北極・南極

平成30年1月31日

 1月22日及び23日,井出北極担当大使は,北極フロンティア会合(於:ノルウェー・トロムソ市)(注1)に参加しました。

(注1:北極フロンティアは,2007年以降毎年1月下旬にノルウェー・トロムソで開催されている,北極における持続可能な開発に関する産官学の国際会議。北極圏国,非北極圏国から約2000名が参加。ノルウェーの民間企業が事務局を担う。会合は,(1)政策,(2)ビジネス,(3)科学の3つの部門で構成され,北極の社会・環境の持続可能性とともに実現可能な経済成長を達成するための課題をテーマに議論。)

  • 1 全体会議及び分科会には特に北欧諸国から多くの閣僚(注2)が登壇し,北極圏の将来について様々な展望を述べました。
    (注2:ノルウェーから外相,運輸・通信大臣,漁業相,気候・環境大臣,自治改革大臣;フィンランドから交通・通信大臣;スウェーデンから産業・イノベーション大臣;デンマークから漁業・男女参画相兼北欧協力大臣が参加した。)
  • 2 井出大使は,以下の2つの分科会に登壇し,以下を発言しました。

    • (1)「国際的な北極科学協力の強化に関する協定」に関するラウンドテーブル(ノルウェー外務省主催,1月22日)
      • ア 井出大使は冒頭発言者の一人として以下を発言しました。
        • 北極に関する科学研究は世界全体にとり非常に重要であるが,データ面で空白や,データの不整合があり,この点は大きな課題である。従って,右問題克服のために,「国際的な北極科学協力の強化に関する協定」が,署名した北極評議会メンバー8か国のみならず,オブザーバー諸国(日本など)の研究者にも裨益し,国際協力を一層後押しすることを強く期待している。同協定は,他の国際フォーラムや二国間協力に対しても,肯定的影響を与えることが期待されている。
           協定前文第11項で,オブザーバーの有する科学的専門性とこれまでの科学的活動に対する貴重な貢献を認めて頂いたことを多とする。第1条で「参加者」として列挙されている中には,協定締約国の国籍を有しない研究者,研究機関なども含み得ると理解しているところ,そのように運用願いたい。また,「科学的活動」が幅広い定義となったことを評価している。
        • 第9条に伝統的・地域的な知識の所有者との協力の重要性が謳われているところ,日本の科学者・研究者は,例えばグリーンランド,ヤクート・サハで,現地の住民達と共に研究をしている。そして日本と現地の双方の人たちの能力構築を支援する立場である。
        • 非締約国との協力に関する第17条が,積極的に運用されることを期待している。将来,同協定の実施状況を点検する際には,日本も参加する用意がある。
        • 付属書Iに「地理的範囲(Identified Geographic Areas)」が記述されているが,合意された地図のコピーを頂きたい。
        • この機会に,他の国際的なフォーラムでの協力強化についても触れたい。
          • IASC(International Arctic Science Committee)ではStrategic Planを検討しており,SAON(Sustainable Arctic Observation Network)(注3)の活動強化を期待している。
            (注3:SAONはAC(主にAMAP)とIASCが2011年に立ち上げた組織。代表はAC(AMAP)から,副代表はIASCから選ばれており,北極圏8か国を含む15か国と国際組織10団体以上がメンバー。日本から国立極地研究所関係者がボードメンバーとして出席。)
          • GEO(Global Earth Observation)のデータ整備の充実を期待。北極の環境変動の研究には北極だけのデータだけでは不十分である。GEOが始めたCold Region イニシアチブ,Arctic GEOの構想を支持する。日本は北極に関するデータをインターネットで発信しており(ADS,Arctic Data archive System),ADSはGEOに接続されているが,更にデータ利用を推進したい。北極関連のデータ整備の取り組みが様々な場で行われているが,整理の必要性もあるだろう。
          • MOSAiC(注4)等のプロジェクトの実施を歓迎し支持する。ロシアの研究者も積極的に参加すると聞いており,喜んでいる。これらも踏まえ,国際協力体制の改善・強化を行っていくべき。
            (注4:Multidisciplinary drifting Observatory for the Study of Arctic Climate,北極域の気候システム観測のための北極海中央部を通年で活動するプロジェクト。)
          • PAG(Pacific Arctic Group)は北極海沿岸国3か国(米露加)と非沿岸国3か国(日中韓)が協力するユニークなグループだが,やはりデータ収集が課題なので,北極海沿岸国に限らず非沿岸国も含めての国際的な協力の強化を期待している。
          • 今般の北極海公海漁業交渉の妥結を受けて,漁業資源に関する国際的な科学調査の強化も重要である。
          • 本年10月の北極科学大臣会合の成功を強く期待している。
        • 日本は重要な国際科学協力のパートナーであるロシアとは,以下の二国間協力を行っているので,参考までに紹介したい。たとえば,ドイツはロシアと効果的な二国間協力をしていると聞いているので,今後経験を共有して頂きたい。(注:本ラウンドテーブルには「ドイツ北極オフィス」幹部も参加していた。)
          • 2000年に締結・発効した日露科学技術協力協定
          • 2017年9月,「日本国文部科学省とロシア連邦教育科学省の日ロ科学技術共同プロジェクトに関する協力覚書」に署名。北極研究を含む合理的な自然利用は,今後の協力の優先分野の一つとなった。
          • 2017年,国立極地研究所はロシア北極南極研究所と協力覚書を締結した。現在具体的な協力について話し合っている。
      • イ 同協定に署名した8か国の内,既にロシアなどは国内の批准手続を済ませており,まだ数か国のみが未批准であるとの説明がありました。参加者からは,同協定の早期発効と着実な実施を期待するとの発言が相次ぎました。
      • ウ 先住民団体の代表からは,井出大使が先住民との協力に言及したことを評価するとともに,一層の協力強化を強く求める意見が出されました。
    • (2)北極圏ビジネスに関する分科会(1月23日)
      • ア 井出大使から以下を発言しました。
        • 北極圏のビジネス界は貿易・投資自由化を期待しているが,日本は世界的な貿易・投資自由化等を進める政策をとっており,日EU・EPA,TPP11の実現にも目処がついたところである。
        • ロシアのヤマルLNGプロジェクトは,中国の資金,日本のエンジニアリング技術,韓国の造船が組み合わさった巨大プロジェクトである。アジアの経済力を北極圏の持続的経済発展にどう活用するかが重要になっていることを示している。
        • ロシアのヤマルLNGプロジェクトに見られるように,ロシアは北極圏で積極的に資源開発,輸出を行う考えであり,そのために北極海航路も活用する考えである。ロシアによる見通しでは,10年後には,貨物輸送は年間8千万トンにも上るとしている。
        • 日本は北極経済評議会との交流も期待しており,同評議会関係者の訪日を歓迎する。
      • イ 北極経済評議会からは,北極ビジネス分析と題した報告書についての発表がありました。同報告書では,(1)企業家精神とイノベーション,(2)PPPとビジネス協力,(3)バイオエコノミー,(4)創造的・文化的産業の4部から構成されています。
  • 3 この会議には,上述のとおり北欧諸国から多くの閣僚が,また欧米諸国に加えて,ロシア,中国,韓国,シンガポール,インドからも多くの政治家,官僚,ビジネス関係者,研究者,ジャーナリスト,NGOらの参加者がありました。
  • 4 なお井出大使は田内駐ノルウェー大使と共に,トロムソ市にある北極評議会事務局,同先住民事務局及び北極経済評議会事務局を表敬訪問し,今後の日本との協力について意見交換しました。各事務局からは今後の日本との協力関係発展を期待するとの意見が出されました。

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