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平成23年版外交青書(外交青書2011)要約

(2010年の国際情勢と日本外交の展開)

現在の国際社会は、全体として繁栄を享受する一方で、①新興国の台頭による国際社会のパワーバランスの変動と、②グローバル化による多種多様な非国家主体の影響力拡大という2つの大きな変化に直面し、その基本構造が質的な変化を遂げつつある。その一方で、新たな秩序を担保する制度は未整備である。この新しい秩序への模索が、国際社会の新しいシステムの構築につながっていくのか、正に現在の国際社会は過渡期にある。

2010年も、新興国の影響力拡大により、気候変動や国際経済などの分野で、多国間の合意形成が複雑化したり、困難となったりした事例が数多く見られた。

また、グローバル化の進展にもかかわらず、その波に取り残された破綻国家の問題と、それに伴うテロや海賊といった非国家主体による脅威の拡大や、開発途上国の貧困の問題も引き続き国際社会が取り組むべき重要な課題であり続けている。

さらに、2010年は、インターネットに代表される情報通信技術が開発途上国を含めた世界各地に普及したことにより、個人が直接に国内外の政治に及ぼす影響力を増大させていることが顕在化した1年だった。特に、12月には、チュニジア全土で民主化を求める反政府運動が展開され、この流れがエジプトにも波及し、大規模デモが行われた。これらの事例は、情報通信技術の発達が、抗議活動の阻止を困難にしていることを明らかにした。反政府運動は、その後、他の中東・北アフリカ諸国にも波及しており、今後はいかにして民主的で安定した国づくりを平和的に実現して行くかが重要な課題になると考えられる。

日本を取り巻く安全保障環境は厳しく、この地域に不確実性や不安定性が存在する。その中で、盤石な安全保障体制を築くことは日本の平和と繁栄にとって必要不可欠である。日本は、日米同盟を外交・安全保障の基軸とし、その深化・発展に努めている。

また、新興国を中心とした経済成長が、日本の経済社会の発展に持つ意義を踏まえ、経済外交を推進している。さらに、地球規模の課題への取組についても、開発や核軍縮・不拡散の分野など、主体的かつ積極的な外交を展開した。

国際情勢の変化の中で、日本の国際的地位や影響力が低下したとの指摘もなされているが、大きな変化に直面している時代であるからこそ、国益をより一層確保し増進するために外交が果たすべき役割は大きい。

(アジア・大洋州)

アジア・大洋州地域は、日本にとって、経済・政治の両面で重要性を増している。一方で、アジア・大洋州地域は、不安定かつ不確実な要素もはらんでいる。豊かで安定し、開かれたアジア・大洋州地域の実現は、日本の平和、安定及び繁栄にとって不可欠である。この目的に向け、日本は、日米同盟を一層深化・発展させることによって、アジア・大洋州地域の平和と繁栄の確保に努めている。また、近隣国などとの二国間関係を発展させていくとともに、地域諸国間の協力の枠組み強化に積極的に貢献する。同時に、米国や関係国と連携し、地域諸国が協力するために必要なルールを共有・発展させていく。

韓国は、民主主義などの基本的価値を共有する、日本にとって最も重要な隣国である。2010年は、日韓併合条約締結から100年という節目の年であり、日本は、未来志向の日韓関係を更に強化すべく、今後とも努力していく。

朝鮮半島においては、2010年11月の延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件などの北朝鮮による挑発行為に加え、ウラン濃縮計画も明らかとなった北朝鮮による核開発に対し、重大な懸念が生じている。これに対し、日本は、米国、韓国を始めとする関係国と連携し、北朝鮮が六者会合共同声明や国連安全保障理事会(安保理)決議に従って、非核化などに向けた具体的な行動をとるよう強く求めている。今後も拉致(らち)問題を含む諸懸案の包括的解決に向け、関係国と緊密に連携する。

中国との間では、9月に発生した尖閣諸島周辺領海内での中国漁船衝突事件をきっかけに緊張が高まったが、首脳・外相会談を経て、両国関係は再び改善しつつある。中国とは、世界第二、第三の経済大国として、「戦略的互恵関係」を深めていくとともに、両国間に存在する様々な課題の解決に向け、大局的観点から努力していく必要がある。一方、中国の透明性を欠いた国防力の強化や、海洋活動の活発化は懸念事項であり、中国が国際社会の責任ある一員として、より一層の透明性をもって適切な役割を果たすよう求めていく。

また、アジア・大洋州地域において、基本的価値を共有する韓国、オーストラリア、インドなどの国々や、東南アジア諸国連合(ASEAN)との連携を強化することが重要である。日本は、地域協力における日・ASEAN関係を重要視し、協力を推進していくとともに、ASEAN各国との二国間関係の強化に努めている。

日中韓首脳会議に出席する菅総理大臣(左)、李明博(イミョンバク)韓国大統領(中央)、温家宝(おんかほう)中国国務院総理(右)(10月29日、ベトナム・ハノイ 写真提供:内閣広報室)
日中韓首脳会議に出席する菅総理大臣(左)、李明博(イミョンバク)韓国大統領(中央)、温家宝(おんかほう)中国国務院総理(右)(10月29日、ベトナム・ハノイ 写真提供:内閣広報室)

オーストラリアとニュージーランドは、基本的価値を共有する重要な国々である。とりわけ、オーストラリアと日本は、米国の同盟国として実質的な協力関係を構築し、国際社会の平和と安定のために取り組む戦略的パートナーシップを強化している。

南アジア地域は、近年存在感を高めている。特にインドとは、安全保障や経済など幅広い分野での「戦略的グローバル・パートナーシップ」を強化・発展させることを目指している。また南アジア地域、ひいては国際社会全体の平和と安定のために、テロ対策の重要国であるパキスタンへの支援を引き続き行っていく方針である。

地域諸国が共有するルールを作り、地域共通の課題に対処するに際しては、二国間関係だけではなく、東アジアにおける地域協力の枠組みや、域外国が広く参加する枠組みを積極的に活用していく。

日本は、「東アジア共同体構想」を長期的ビジョンとして掲げ、関係国と協力して、既存の枠組みを活用しながら、開放的で透明性の高い地域協力を一歩一歩推進する考えである。

(北 米)

日米両国は基本的価値及び戦略的利益を共有する同盟国である。日米同盟は、日本の外交・安全保障の基軸であり、アジア太平洋地域のみならず、世界の安定と繁栄のための共有財産である。日米安全保障体制を中核とする日米同盟は、戦後60年以上にわたり、日本及び極東に平和と繁栄をもたらしてきた。

また、日米両国は、二国間やアジア太平洋地域の課題のみならず、国際社会が直面するグローバルな課題への対応でも協力し、世界の安定と繁栄に寄与している。安全保障、経済、文化・人材交流を3本柱として、日米同盟を21世紀にふさわしい形で更に深化・発展させることで、両国は一致している。

日本とカナダは、基本的価値を共有するアジア太平洋地域におけるパートナー及びG8のメンバーとして、政治、経済、安全保障、文化など、幅広い分野で緊密に協力している。

(中南米)

中南米地域は、5.7億人の人口と4.0兆米ドルの域内総生産を有し、ここ5年間は5%前後の経済成長率を維持するなど、経済面での存在感を一層高めている。

日本と中南米は、伝統的に深い友好関係を有している。日本は、中南米諸国との関係を更に進展させるために、①経済関係の強化、②地域の安定的発展の支援、③国際場裏における協力推進を3本柱として、同地域に対する外交を展開している。

経済関係の強化については、日本政府は、経済連携協定(EPA)などの法的枠組みなどを通じ、日系企業の活動を支援している。また、中南米諸国では経済成長によるインフラ需要が見込まれていることから、インフラの海外展開を積極的に進めている。さらに、中南米が安定的に発展するために、日本は、資金・技術協力を通じ、各国政府による取組を積極的に支援している。

また、33か国を擁する中南米は、国際連合などでの意思決定に大きな影響力を持つことから、日本は、環境・気候変動問題、核軍縮・不拡散、国連安全保障理事会(安保理)改革などの課題に取り組むに当たって、中南米諸国との連携や協調を図っている。

(欧 州)

日本と欧州は、基本的価値を共有し、国際社会の安定と繁栄に向けて共に主導的な役割を果たすパートナーである。欧州との関係強化は、世界経済・金融の諸問題のみならず、気候変動、テロ、大量破壊兵器の拡散などの地球規模の課題に効果的に対応していく上で極めて重要である。

欧州連合(EU)は、2009年12月に基本条約の改正条約であるリスボン条約の発効により、政治統合を一段と深めている。日本経済の成長の観点からも、米国を上回る規模の単一市場を持つEUは重要なパートナーであり、一層の経済連携を進めていく方針である。

北大西洋条約機構(NATO)は、2010年11月に11年ぶりとなる新戦略概念を採択し、その役割を再定義した。日本とNATOは基本的価値を共有するパートナーとして、国際社会の平和と安定のために協力を進めており、特にアフガニスタン復興支援における具体的協力を進展させている。

(ロシア、中央アジアとコーカサス)

日本とロシアが、変化の激しいこの地域のパートナーとしてふさわしい関係を構築し、政治、経済、文化、国際場裏などのあらゆる分野において協力と連携を深めていくことは、両国の戦略的利益に合致するのみならず、同地域の安定と繁栄に貢献し得る。しかし、2010年11月にはメドヴェージェフ大統領が、ソ連・ロシアの最高指導者として初めて北方領土の国後島を訪問するという極めて遺憾な出来事が起きた。こうした中で、日露間の最大の懸案である北方領土問題を解決して、平和条約を締結するとの日本政府の方針に変わりはない。両国の間で合意の上作成された諸合意及び諸文書並びに法と正義の原則を基礎として領土問題の解決に取り組む。

中央アジア・コーカサス諸国は、エネルギー・鉱物資源を豊富に有することから、日本の資源・エネルギー供給の多様化の観点からも重要であり、同地域諸国との更なる関係強化を図る考えである。

(中東と北アフリカ)

中東・北アフリカ地域(以下、中東地域)は、地政学上の要地であるとともに、重要な海上ルートに位置しており、さらに、大量の石油及び天然ガスを供給していることもあり、同地域の平和と安定は、国際社会全体の平和と安定に直結する。原油の約9割を中東地域から輸入している日本にとっては、同地域の平和と安定は経済的にも重要な課題である。

中東各国では、2010年末から、大規模反政府デモが発生し、チュニジア及びエジプトでは長期政権崩壊に発展した他、リビアでは人道危機が発生している。日本は中東地域において、各国の実情に即した形で、「法の支配」、表現の自由の実現といった政治、経済、社会的改革が前進し、安定と安全が確保されることを期待しており、その実現に向け支援を行っていく考えである。

中東各国は近年着実な経済発展を遂げており、魅力ある市場及び投資先に変貌すべく努力を行っている。日本は、このような中東地域の経済発展を、経済・ビジネス関係の一層の発展に向けた好機と捉え、経済外交の推進に力を入れてきている。さらに、日本は近年、伝統的なエネルギー分野や経済分野での協力強化に加え、政治、科学技術、教育、文化など幅広い分野における重層的な関係を構築し、相互理解を深めることに努めている。

(サブサハラ・アフリカ)

近年のアフリカは、経済・金融危機の影響を受けつつも、先進国に比べ高い経済成長を実現している。また、多くの紛争が終結し、平和と民主化も進展しつつある。しかし、その一方で、依然としてスーダン、ソマリアなどにおいて紛争が継続しており、貧困や感染症に苦しむ人々もいまだ多い。

こうしたアフリカの現状を踏まえ、①アフリカの諸課題の解決に真摯(し)に取り組むことは、日本としての当然の責務であること、②豊富な天然資源を有する潜在的な大市場であるアフリカとの経済関係の強化は日本の経済にも重要であること、③国連安保理改革や気候変動など地球規模の課題の取組を進めるに当たりアフリカの協力が不可欠であることなどの観点から、日本は、平和と安定に対する貢献及び自立と発展に対する支援を基軸として、2010年も、アフリカ開発会議(TICAD)プロセスを重要な柱とし、引き続き積極的な対アフリカ政策を推進した。

(日本と国際社会の平和と安定に向けた取組)

朝鮮半島情勢は依然不安定であり、日本の安全保障環境は厳しさを増している。また、中国による透明性を欠いた国防力の強化や海洋活動の活発化は、地域・国際社会の懸案事項である。さらに、今日の国際社会においては、国際テロなどの新たな脅威や課題も存在している。このような安全保障上の諸課題に対処しつつ、日本が持続的な繁栄と発展、国際社会の安定を確保するためには、非国家主体による攻撃などの非伝統的脅威への対応も含めた、多面的な安全保障政策が求められる。

具体的には、日本の外交・安全保障の基軸であり、アジア太平洋地域のみならず、世界の安定と繁栄のための共有財産でもある日米同盟を、21世紀にふさわしい形で更に深化・発展させることが重要である。同時に、韓国、オーストラリアとの協力や、地域の枠組みにおける連携・協力を重層的に推進していくことが重要である。これらの取組の前提となるのが日本自身の防衛力の整備であり、政府は2010年12月、新たな防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画を策定した。

また、日本は、紛争地域において、紛争の再発防止や持続的な平和に向けた開発の基礎を築くことを念頭に置いた、平和構築を重視している。日本は、国連平和維持活動(PKO)などへの貢献、政府開発援助(ODA)を活用した現場における取組、国連における取組及び人材育成を通じて、平和構築を推進している。

海洋国家であり貿易立国でもある日本にとって海上の安全を確保することは、国家の存立・繁栄に直結する問題であるだけでなく、地域の経済発展を図る上でも極めて重要な課題である。日本は、海賊事件が増加しているソマリア沖・アデン湾への自衛隊の派遣に加え、周辺国の海上取締能力の向上や地域協力、更には、不安定なソマリア情勢の安定化といった中長期的な観点をも踏まえた多層的な取組を行っている。

不正薬物取引などの国際組織犯罪やテロ、腐敗(汚職)などの課題は、世界全体に治安上の脅威をもたらしている。日本は、国連やG8及びG20などの多国間枠組み、テロ対策に関する二国間協議・協力や、国際機関を通じた開発途上国への支援などによりこれらの脅威に対する取組を行っている。

また、日本を取り巻く安全保障環境の改善を図るため、日本は軍縮・不拡散の取組を積極的に進めている。特に、日本は唯一の被爆国としての道義的責任に基づき、「核兵器のない世界」の実現に向け、関係国と連携した取組を推進している。日本は、国際的な軍縮・不拡散体制の強化に向け、主導的な役割を果たしている。

国際社会が依然として多様な課題に直面している現在、国連が果たす役割は以前にも増して重要になっており、国連が有効に機能することが重要である。このような考えの下、日本は安保理改革を始めとする国連改革の早期実現を目指すとともに、国連を始めとする国際機関において指導力を発揮している。

国際社会における「法の支配」の確立は、国家間の関係を安定的なものとし、紛争の平和的解決を図り、各国内の「良い統治」を促進する上で重要な要素である。日本は国際社会における「法の支配」の確立を外交政策の柱の一つとして位置付け、様々な取組を積極的に行っている。

人権及び基本的自由の保障は、国際社会の平和と安定に資する。日本は、個々の国・地域の特殊性や様々な歴史的・文化的背景も考慮に入れつつ、国連を始めとする多国間の取組と、人権対話や開発援助などを通じた二国間の取組を相互に連携させ、包括的に人権外交の強化を図っていく。

こうした地球規模の課題に対処するに当たり、日本は人間一人ひとりの生存・生活に焦点を当てる人間の安全保障の概念を重視しており、同概念に基づき、その解決に取り組むべく、国際社会を主導していく。

日豪共催核軍縮・不拡散に関する外相会合での前原外務大臣(右から2番目)(9月22日、米国・ニューヨーク)
日豪共催核軍縮・不拡散に関する外相会合での前原外務大臣(右から2番目)(9月22日、米国・ニューヨーク)

(国際協力の推進と地球規模課題への取組)

2010年は、貧困や飢餓、感染症、環境問題などの地球規模の課題について、国際社会が更に取組を加速させた年であった。

日本は、国際社会の平和と繁栄は自国の安全と繁栄をもたらすものであり、ODAを始めとする国際協力はそのための重要な手段であるとの考えの下、国際社会におけるこうした様々な取組に対し、積極的な貢献を行ってきた。ミレニアム開発目標(MDGs)達成に向けては、人間の安全保障の考え方に基づき、特に保健・教育分野などを中心とした取組を進めている。また、持続可能な経済成長、気候変動などの課題に取り組む上で科学技術は大きな役割を果たすため、科学技術、宇宙開発利用技術と外交政策を相互に連携させる「科学技術外交」・「宇宙外交」を推進している。

日本が国際社会の平和と発展に対し積極的な役割を果たすためには、国民の理解と支持が不可欠である。外務省はODAの在り方に関する検討を行い、6月に「最終とりまとめ」を発表した。国際協力の理念を「開かれた国益の増進」として明確にし、開発協力の重点分野として、①貧困削減(MDGs達成への貢献)、②平和への投資、③持続的な経済成長の後押しの3本柱を掲げた他、戦略的・効果的な援助、多様な関係者との連携、国民の理解と支持の促進などの取組を打ち出した。また、民間企業の活動とODAなどの公的資金との連携(官民連携)をより強化していくことで、公的資金だけでは得られない規模の開発効果を引き出し、開発途上国の継続的成長と同時に、経済外交の推進を目指している。

気候変動や生物多様性の損失を含む地球環境問題は、地球上の生命を脅かすものであり、我々人類の生存への深刻な脅威である。日本は、地球環境問題への取組を外交上の重要課題として位置付け、地球規模の議論を主導している。

気候変動問題において、日本は、全ての主要国が参加する公平かつ実効性のある国際枠組みを構築する、新しい一つの包括的な法的文書の早急な採択を目指し、国際交渉でリーダーシップを発揮してきた。また、生物多様性の保全と持続可能な利用についても日本は積極的な取組を行っている。

近年、航路開通、資源開発などに関わる国際的議論の高まりが見られる北極については、2009年7月には、北極評議会へのオブザーバー資格申請を行うなど、日本としても北極をめぐる議論への関与を強めている。一方、南極については、1959年に採択された「南極条約」が、①南極の平和利用、②科学的調査の自由と国際協力、③領土主権・請求権の凍結などを基本原則としている。日本は、基本原則にのっとり、南極の環境保護に努め、南極条約体制の維持に貢献している。

森林保全と気候変動に関する閣僚級会合で記者会見する前原外務大臣(10月26日、名古屋)
森林保全と気候変動に関する閣僚級会合で記者会見する前原外務大臣(10月26日、名古屋)

(経済外交)

世界経済は緩やかな回復基調にあるものの、依然として下方リスクが存在している。経済・金融危機の克服のため、日本は、先進国と新興国の協力の深化に貢献した。また、2010年、日本はアジア太平洋経済協力(APEC)の議長を務め、11月には第18回APEC首脳会議を横浜で開催し、首脳宣言を採択した。

第18回アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議で「横浜ビジョン」を発表する菅総理大臣(中央)(11月14日、横浜)
第18回アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議で「横浜ビジョン」を発表する菅総理大臣(中央)(11月14日、横浜)

国際情勢が流動化し、日本の内外の経済環境が厳しさを増す中で、日本の経済を強くするための経済外交を積極的に推進していく必要がある。具体的には、EPA・自由貿易協定(FTA)、資源・エネルギー・食料、インフラ海外展開、観光及びジャパン・ブランドの発信における取組を積極的に推進していく。日本は、2010年11月に閣議決定した「包括的経済連携に関する基本方針」の中で、これまでの姿勢から大きく踏み込み、世界の主要貿易国との間で、世界の潮流から見て遜色のない高いレベルの経済連携を進め、同時に、高いレベルの経済連携に必要となる競争力強化などの抜本的な国内改革を先行的に推進することを決定した。

環太平洋パートナーシップ(TPP)協定については、「包括的経済連携に関する基本方針」を受け、出張者や在外公館を通じた情報収集や協議を開始した。

日本が多くを輸入に依存している資源の安定供給の確保は、経済外交の柱の一つである。新興国の台頭や気候変動対策への取組などの新たな動きの中で、世界全体の責任ある資源開発や利用に向けた国際協調を進め、同時に日本への長期的な資源の安定供給を確保していくことが必要である。

さらに、日本は、水産資源の持続可能な利用という立場から、その有効な保存管理措置の徹底に向け、精力的に貢献している。

世界各国でインフラ需要が増大する中、日本企業が持つ優れた技術などを海外に展開することで日本の経済成長につなげていくため、政府として民間企業の取組を強力に後押しし、官民連携による協力体制で臨む必要がある。2010年6月に閣議決定された「新成長戦略」に基づき、政府一体となった取組が進んでいる。外務省は、重点国の在外公館においてインフラプロジェクト専門官を指名するなど、民間企業の取組を支援する体制整備を進めている。

観光分野についても、日本経済を強くする観点から、訪日外国人の増加に向け、在外公館における広報文化活動を含め、積極的な取組を推進していく考えである。また、ジャパン・ブランドの発信については、世界に誇れる「人づくり」、「技術」、「文化」に象徴される「ジャパン・ブランド(日本の魅力)」を海外へ発信し、日本と世界の成長につなげていくことを目指す。

貿易・投資の自由化推進は、日本経済はもとより世界経済の持続的成長のためにも不可欠であり、世界貿易機関(WTO)体制の整備・強化が引き続き重要な課題となっている。特に、WTOドーハ・ラウンド交渉の早期妥結が重要であり、日本としても積極的に取り組んでいる。

また、日本は、模倣品・海賊版が世界経済の持続可能な成長に対する脅威となっていることを踏まえ、知的財産権保護の強化のための様々な取組を行っている。

(日本への理解と信頼の促進に向けた取組)

日本は、海外広報及び文化・人物交流を促進することで、各国国民の対日イメージや親近感の向上に努めている。

外務省は、海外での日本語普及、伝統文化からポップカルチャーに及ぶ多様な日本文化の紹介、有識者を対象とした外交政策などの発信、一般国民を対象とした日本事情の紹介などを行っている。

これらの取組に加え、人物交流や知的分野の交流も進めており、国際世論への影響力が強い人々などを日本に招待するとともに、留学生など海外の若者の受入れ促進や、日本の有識者による各種国際会議への参加支援などを行っている。

日本が推進する「新成長戦略」実現のためには、日本の持つ強みを積極的に諸外国に発信することが必要であるとの考えから、外務省は関係省庁や諸機関と連携を図りながら、情報発信を強化している。

また、外務省は、外交関係上の節目となる年に官民が連携して「周年事業」を展開している。さらに、開発途上国に対しては、文化無償資金協力などにより支援を行っている。

(外交実施体制の強化と日本人の活躍)

国際社会の中で日本が国益を確保し、様々な課題に的確に対応するためには、外交活動に必要な体制を整備・強化するとともに、国際社会で活躍する様々な組織と十分連携し、オールジャパンで機動的な外交を進めることが重要である。

このためには、外交活動に必要な予算・人員を十分に確保するとともに、限られた人的・物的資源を効果的かつ効率的に活用する必要がある。こうした観点から、事業仕分け、行政事業レビューの結果なども踏まえ、外務省は一層の合理化と効率化に取り組みつつ、外交実施体制を最適なものとするため、6月以降、「在外公館タスクフォース」を開催し、在外公館の在り方を検討してきた。その結果、体制強化が必要な新興国、資源国、新設公館所在国などへの在外公館職員の再配置を行うこととした。

オールジャパンでの外交を展開する一環として、例えば、開発途上国などに対する支援活動の担い手としての重要性が近年ますます高まっている非政府組織(NGO)を国際協力における重要なパートナーと位置付け、連携強化に努めている。

また、国際協力機構(JICA)ボランティア事業参加者である青年海外協力隊・シニア海外ボランティア参加者も、日本の「顔の見える援助」の代表として各国から高い評価を得ており、その国の経済・社会の発展のみならず、日本と各開発途上国の間の相互理解や友好親善の促進にも大きな役割を果たしている。さらに、より良いJICAボランティア事業の実現に向け、制度的見直しにも取り組んでいる。

(海外における日本人・日本企業への支援)

国際社会の様々な分野や地域で多くの日本人が活躍する一方、海外で日本人が遭遇する危険も増加し、多様化している。海外における日本人の生命、身体及び利益を保護・増進することは外務省の重要な任務の一つであり、外務省は、日本人が海外で安全にかつ安心して生活や活動ができるよう、各種取組を行っている。

まず、外務省は、海外における日本人の安全と安心に関わる情報を幅広く的確に収集し、提供している。一方、危険に巻き込まれた日本人に対して、可能な限りの支援を適切に行えるように、体制や基盤の強化に努めている。

国際経済環境が変化する中、日本企業や個人の海外での競争力を強化し、「強い経済」を実現していくことが極めて重要になっている。外務省は、企業から意見を幅広く聴取し、日本企業からの問い合わせや要望に対応するとともに、諸外国との間で規制改革やビジネス環境の改善に関する対話や協議を行い、相手国・地域に対して改善を求めている。

(国民への情報発信と地域・社会の国際化)

外交政策の遂行には、国民の理解と支持が不可欠である。このため外務省は、各種メディアなどを通じた情報発信に努めている。また、外務省は、国民に対する説明責任を果たすため、他国との信頼関係などに配慮しつつ、情報公開を行っている。

また、地方・地域は、極めて重要な外交プレーヤーとしての役割を果たしている。この現状を踏まえ外務省は、①情報共有と意思疎通の強化、②重要外交政策の地方と共同での推進、③地方による国際的取組との連携に重点を置きつつ、地方自治体などとの様々な連携策を実施している。

日本に入国、滞在する外国人の増加のための取組も重要である。外務省は、入国管理上問題ないと見られる外国人観光客や商用客などを対象に、査証(ビザ)発給の迅速化に努めている。一方で、外国人の不法就労や人権侵害が疑われる場合は、厳格な審査を行っている。「新成長戦略」に基づき、2011年1月からは、新たに創設した「医療滞在ビザ」の運用を開始した。また、外務省は、日本に長期滞在する外国人の教育・雇用などの問題に取り組むため、2005年から地方自治体などと共同で、国際シンポジウムなどを開催している。

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