第1節 世界とのつながりを深める日本社会と日本人
1 日本の成長と外国人材の受入れ
(1)成長戦略とビザ(査証)制度
日本政府は、「観光先進国」への新たな国造りに向けて、2016年3月末、「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定し、訪日外国人旅行者数1については、2020年に4,000万人、2030年に6,000万人という目標を設定した。これを踏まえ、外務省はこれまで、人的交流の促進や二国間関係の強化などの観点から、各国との間で、申請書類の簡素化や発給対象者の拡大を含むビザ緩和を実施し、2019年には訪日外国人旅行者数は3,188万人(出典:「「日本政府観光局(JNTO)」2020年 訪日外客数2・出国日本人数」)となった。

しかしながら、2020年からの新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」という。)の世界的な感染拡大を受けて日本や諸外国がとった水際措置の強化の影響などにより、同年以降訪日外国人旅行者数は大きく減少した。その後、日本は2022年3月から、感染拡大の防止と社会経済活動のバランスを取りながら水際措置を段階的に緩和し、10月11日には、個人観光の再開、入国者総数の上限撤廃などに加え、それまで一時停止していたビザ免除措置を再開した(ただし、12月30日以降、中国における新型コロナの感染状況の急速な悪化や詳細な状況の把握が困難であることを踏まえ、中国からの入国者などに対する入国時検査や陰性証明書の提出などの臨時的な措置を講じた(2023年1月末時点))。こうした一連の水際措置の緩和により、2022年10月から12月の訪日外国人旅行者数は約280万人に増え、回復基調を示し始めた(新型コロナ前の2019年同期比37.6%。「「日本政府観光局(JNTO)」2022年 訪日外客数・出国日本人数」(対2019年比)の速報値を元に算出)。ビザ緩和は、人的交流の促進や日本経済の成長に一定の効果を与えることが見込まれるところ、水際措置緩和後のインバウンド回復に向けた重要な取組である。
一方、犯罪者や不法就労を目的とする者、又は人身取引の被害者となり得る者などの入国を未然に防止するとの観点からは、ビザ審査の厳格化も重要な課題である。外務省としては、「世界一安全な日本」を維持しつつ訪日外国人旅行者数を増やし、富裕層、リピーター及び若年層の誘客など、質量両面で観光立国に貢献していくことを目指し、二国間関係、外交上の意義などを総合的に勘案し、水際措置とのバランスを考慮しつつ、今後もビザの緩和を検討していく。
(2)外国人材の受入れ・共生をめぐる取組
日本国内で少子高齢化や人口減少が進行しつつある中、中小・小規模事業者を始めとする各事業者の深刻化する人手不足に対応するため、生産性向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく特定技能制度が2019年4月に創設された。外務省は、法務省、厚生労働省及び警察庁と共に同制度の制度関係機関として、送出国との情報連携の枠組みなどを定める協力覚書の作成や同覚書に基づく二国間協議に参画しているほか、主要送出国の現地語による広報を行っている。
さらに、新たな外国人材の受入れ及び日本で生活する外国人との共生社会の実現に向けた環境整備については、政府一体となって総合的な検討を行うため「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」が設置されており、6月に「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」及び「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(令和4年度改訂)」が決定された。また、外務省では、国際移住機関(IOM)との共催で「外国人の受入れと社会統合のための国際フォーラム」を毎年開催しており、受入れに係る具体的課題や取組について国民参加型の議論の活性化に努めている。
1 訪日外国人旅行者とは、国籍に基づく法務省集計による外国人正規入国者数から日本に居住する外国人を除き、これに外国人一時上陸客などを加えた入国外国人旅行者のこと
2 「訪日外客」は「訪日外国人旅行者」と同義