外交青書・白書
第2章 地球儀を俯瞰する外交

各論

1 イラク

2016年は、イラク治安部隊等による「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」支配地域の奪還が顕著に進展した年であった。ラマーディー(2月)、ヒート(4月)、ルトバ(5月)、ファッルージャ(6月)と西部地域の主要都市の奪還が実現し、2016年後半からはイラク北部地域での奪還作戦が進展している。10月17日には、アバーディー首相がISILの最大拠点であるモースルの解放作戦開始を宣言し、イラク治安部隊等が掃討作戦を継続している。

イラク全図
イラク全図

軍事的にはISIL掃討が進み、政府は求心力を維持しているが、内政上は、アバーディー首相による内閣改造が未完のままであり、複数の閣僚が汚職をめぐり辞任するなど、政治的な対立・緊張が継続している。また、イラクの重要課題である国民和解の進展においても目に見える進展がない。

テロとの闘いを進めるイラクでは、300万人を超える国内避難民が発生し、人道支援ニーズが極めて高い状況にある。日本はこの状況を踏まえ、1月、イラクに対する約1億米ドルの人道・安定化支援を決定し、避難民への食料・水・生活必要物資等の供与のほか、避難民の帰還・定着のための家屋の修復、職業訓練等の支援を実施した。

また、7月20日、イラクにおける深刻な人道危機に対処するため、ワシントンDC(米国)において、ケリー米国務長官主催により開催された「イラク支援のためのプレッジ会合」において、日本から武藤容治外務副大臣が首席代表として出席し、米国やドイツ等と共に共同議長を務めた。同会合において、日本は計1,000万米ドルの追加的な人道・安定化支援を発表するとともに、悪化するイラクの人道情勢を受け、2017年及び2018年においても2016年に実施した約1億米ドル規模の人道・安定化支援を維持する意向を表明した。

イラク支援のためのプレッジ会合に出席する武藤外務副大臣(7月21日、米国・ワシントンDC)
イラク支援のためのプレッジ会合に出席する武藤外務副大臣(7月21日、米国・ワシントンDC)

現在、イラクは油価の下落や戦費の拡大等により深刻な財政状況に直面しているが、テロとの闘いの最前線に立つイラクが財政危機に陥り不安定化することを避けるため、日本が議長国を務めた2016年5月のG7伊勢志摩サミットにおいて、G7全体として36億米ドルの財政支援が結集された。

要人往来については、2月にマフディー石油相が訪日し、林幹雄経済産業大臣、武藤外務副大臣、日本企業関係者等と活発に意見交換を行い、経済関係を中心に両国の関係強化が図られた。

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