外交青書・白書
第5章 国民と共にある外交

2 外交実施体制の強化

日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増し、国際社会におけるパワーバランスの変化が加速・複雑化する中、また、新型コロナが広がる中においても、ポスト・コロナを見据えながら、機動的な外交を進め、国民の安心・安全を確保する外交を推進するためには、外交実施体制の一層の強化が不可欠である。そのため外務省は、在外公館の数と質の両面の強化や外務本省の組織・人的体制の整備を進めている。

大使館や総領事館などの在外公館は、海外で国を代表し、外交関係の処理に携わるとともに、外交の最前線での情報収集・戦略的な対外発信などの分野で重要な役割を果たしている。同時に、邦人保護、日本企業支援や投資・観光の促進、資源・エネルギーの確保など、国民の利益増進に直結する活動も行っている。

在外公館数の推移
在外公館数の推移
CSV形式のファイルはこちら
主要国との在外公館数の比較
主要国との在外公館数の比較
CSV形式のファイルはこちら

2021年1月には、新たに在ハイチ日本国大使館及び在セブ日本国総領事館(フィリピン)を開設した。その結果、2020年度の日本の在外公館(実館)数は、229公館(大使館153、総領事館66、政府代表部10)となっている。

ハイチは、カリブ共同体内で最大の人口を有する一方で、中南米の最貧国であり、自然災害が頻発する中、同国をめぐる国際社会の関心は高い。また、ハイチは、国際場裡(じょうり)において、日本の立場を数多く支持してきた伝統的な親日国である。セブは、マニラに次ぐフィリピン第2の都市圏であり、セブを含むビサヤ地域では近年、旅行者や語学留学生を含む邦人渡航者や日系企業が大幅に増加している。両国への大使館・総領事館の設置を通じ、より高いレベルで二国間関係を構築するとともに、邦人保護、日系企業支援、国際場裡での協力などを強化していく。

2021年度には在ダナン日本国総領事館(ベトナム)を新設する予定である。ダナンは、経済成長が著しく、日系企業数、在留邦人共に増加している。また、ダナンは、南シナ海に面した安全保障上の要衝であり、「自由で開かれたインド太平洋」の推進に向けて、東西経済回廊の起点として重要な戦略拠点の一つとされている。ダナンに、安全保障及び経済の情報収集拠点を設けることで、同地域との関係を重層的に深化させることが重要である。

在外公館の増設と併せて、外務本省及び各在外公館で、外交を支える人員を確保・増強することが重要である。政府全体で厳しい財政状況に伴う国家公務員総人件費削減の方針がある中で、積極的平和主義の展開、在外邦人保護・安全対策、情報収集・分析能力の強化、インフラ輸出の促進を含む日本経済の一層の活性化、戦略的対外発信、二国間関係・地域情勢などに対応するため、外務省の定員数は6,358人となった(2019年は6,288人)。しかしながら、依然として他の主要国と比較して人員は十分とはいえず、引き続き日本の国力・外交方針に合致した体制の構築を目指すための取組を実施していく。なお、2021年度も、外交実施体制の強化が引き続き不可欠との考えの下、72人の人員増を行う予定である。

主要国外務省との職員数比較
主要国外務省との職員数比較
CSV形式のファイルはこちら
外務省職員数の推移
外務省職員数の推移
CSV形式のファイルはこちら

また、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現や、法の支配に基づく国際秩序の強化に向けた体制強化のため、外務省は2020年度予算で7,120億円(対前年度比186億円減)を計上した。2020年度補正予算に関しては、第一次補正予算で1,028億円、第二次補正予算で21億円、第三次補正予算で1,349億円を計上した。第一次補正予算においては、開発途上国における新型コロナの影響を緩和すべく、アジア、大洋州、中東、アフリカ、中南米などの開発途上国における感染拡大防止・予防のための支援や海外日本企業支援などを中心に計上した。第三次補正予算においても、新型コロナの世界的な感染拡大の防止やその影響を受けている人々への支援などの予算を計上した。

2021年度当初予算政府案では、①人間の安全保障の危機である新型コロナを克服するとともに、ポスト・コロナを見据えた取組を進めること、②日本と日本国民の安全を守るべく、「力強さ」のある外交を推進すること、③国際社会との連携・協力を一層進め、「包容力」のある外交を推進することを重点項目とし7,097億円を計上している(ただし、このうち、デジタル関係予算(138億円)は内閣官房予算として計上される。)。この中では、開発途上国への保健・医療分野の支援を強化すべく、二国間や国際機関経由の支援の予算を拡充した。また、新型コロナの感染拡大の下での経験も踏まえ、緊急事態対応を含む在外邦人保護強化や外交・領事業務を継続的に実施していくために必要な予算として、緊急事態における邦人などの退避のための予算や、外務大臣用チャーター機予算などを拡充の上、計上した。そのほか、同盟国・同志国との協力強化のための会議開催費用や、宇宙・サイバーなどでの新たなルール作りのための予算などを計上した。

日本の国益増進のため、引き続き、一層の合理化への努力を行いつつ外交実施体制の整備を戦略的に進め、一層拡充していく。

公邸料理人
~外交の最前線の担い手として~

公邸料理人とは、調理師としての免許を有する者又は相当期間にわたって料理人としての職歴を有する者で、在外公館長(大使・総領事)の公邸などにおける公的会食業務に従事する資格があると外務大臣が認めた者を言います。在外公館は、任国政府などとの交渉・情報収集・人脈形成などの外交活動の拠点です。在外公館長の公邸において、任国政財官界の有力者や各国外交団などを招待して会食の機会を設けることは、最も有効な外交手段の一つです。その際に高品質の料理を提供すべく、在外公館長は通常、専任の料理人を公邸料理人として帯同しています。

未知の食材と和食、コロナ禍での活動
在リオデジャネイロ日本国総領事公邸料理人 新宮健夫

私は在ミラノ日本国総領事公邸料理人を経て、2019年11月から在リオデジャネイロ日本国総領事公邸料理人として、大鶴総領事の下で勤務しています。公邸料理人として勤務する以前、私は世界13か国を訪れ、各地の様々な食材を積極的に試してきました。そして、新たな食材に出会い、地場食材を使いながら和食の素晴らしさを伝えたいという思いから、公邸料理人を志しました。

美味しい和食を提供するに当たって重要なのは、新鮮な食材の確保です。冬でも海水浴ができるほど暑い当地で、刺身や寿司として使用できる魚介類が手に入るか心配していましたが、意外にも新鮮な魚介類が豊富に手に入ります。また、1908年に日本からの移住者がブラジルへ渡り、現在では約200万人の世界最大の日系社会が存在し、日系人の御尽力により数多くの日本の野菜・果物がブラジル国内で生産されているため、スーパーや青空市でもきゅうり、大根などが手に入るほか、一部食材は、同国の公用語であるポルトガル語にもなっています(椎茸(しいたけ):(shitake)、しめじ(shimeji)、ニラ(nirá)、柿(caqui))。

一方で、ブラジルならではの食材も和食に取り入れています。例えば、ジャンブーという野菜は花が山椒(さんしょう)のようにピリピリとするので、煮付けや麻婆(マーボー)豆腐にかけ、葉は佃煮(つくだに)にして食べるとおいしいです。カラという山芋に似た食材は、料理のつなぎとして重宝しています。また、アマゾン地域の鱒(ます)科の魚は脂がのっていて、大根おろし、醤油とレモンを添えればご飯が進みます。日本でもアサイー、アセロラは知っていましたが、例えば当地のアサイーは日本で食べた味とは全く異なります。採れたてのアサイーは青臭くドロドロとしていますが、砂糖を少し加えると爽やかな味になり、びっくりするほどおいしいです。

会食の献立で、お客様に是非味わっていただきたい料理が3品あります。まず、焼き物は、牛肉を2時間低温調理しパッションフルーツをベースにしたソースをかけてお出しします。蒸し物は、魚介と筍(たけのこ)をベースにした茶碗蒸しの上に2日間煮込んだ海老(えび)をベースにしたソースをかけたものです。また、揚げ物は、鮮度の良い海老の天ぷらを抹茶塩でお召し上がりいただきます。この3品は初めて会食に出席されるお客様には必ず提供しており、幸い皆様から好評を得ています。

残念ながら、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、4月からは会食全般が実施できない期間がありましたが、その間にブラジルの一般家庭でも作れる地場食材を使用した和食のレシピ動画を総領事インスタグラムで紹介しました。特に天ぷらのレシピ動画は人気が高く、和食の代表的な料理である天ぷらがポルトガル語のテンペーロ(味を付けるという意味)に由来があることにも興味を持っていただけました。その後、8月頃からは万全な新型コロナ対策を行った上で、少人数に絞った会食を実施できるようになりました。

ブラジルには知らない食材がまだまだ沢山ありますので、そうした食材も取り入れつつおいしい和食を作るため、これからも日々精進していきます。

天皇誕生日祝賀レセプションで
天皇誕生日祝賀レセプションで
蒸し物(海鮮茶碗蒸し)
蒸し物(海鮮茶碗蒸し)
インスタグラムでの和食動画発信
インスタグラムでの和食動画発信

外務省では、公邸料理人として共に外交に携わってくださる方を随時募集しています。

御関心のある方はぜひ以下のURL又はQRコードからお問い合わせください。

【国際交流サービス協会 http://www.ihcsa.or.jp/zaigaikoukan/cook-1/

国際交流サービス協会QRコード

公邸料理人の活躍はSNSアカウント「外務省×公邸料理人(フェイスブック、ツイッター)」でも御覧いただけます。

フェイスブック:
https://www.facebook.com/MofaJapanChef

外務省×公邸料理人フェイスブックQRコード

ツイッター:
https://twitter.com/mofa_japan_chef

外務省×公邸料理人ツイッターQRコード
このページのトップへ戻る
青書・白書・提言へ戻る