外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

第5節 欧州

1 概観

〈基本的価値や原則を共有する欧州との連携の重要性〉

欧州連合(EU)1及び欧州各国は、日本にとり、自由、民主主義、法の支配及び人権などの基本的価値や原則を共有する重要なパートナーである。新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)が拡大する中で、国際社会が直面する諸課題に対応し、国際社会において基本的価値を実現していく上で、EU及び欧州各国との連携が必要となっている。

欧州各国は、EUを含む枠組みを通じて外交・安全保障、経済、財政などの幅広い分野で共通政策をとり、国際社会の規範形成過程において重要な役割を果たしている。また、言語、歴史、文化・芸術活動、有力メディアやシンクタンクなどを活用した発信力により、国際世論に対して影響力を有している。欧州との連携は、国際社会における日本の存在感や発信力を高める上で重要である。

〈欧州における新型コロナ対応〉

2021年に入ってからも、2020年12月に英国で新型コロナ変異株(アルファ株)が確認されたことを受けイングランド全域でロックダウンが実施されるなど、欧州諸国は厳しい国内規制を迫られた。4月にはフランスでも全土でロックダウンが実施されるなど、欧州全体でこのような規制強化の傾向は春頃まで続いた。しかし、夏のバカンスシーズンを前にして各国ではワクチン接種が進展し、飲食店・娯楽施設の営業再開や学校の授業再開など、新型コロナ対策と社会・経済活動との両立に向けて規制緩和が進められた。6月以降、デルタ株の感染拡大や規制緩和を受けて各国において感染者数が再び増加傾向に転じたものの、重症者数・死者数は比較的抑制された。こうした中、英国では6月から7月にかけて数万人の観客を動員した大規模スポーツ大会が開催されるなど、各国にさきがけて「ウィズ・コロナ」へと舵(かじ)を切り、ほとんどの規制を撤廃する動きが見られた。

7月にEUにおいて「EUデジタル新型コロナ証明書」の運用が開始されたことを始めとして、夏以降は積極的なワクチン接種証明書の活用による社会・経済活動の再開が進められた。多くのEU加盟国では店舗や施設、交通機関の利用などにおいて同証明書の提示が義務付けられている。

8月、欧州委員会がEU成人人口70%へのワクチン接種完了という目標を達成したと宣言し、未接種者への引き続きの接種推奨、接種ギャップ解消のための低中所得国支援、国際協調の必要性などを訴えた。

その後、11月中旬頃まで全体的に規制緩和の傾向が続いていたが、同月下旬にオミクロン株が発生したことを受けて各国は再度防疫措置や国内規制を強化する方向に転じた。12月も同変異株の感染が欧州全体に広がりを見せる中で、マスクの着用義務化や娯楽施設の入場制限など、規制強化の流れが継続した。

〈域外との関係〉

中国との関係については、4月及び7月に仏独中オンライン首脳会談が実施され、また各国別でも習近平(しゅうきんぺい)国家主席とのオンライン首脳会談をドイツが4回、フランスが2回、イタリアが1回、それぞれ行うなど、中国との関係をマネージしようとの動きも見られたほか、「EU中国環境・気候ハイレベル対話」が開催されるなど、例えば、気候変動などの地球規模課題では協力していく動きも見られた。一方、欧州の対中警戒感は高まっており、特に香港情勢や新疆(きょう)ウイグル自治区の人権状況に加え、南シナ海や台湾をめぐる情勢への関心が高い。3月にはEU外務理事会が新疆ウイグル自治区における大規模な恣意的拘束を理由に対中制裁を決定したほか、9月の「インド太平洋における協力のための戦略に関するEU共同コミュニケーション」の発表及び欧州議会における新たなEU中国戦略に関する決議の採択などにみられるように、中国に対する懸念が大きくなっている。また、欧州においては経済的威圧や偽情報に関する関心が高まっており、欧州委員会は12月、EU又はEU加盟国への第三国による経済的威圧に対する反威圧措置規則案を発表した。米国との関係については、バイデン米国大統領が6月に欧州を歴訪し、新型コロナ、気候変動、貿易・投資など幅広い分野で協力していく方向性が示された。また同時期に開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会合において、日本を含むアジア太平洋のパートナー国との政治的対話及び実務的協力を拡大することが、同会合で発出されたコミュニケにより公表された。

ロシアとの関係は、欧州にとり最優先課題の一つであり続けてきたが、2022年2月のロシアによるウクライナへの侵略開始を欧州は厳しく非難し経済制裁を科すなど、対立が先鋭化している。

〈重層的できめ細やかな対欧州外交〉

欧州では、新型コロナの拡大により、自由、民主主義、人権などの基本的価値の重要性が認識されている一方、EU内でも復興基金や法の支配の議論、さらには域外国との関係などについて各加盟国の考えに違いが存在している。こうした中、日本は、強く結束した欧州を支持するとともに、重層的かつきめ細やかな対欧州外交を実施している。2021年は、新型コロナの影響により要人往来は大きな制約を受けたが、テレビや電話を活用した外交を積極的に展開した。

また、英国議長下で開催されたG7コーンウォール・サミット(6月)やG7外務・開発大臣会合(5月及び12月)、イタリア議長下のG20外相会合(6月)などへの対面出席の機会を捉え、英国、フランス、ドイツなどとの首脳会談や外相会談を行い、「自由で開かれたインド太平洋」の実現や気候変動、新型コロナ対応などのグローバルな課題に関する協力などを確認した。また、2021年は特に欧州諸国との安全保障・防衛協力が深化し、2月には日英外務・防衛大臣閣僚会合(2+2)、4月には初となる日独「2+2」をオンラインで実施するとともに、英仏蘭独艦船のインド太平洋への派遣と日本寄港、共同訓練などが実現した。

EUとの関係では、2019年2月に発効した日・EU経済連携協定(EPA)、同時に暫定適用が開始された日・EU戦略的パートナーシップ協定(SPA)、2019年9月に署名した日・EU連結性パートナーシップ、2021年5月に立ち上げられた「日EUグリーン・アライアンス」を基盤として、緊密な協力を行っている。同月、菅総理大臣は、ミシェル欧州理事会議長及びフォン・デア・ライエン欧州委員長と日・EU定期首脳協議(オンライン)を行い、インド太平洋における協力強化、新型コロナ対策などでの日・EU間の連携を含むグローバルな課題に向けた取組や日・EU関係の更なる発展に向けた協力を確認した。NATOとの関係では、2020年に更新した「日NATO国別パートナーシップ協力計画(IPCP)」を基に、サイバーなどの分野で具体的な協力を進めてきている。また、女性・平和・安全保障(WPS)分野などにおける協力推進のため、2021年12月からNATO本部に4代目となる女性自衛官を派遣している。

また、ヴィシェグラード4(V4)2、バルト三国、西バルカン諸国といった地域とは、二国間関係やEUなどを通じた協力に加えて、5月に茂木外務大臣はポーランドを訪問して「V4+日本」外相会合に出席、また7月には日本の外務大臣として初のバルト三国歴訪を実現して、各国との協力関係を促進し、重層的な外交を実施した。

さらに、欧州から青年を招へいする人的・知的交流事業「MIRAI」(104ページ コラム参照)や、講師派遣、欧州のシンクタンクとの連携といった対外発信事業を実施し、日本やアジアに関する正しい姿の発信や相互理解などを促進している。特に、オンラインでの交流を活用して、欧州各国・機関や有識者との間で、政治、安全保障、経済、ビジネス、科学技術、教育、文化、芸術など幅広い分野で、情報共有や意見交換を行い、欧州との関係強化に取り組んでいる。

1 EU:European Union

2 詳細についてはP.112「その他の欧州地域」を参照

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