第3節 北米
1 概観
ロシアによるウクライナ侵略、北朝鮮によるこれまでにない頻度と態様で繰り返される弾道ミサイル発射や、東シナ海・南シナ海における力を背景とした一方的な現状変更の試みの継続・強化などにより、地域及び国際社会の安全保障環境は急速に厳しさを増しており、2022年は、国際社会が歴史的な大きな転換点に置かれる1年となった。国際秩序が挑戦に晒(さら)され、大きく揺らいでいる今ほど、同盟国・同志国との連携が求められている時はない。
米国は日本にとって唯一の同盟国である。強固な日米同盟は、日本の外交及び安全保障の基軸であり、インド太平洋地域の平和と安定の礎である。また、G7のメンバーであり、普遍的価値を共有するインド太平洋地域の重要なパートナーであるカナダとの協力も不可欠である。
厳しさを増す国際情勢を踏まえ、2022年は米国とカナダの外交戦略にも変化が生じた年となった。米国は2月にインド太平洋戦略、10月には国家安全保障戦略を発表した。インド太平洋戦略では米国は自らをインド太平洋国家と位置付け、インド太平洋への長期的立場とコミットメントを強化することへの決心を述べた上で、「自由で開かれた、つながりのある、繁栄した、安全で強靭(じん)なインド太平洋」を実現することを約束した。さらに、10月には、バイデン政権下では初となる国家安全保障戦略が発表された。ここでは、国際社会が直面する戦略的な競争などに対し、米国がリーダーシップをとりながら、日本を含む同盟国・同志国と連携しつつ対応していく考えが示された。さらに、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の推進が明記され、尖(せん)閣諸島を含む日本防衛への揺るぎないコミットメントが再確認された。
カナダもまた、11月に初めてとなるインド太平洋戦略を発表した。同戦略は、今後10年間にわたり、インド太平洋地域へのカナダの関与を深めるための包括的なロードマップとの位置付けで、「同地域の自由で開かれた、かつ持続可能で包括的な秩序を強化すること」を戦略の基本とする。カナダが従来重視していた分野に加え、カナダが同地域への関与を強めていることを象徴する動きであった。
こうした背景の中、2022年は日本と米国及びカナダとの関係が一層深化した年となった。ポスト・コロナに向けて様々な分野で人的交流が再開の兆しを見せる中、2022年に日米間では首脳間で8回(うちテレビ会談1回、電話会談2回)、外相間で13回(うち電話会談6回)会談を行うなど、ハイレベルで頻繁な政策のすり合わせが行われた。特に、首脳間では1月のテレビ会談や、5月のバイデン大統領訪日時の会談、外相間では7月の林外務大臣訪米時の会談など、首脳間、外相間の深い信頼関係の下で、日米同盟はますます強固なものとなっており、両国は、ウクライナや北朝鮮、中国などの地域情勢や新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)、気候変動、核軍縮・不拡散などの地球規模課題への対応において緊密に連携している。
特に、5月のバイデン大統領訪日の際には、首脳会談の成果として日米首脳共同声明「自由で開かれた国際秩序の強化」を発出した。この声明は、現下の国際情勢やインド太平洋地域の戦略的重要性を踏まえた、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・発展を目指す日米の共同戦略を示したものであり、この首脳会談で示された方向性に基づき、7月の林外務大臣の訪米や、故安倍晋三国葬儀への参列のためのハリス副大統領の訪日を始め、政治・安全保障、経済、人的交流を含めたあらゆる分野で日米同盟は強化された。
また、日・カナダ間では、2022年、首脳間で3回(うち電話会談2回)、外相間で4回会談が行われた。厳しい安全保障環境の中、両国の協力は地域の平和と繁栄のために不可欠であり、10月には林外務大臣と外務省賓客として訪日したジョリー外相との間で「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)に資する日加アクションプラン」を発表した。同アクションプランは、日本及びカナダが共有する優先協力6分野における具体的な取組をまとめたものであり、FOIP実現に向けて今後、日・カナダ協力を具体的に進める上での羅針盤となるものである。