第4節 欧州
欧州は、欧州連合(EU)加盟28か国が外交・安全保障、経済、財政といった様々な分野で共通政策をとる傾向にあり、言語、歴史、文化・芸術活動、有力メディアやシンクタンクの発信力などを背景に、国際世論に対して大きな影響力を有しているほか、経済面でも、EU加盟28か国合計で世界の国内総生産(GDP)の約22%を占めるなど、大きな存在感を示している。また、欧州には、国連安全保障理事会(国連安保理)の常任理事国やG7等の主要な国際的枠組みの構成国も含まれ、国際社会での規範形成過程において大きな役割を果たしている。2016年6月の英国のEU離脱に関する国民投票の結果は、大きな驚きを与えるものであり、今後厳しい離脱交渉が予想されるが、以上のような欧州の重要性は、英国のEU離脱後も、大きく変わるものではない。
日本と欧州は、自由、民主主義、人権、法の支配等の基本的価値や原則を共有し、自由で開かれた国際秩序に深くコミットしていることを踏まえ、引き続き協力関係を深めている。
また、日本は、欧州各国との二国間関係に加え、EU、北大西洋条約機構(NATO)、欧州安全保障協力機構(OSCE)等の欧州の地域機関との協力及びアジア欧州会合(ASEM)を通じたアジアの民主主義国家と欧州との関係を一層強化するとともに、「V4(チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア)+日本」や「NB8(北欧・バルト8か国)+日本」、「GUAM(ジョージア、ウクライナ、アゼルバイジャン及びモルドバ)+日本」など、欧州域内の地域的枠組みとの協力推進を通じて、全体として日欧関係の幅を更に広げていく必要がある。
欧州は、経済が緩やかに回復しつつある一方、南欧諸国等の債務問題や高い失業率等が引き続き課題となっている。また、主に中東・アフリカ地域からの多数の移民・難民の流入、テロ事件の多発、サイバー攻撃を含む複数の手段を組み合わせたハイブリッド脅威の増大といった諸課題にも直面している。これらの課題への不満等を背景に、欧州各地で既存の政治を否定する政治勢力への支持が増える傾向にある。
上記の諸課題に対し、欧州諸国、EU及びNATOは、移民やテロ対策、安全保障分野での協力などを強化し、米国との同盟関係及び欧州統合の維持・推進に努力するほか、EUが約10年ぶりに外交・安全保障政策のためのグローバル戦略を定めるなど、欧州は周辺地域を始め、欧州域外の脅威に積極的に対応するよう努力している。オランダ総選挙、フランス大統領選挙、ドイツ連邦議会選挙等の国政選挙が欧州諸国で行われる2017年は、今後の欧州の行方を占う重要な1年となる。
欧州への大規模な難民の流入は、現下のEUが抱える大きな困難の1つである。約125万6,000人の難民(EU加盟国への難民庇護(ひご)申請数)が流入した2015年に続き、2016年も難民流入が続いた。しかし、3月、新たにトルコからギリシャに越境した非正規移民をトルコに送還することを含むEU・トルコ間合意が成立した結果、2016年の欧州への難民の流入は大幅に減少し、約36万4,000人となった。しかしながら、アフリカ諸国等からの地中海中央ルートによる難民等の流入継続、EUによる域境管理の強化、EU内での難民受入れの公平な負担、EU・トルコ間合意の維持などが引き続き課題である。
難民対策とあいまって、欧州ではテロ対策も急務である。2015年11月のパリにおける同時多発テロ事件に続き、2016年もブリュッセル及びシャルルロワ(ベルギー)、ニース及びルーアン(フランス)、並びにドイツ南部及びベルリンにおけるテロ等、「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」が犯行声明を出すテロ事件が各地で相次いだ。欧州レベルでのより効果的なテロ対策の強化等が急務である。
6月に英国で実施されたEU残留・離脱を問う国民投票において、離脱支持が52%を占めた。2017年3月末までに、英国からEU離脱の通知がなされる見込みであり、戦後、拡大と深化を続けてきた欧州統合は、EUから加盟国が離脱する事態に初めて直面することとなる。英国のEU離脱通知後に行われる英国・EU間の離脱交渉及び離脱後の英国とEUの新たな関係が注目される。英国のEU離脱後も、英国を含む欧州が引き続き結束し、国際社会の平和、安定及び繁栄に積極的に貢献することが期待される(2-4-1(1)及び2-4-1(2)参照)。
2016年、日本の対欧州外交は進展した。安倍総理大臣は、5月初め、G7伊勢志摩サミットに向けた各国及びEU首脳との事前調整、イタリア及びベルギーとの国交樹立150周年における協力を含む二国間関係の強化のため、イタリア、フランス、ベルギー、ドイツ及び英国を歴訪した。また、5月末のG7伊勢志摩サミット、7月半ばのアジア欧州会合(ASEM)首脳会合(於:モンゴル)、9月の国連総会ハイレベルウィーク(於:ニューヨーク(米国))等の機会に、欧州各国・機関の首脳と会談を行った。岸田外務大臣は、1月初め、中谷防衛大臣と共に、訪日中のハモンド英国外務・英連邦相及びファロン英国国防相との間で、第2回日英外務・防衛閣僚会合(「2+2」)を開催した。また、3月半ば、イタリア、バチカン及びフランスを訪問し、外相会談等を実施した。
こうした機会を通じて、首脳・外相間の信頼関係が強化されたほか、安全保障、経済、地域情勢、地球規模課題等、各分野における日本の立場や取組について欧州各国・機関の理解を促進するとともに、日欧間での具体的な協力を前進させた。例えば、安全保障分野では、英国、フランス及びイタリアとの間では、安全保障・防衛分野での具体的協力が進展しているほか、NATO及びEUとの間でも、今後も緊密に連携していくとの認識で一致している。
このほか、欧州等の地域から学生を招へいする「MIRAIプログラム」や欧州の主要シンクタンクとの連携によるセミナーの開催・講師派遣等、対外発信や人的・知的交流に係る事業を積極的に実施している。こうした取組を通じ、欧州各国・機関との間で、政治、安全保障、経済、教育、文化、科学技術など幅広い分野で多様なチャネルを構築し、日本やアジアに関する発信や相互理解等を促進することにより、緊密かつ重層的な関係の維持に努めている。
