオ戦線」との西サハラ地域の領有をめぐる問題
