平和構築
平成24年度平和構築人材育成事業 本コース修了生
ジャパン・プラットフォーム プログラム・コーディネーター 景山健さんへのインタビュー

インタビュアー:
国際平和協力室インターン 渡邊美月(わたなべみづき)
東京大学公共政策大学院1年
(注)インタビュー実施日は平成27年8月13日
1 大学時代の専門と、平和構築分野に関心を持たれたきっかけを教えてください。
大学では外国語学部に在籍し、英語とフランス語を勉強していました。在学中に、国連難民高等弁務官(UNHCR)の緒方貞子さんのドキュメンタリー番組を拝見し、人の命を救う仕事がしたいと思うようになりました。その後、大学院に進学してMBAを取得(財務専攻)し、これまで、財務の専門性を生かしながら、緊急人道支援に携わってきました。
平和構築分野に関心を持ったのは、南スーダンにおける緊急人道支援の経験からです。特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)の駐在員として、ジョングレイ州で活動していたのですが、同州では民族同士の対立が根深く至る所で武力衝突が起きていました。終わりが見えない争いの中、避難民へのシェルター設営・生活物資の配布・水衛生活動を行っていたのですが、国際機関・各国政府機関・国際NGOが国際社会全体としてどう支援を行っているのか、どのように南スーダンの和平に貢献できるのか、変化していく情勢に合わせてどの様に事業を変えて行くべきなのか、長い和平に結びつけるために何をすべきなのか、調べて行くうちに平和構築に興味を持つようになりました。
2 事業参加前は民間企業と日本のNGOで勤務されていますが、それぞれどのようなお仕事を担当していましたか。
IT系企業の財務部に属し、売掛金の管理、月次業績の管理、監査対応、株主総会の運営・進行など一般的な財務業務を担当しておりました。この時に幅広く財務のオペレーションに携わることができ、その後の南スーダン事務所での事務所運営や事業管理に役立ちました。話は少し逸れてしまうのですが、民間企業での実務経験は、私の基礎となっていることもあり、企業で経験を積まれた方々がこの分野に入ってきて頂けるといいなと思っています。NGOでは、南スーダン共和国ジョングレイ州において、国内避難民キャンプの設営、帰還民のための井戸建設事業などを担当しました。また、事業所の運営管理(労務管理・財務会計・安全管理・ロジスティクスなど)も仕事の一つでした。初めての途上国勤務でしたので、現地の生活に慣れることに苦労しましたが、今では遠隔地に出張に行った際のテント生活もいい思い出です。
3 平和構築人材育成事業に応募した理由を教えてください。
人材育成事業への応募動機は主に二つでした。一つ目は、当時私はビジネスの経験・知識しかなかったので、人道支援・開発支援・平和構築に関する基本的な知識を得たいと思ったからです。平和構築人材育成事業では、紛争の発生から、武装解除(DDR)、緊急支援、開発支援とそれぞれのフェーズごとに、様々な国の事例を用いながら短期間で学習出来るため、とても魅力的でした。
二つ目は、興味がある緊急人道支援の全体像を把握できるためです。私が所属していたPWJは、水・衛生分野のクラスターに属していたのですが、国際社会による支援の中で自分が携わっている事業がどう位置づけられているのか、南スーダンの和平にどの様に貢献することができているのか当時はきちんと理解できていませんでした。各国際機関・政府機関・NGOがそれぞれどの様に連携して支援をしているのか、平和構築人材育成事業を通じて広い視点で捉えることができるようになればと考えていました。
4 本コースの国内研修6週間についての感想を教えてください。また、本コースで学んだ内容について、現在でも活きていると感じるものはありますか。
国内研修の6週間はあっという間に過ぎてしまいましたが、普段はお話を聞くことができない第一線で活躍されている研究者、国際機関職員、NGO、企業の方々から貴重なアドバイスと刺激を頂き、とても有意義な研修期間を過ごすことができました。特に、紛争分析と事例研究では、東ティモールやスリランカ、南スーダンなど実際に携わった方々からのアドバイスを頂きながら議論を深めることができ、紛争の発生から現在に至るまでの経緯を効率よく学習することができました。緊急人道支援の現場に携わることができるのは2~4年ですが、多くの紛争は何十年も続き、時には紛争状態に戻ることもしばしばです。それぞれの事例を通して、実務では経験することができない、和平までのプロセスを学習できる貴重な機会となりました。
現在、私が携わっているイラク・シリア危機は、21世紀最大の複合的人道危機と呼ばれており、緊急支援と開発支援(レジリエンス)を同時並行で行っていくこと、そして難民の発生国と難民を受け入れている周辺国でそれぞれの状況に合わせて支援を行うことが求められています。現職では、国内研修と海外研修が学んだ基礎知識を活かして人道支援事業を審査しており、直接的に活きていると感じております。
5 タジキスタンは日本ではあまり報道に上がらない国ですが、どのような問題があるのでしょうか。また、UNHCRタジキスタンの活動、海外実務研修としてUNHCRタジキスタンで担当した仕事内容について教えてください。
タジキスタン共和国は中央アジアに位置し、アフガニスタンと国境を接している国です。赴任した時には、主にアフガニスタンから約3,300人の難民と約2,000人の庇護希望者を受け入れていました。UNHCRタジキスタン事務所では、この都市難民の保護・支援がオペレーションの中心となっており、その中で私はプログラムを担当していました。パートナーNGOと共に新規のプロジェクトを立案し、パートナーNGOの能力強化として事業計画書・予算書の精査、検証、実施調査、モニタリング、財務・会計指導、能力強化、在庫管理・購買プロセスの改善、監査準備プロセスの改善などを担当していました。上司にも恵まれ、プログラム以外にも幅広く手伝いをさせて頂くことでUNHCRタジキスタン事務所が行っている様々な活動を知ることができました。
また、パートナーNGOと仕事をする際に、前職であるPWJでの経験も役立ったと思います。多くの現地NGOは人員不足が問題になっており、財務会計や内部統制といった分野にきちんと人を割けないところが多いのですが、前職の経験から、専門性を活かしながら積極的にサポートすることができたように思います。
6 現職のNGO団体では、プログラム・コーディネーターとしてどのようなお仕事をされていますか。
現在は特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム(JPF)で、イラク・シリア難民・国内避難民支援プログラムの担当をしています。JPFは、2000年に設立された国際人道支援組織で、NGO、経済界、政府が対等なパートナーシップの下、難民発生時・自然災害時の緊急援助をより効率的かつ迅速におこなうために設立されました。これまで初動活動資金を47加盟NGOに助成してきており、担当しているプログラムでは、シリア周辺国4ヶ国(イラク・トルコ・レバノン・ヨルダン)で活動するJPF加盟NGOの12団体へ助成しております。主な業務内容は事業審査、進捗管理・修正、モニタリングになります。
7 二つのNGOで勤務経験のある景山さんが、日本のNGOに期待されていることは何ですか。
私はまだこの業界に入って4年目で経験も浅いので“期待”というにはおこがましいのですが、JPF加盟NGOの活動は専門性も高く、迅速性も効率性も国際機関にひけを取らないので、それらが対外的に認知されるといいと思っています。これまで、欧米のNGOと比べて日本のNGOはボランティア色が強いと言われてきましたが、現在イラクやヨルダンのオペレーションでは加盟団体が支援クラスターの主担当機関としてリーダーシップを発揮しており、支援活動の中心的な存在となっています。そういったことが日本国内外でも認知されるようになり、国際社会の人道支援を牽引していくようになればいいと思っています。その為にも、加盟NGOが支援を実施しやすい環境を整えていくと同時に、対外的認知を促して行きたいです。
8 景山さんの今後のキャリア・プランについてお聞かせください。
大学時代からあまり変わっておらず、自分の財務・会計に関する専門知識を生かしながら、一人でも多くの人の命を救うために迅速に、効率よく、効果的に緊急人道支援を届けたいと考えており、どの組織・部署に配属されてもそれが続けられればと考えています。
9 平和構築分野でのキャリア構築を志している方々に向けて、アドバイスやメッセージをお願いいたします。

私の専門は財務・会計なのですが、様々なバックグラウンドを持った方が活躍することができる分野です。必ずしも国際関係や国際協力を学んだ人が多いかというとそうでもありません。民間企業同様に管理部門の方々もいます。是非、ビジネスの第一線で活躍されている方々にも入って頂き、一緒に人道支援・平和構築分野を盛り上げて頂きたいと思っています。また、現在大学生の方に向けては、自分の興味分野・専門分野を早いうちに決めること、そして現場の活動がどの様に行われているのか、国や地域に渡航して自分の目でみることをお勧めします。国際機関や政府系の機関で働くにしても、NGOに勤めるにしてもキャリアを構築していくとなると、ある程度の専門性が必要となってくるように思います。自分は、どの分野で何をするのか早い段階で決めて準備をしていくことが大切なのではないかと思います。