2 外交実施体制の強化
北朝鮮の核実験、ミサイル発射等、日本を取り巻く安全保障環境がますます厳しさを増し、外交課題も多様化しつつある中、外交実施体制を一層拡充していくことが不可欠である。こうした認識の下、外務省は、大使館や総領事館などの在外公館や外務本省の組織・人的体制の整備を進めている。
大使館や総領事館などの在外公館は、海外で国を代表するとともに、外交の最前線での情報収集・戦略的な対外発信・外交関係促進・国際貢献などの分野で重要な役割を果たしている。同時に、邦人保護、日本企業支援や投資・観光の促進、資源・エネルギーの確保など、国民の利益増進に直結する活動も行っている。
2018年1月には、在キプロス日本国大使館、在レシフェ日本国総領事館(ブラジル)、アフリカ連合日本政府代表部(エチオピア)を開設した結果、2017年度の日本の在外公館(実館)数は、223公館(大使館150、総領事館64、政府代表部9)となっている。
近年、中東情勢が不安定化する中で、EU加盟国であるとともに中東に近接するキプロスは、地政学的重要性が高まっている。良好な二国間関係を更に発展させることに加え、中東・北アフリカ有事の際の退避地ともなり得ることも踏まえ、時宜(じぎ)を得た情報収集や現地体制の強化が重要である。
ブラジル北東部にあるレシフェは、経済的な重要性が高まっていることに加え、同総領事館管内には約18万人の日系人が居住し、日本が重視する日系社会との連携強化における重要地域でもある。
アフリカ連合日本政府代表部は、アフリカ連合(AU)の執行機関であるAU委員会(AUC)及びアフリカ各国との協力関係を強化し、アフリカ開発会議(TICAD)を通じたアフリカ開発支援や、国連安保理改革等の重要政策課題への取組を一層進めていくために重要である。
2018年度には、外交実施体制を持続可能な形で強化するため、ベラルーシに大使館、フィリピンのダバオに総領事館、カナダのモントリオールに国際民間航空機関(ICAO)日本政府代表部及びベルギーに北大西洋条約機構(NATO)日本政府代表部(兼館)を新設する予定である。
ベラルーシは、ウクライナ問題の解決に向けた和平交渉の場として首都ミンスクを提供するなど、EUとロシアとの境界国として、地政学的・経済的に重要である。また、同国はチェルノブイリ原発事故の最大の被災国であることから、日本は東京電力福島第一原子力発電所事故後に同国と原発事故後協力協定を締結し、この分野での貴重なパートナーとして知見の共有を進めている。
ダバオ(フィリピン)は、ドゥテルテ大統領(前ダバオ市長)の地元であり、同大統領がダバオとマニラを往復しながら大統領としての職務を遂行していることからも、政治的重要性が高まっている。日系企業及び在留邦人も増加傾向にあり、日本企業支援や邦人保護等のニーズが拡大している。一方、イスラム過激派によるテロ発生の不安定要因があることから、邦人の安全確保に向けた取組が重要となっている。
国際民間航空機関(ICAO)は、国際民間航空のルールの策定・実施確保に取り組む国連専門機関であり、空の外交・安全保障にも密接に関連している。北朝鮮による度重なる弾道ミサイルの発射や中国による防空識別圏の設定等、日本の安全保障及び民間航空の安全確保に重大な影響を及ぼす事案に際し、日本はICAOで情報収集を行うとともに、米国、韓国等ほかの加盟国と連携しつつ、ICAOに対し適切な措置を採るよう働きかけを実施している。
北大西洋条約機構(NATO)は、国際社会の平和・安定に関する喫緊の課題に対応し、域外の安定確保に向けた活動も実施している。NATOはサイバー、テロ等、日本と共通の安全保障課題を抱えており、2014年5月に、安倍総理大臣がNATO本部を訪問した際に署名した国別パートナーシップ協力計画(IPCP)に基づき実務的な協力を進めてきている。日本政府代表部の開設によってNATOとの協力が強化されることは、日米欧間の同盟のネットワークを強化し、国際社会全体の秩序の維持や平和と安定に寄与するものであり重要である。
在外公館の増設と併せて、外務本省及び各在外公館で、外交を支える人員を確保・増強することが重要である。政府全体で厳しい財政状況に伴う国家公務員総人件費削減の方針がある中で、在外邦人の安全対策強化・テロ関連情報収集機能強化、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の更なる展開、経済外交の推進と邦人の海外活動支援、戦略的対外発信の強化などに対応するため、外務省の定員数は6,065人となった。しかしながら、依然として、他の主要国と比較しても人員は十分とはいえず、引き続き日本の国力・外交方針に合致した体制の構築を目指すための取組を実施していく。なお、2018年度も、外交実施体制の強化が引き続き不可欠との考えの下、安全対策と情報収集・分析能力強化、インフラ輸出を含む経済の活性化、戦略的対外発信の更なる強化、グローバル課題への対応などの重要課題に取り組むため、90人の体制増の予定である。
以上のような外交実施体制を強化するとともに、国際的な取組や議論を主導するべく、一層積極的な外交を展開するため、外務省は2017年度予算で6,926億円(対前年度比1.0%減(特殊要因を除く。))を計上した。外務省所管の2017年度補正予算の総額は1,554億円であり、追加財政需要として北朝鮮問題への対応、広域感染症等の地球規模課題への対応支援、難民問題を含む人道・テロ対策・社会安定化支援など、緊要性の高い案件に関する予算を計上している。2018年度当初予算政府案では、①不透明さを増す国際情勢に対応し、戦略的な外交を展開する、②テロ等の脅威から在外邦人や国内を守る、③日本経済を力強く外交面で後押しする及び④戦略的な対外発信を維持・強化することを重点項目とし、上記諸課題を実現するため主要国並みを目指した外交実施体制の強化/国益に資する政府開発援助(ODA)の更なる拡充を図るべく6,967億円を計上している。
日本の国益増進のためには、外交実施体制の強化が不可欠である。今後も、引き続き、更なる合理化への努力を行いつつ体制の整備を戦略的に進め、外交実施体制を一層拡充していく。