
第2回国連小型武器行動計画(PoA)履行検討会議
概要と評価
平成24年9月7日
1.概要
- (1)8月27日から9月7日まで,ニューヨークの国連本部において,国連小型武器行動計画(PoA)の第2回履行検討会議が開催された。同会議では,2001年に策定されたPoA,及び,2005年に策定されたPoAの関連文書である国際トレーシング文書(ITI)の各国による履行状況を検討するとともに,その結果を踏まえて,第3回履行検討会議までの6年間の行動指針及び重点項目等が議論され,各国政府が代表団を派遣したほか,国際機関及びNGO等が傍聴した。
- (2)今次会議は,ナイジェリア国連常駐代表のオグウ大使を議長とし,副議長は5つの地域から選出された13か国が務めた。また,成果文書を「宣言」,「PoA履行計画」,「第2回履行検討会議後のフォローアップ」,「ITI履行計画」の4分野に分けて議論したため,それぞれの分野における調整役を務める「ファシリテーター」として,順に豪州,ガイアナ,我が国,エジプトが議長により指名され,参加国の承認を得た後に担当分野における連絡調整業務や非公式会合の開催等を行った。
- (3)会議では,一般討論演説に引き続いて上記の事項別討論が行われた結果,最終的な成果文書がコンセンサスにより採択された。その構成は,会議の概要を記載した報告書に,PoAに関連する最初の3文書を1文書にまとめたものと,ITI履行計画の合計2文書が別添されるという形式になった。
- (4)成果文書においては,PoA及びITIの将来の履行に対する各国の意思が改めて確認されたほか,国内法制度の一層の整備や履行を担当する職員の研修,小型武器の輸出入や国内における流通の管理の強化を通じた非合法市場への流出防止,各国が属する地域の特性を踏まえた地域協力や地域を超えた国家相互及び国際機関との協力及び支援,国別報告書の一層の提出促進による情報の共有と交換,今後6年間にわたる会議の開催日程等の多岐にわたる事項が,今後取り組むべき優先課題として盛り込まれた。なお,小型武器問題の解決に向けた政策決定への女性の参加促進や,具体的協力を一層推進するための基金の設置,小型武器問題への取り組みに関する国際協力の目標及び成果を可能な限り数値化して計測するための方策の検討,関連する会議への専門家の出席の確保といった新しい事項についても合意された。
2.評価
- (1)2006年に開催された第1回履行検討会議では,各国より表明された見解の相違が大きく成果文書が採択できなかっただけに,今次会議において成果文書がコンセンサスで採択されたことの意義は大きい。その要因としては,オグウ議長が,本年3月に開催された準備委員会から今次会議に至るまでの会期間を効率的に活用し,成果文書案を予め準備するとともに,今次会議における議論を効率的に実施するためのファシリテーターを予め内定させて作業に関与させ,今次会議の開幕前から関係国間の調整に当たらせたという体制構築及び議事運営の成功に加え,第1回履行検討会議の失敗は繰り返せないとの建設的精神が各国に十分共有されていたこと等が指摘できる。また,会議の終盤においては,当初の予定を変更して早朝,昼休み時間,夜間にも非公式会合が開催され,コンセンサスに向けた参加国の意欲的な取り組みが見られたことも,限られた会期を有効に活用できた点で特筆される。
- (2)他方,今次会議においても各国から様々な見解が示され,小型武器問題に関して全ての国連加盟国が合意できる内容を策定することの難しさも確認された。例えば,PoAに記載された内容以外は成果文書に盛り込むべきではないとする諸国と,PoAの策定から11年を経る間に新たに生起した問題についても議論すべきであると主張する諸国の見解の相違は容易には埋まらず,後者の立場に立つ諸国から提案された事項の多くについては全体的合意が得られなかった。また,PoA及びITIに記載された事項の中でも重視する点が国ごとに異なり,どの事項から優先的に処理していくべきかについても種々の見解が表明された。
- (3)上記の通り,多くの見解の相違を乗り越えて,全ての参加国が完全に満足できるものとは言えないまでも合意できる文書が採択されたことの意義は認められるが,文書の採択によって小型武器問題が自動的に解決されるものではない。今後は,文書に記載された内容を具体的かつ着実に実施していくための各国の不断の取り組みが要請される。そのためにも,今後予定されている2014年及び2016年の隔年会合,2015年のオープンエンド専門家会合へ向けた各国の対応が注目される。
3.我が国の貢献
- (1)我が国からは国連代表部次席代表の兒玉和夫大使を団長,河野通常兵器室長を団長代行とする代表団が出席し,積年にわたる国連小型武器決議案の提出や現地レベルで実施している多くの小型武器関連事業を通じて確立した本件分野における国際的信認を背景として積極的かつ建設的に議論に貢献した。
- (2)我が国はアジア地域選出の副議長を務めたが,それに加えて,議長を補佐して成果文書を取りまとめるための4名のファシリテーターの一人に国連代表部の石垣参事官が任命され,会期を通じて精力的に担当業務に従事した。ファシリテーターは非公式会合の議長を務めただけではなく,それぞれの担当分野において大きく見解を異にする諸国間の仲介及び調整も担当したため,ファシリテーターの活躍なしには成果文書の採択もなかったと言っても過言ではなく,4名の氏名は成果文書にも記載された。その意味で,今次会議の成功に果たした我が国の役割と存在感は参加国により幅広く認知されたと考えられる。
- (3)成果文書の内容に対する貢献としては,会期中を通じて我が国が強く主張し続けた2点が盛り込まれたことが指摘できる。それらは,(ア)PoA及びITI関連会議の成功に不可欠な,会議のテーマに直結した専門家の出席の確保と,(イ)国際協力の基盤となる情報共有のために不可欠なPoA及びITIに関する各国による報告書の提出率及び内容の改善の必要性に関する部分である。
【参考1】国連小型武器行動計画(PoA)の概要
PoAは,小型武器の非合法取引規制に関する具体的措置(国家・地域・グローバルの3レベル),履行及び国際協力・支援等について規定。
1.非合法取引規制に関する具体的措置
- 小型武器非合法取引を規制するための法制度整備
- 小型武器非合法取引に対するトレーシングのための措置
(刻印,製造・移譲等に関する記録保持)
- 実効的な輸出入許認可制度の確立・維持
- 小型武器の非合法ブローカー取引の規制
- 小型武器の回収・破壊等を含むDDR(武装解除・動員解除・社会復帰)の実施
- 各国の法執行機関・国境管理機関・税関による情報共有
2.履行及び国際協力・支援
- 被害国における法制度整備,法執行等の分野における能力構築への支援
- 税関・警察・軍備管理担当機関の間の協力・経験の共有
- DDRへの支援
【参考2】小型武器問題への我が国の貢献
(1)国連総会への決議案の提出
1995年に国連総会で小型武器政府専門家パネルの設置を求める決議案を提案して以来,ほぼ毎年決議案を提出。2005年からはコロンビア,南アフリカとともに提出し,採択されている。
(2)国際会議の議長職等への就任
2001年7月の国連小型武器会議で我が国の堂之脇光朗外務省参与(当時)が副議長を,2003年7月の第1回国連小型武器中間会合で猪口邦子軍縮代表部大使(当時)が議長を務め,会合を成功に導いた。
(3)現場でのプロジェクト等への財政的支援
- (ア)武器回収・廃棄プロジェクト(アジア,アフリカ等)
- (イ)小型武器基金を通じたセミナーの実施等
2000年のG8宮崎外相会合に際し,国連内に小型武器基金(200万ドル規模)を設置することを発表。同基金により,中央アジア小型武器セミナー(04年3月,於:カザフスタン・アルマティ),南太平洋地域小型武器セミナー(04年8月,於:フィジー・ナンディ),ASEAN・中央アジア小型武器セミナー(05年4月,於:北京),ASEAN・南アジア小型武器セミナー(06年5月,於:バンコク)などを国連等と共催。