人権外交

平成31年2月26日
第40回人権理事会ハイレベルセグメント辻清人外務大臣政務官によるステートメント(仮訳)

副議長,御列席の皆様,

 日本国政府を代表して,人権理事会でステートメントを行う機会を得たことを大変光栄に思います。

 自由,民主主義,基本的人権,法の支配,国際法の尊重といった基本的価値に基づいた国際秩序が様々な方面から挑戦を受けています。こうした国際秩序を守り,維持・強化する上で,国連の役割が重要です。他方,国連にただ任せておけば自動的に目的が達成されるのではなく,国連を効率的かつ効果的に機能させるためには,各国政府や市民社会,その他のアクターの多大な努力が必要です。
 日本政府は,国際社会及び市民社会と連携し,人権理事会を始めとした国際社会における議論をリードし,開発支援や各種制度構築支援等を通じ,すべての人の人権の保護・促進に貢献していきます。

副議長,
 日本は,アジア太平洋地域の人権理事会理事国として,この地域における人権の保護・促進に積極的に取り組んできました。同地域では,経済のめざましい発展に比べ民主化や民主主義の定着に課題も少なくありません。基本的な権利や自由が守られず,人権擁護者が抑圧される等の問題が依然として存在している国もあります。もちろん,どんな国でも程度の差こそあれ問題を抱えており,また,その国なりの改善の道筋や速度がありますが,基本的価値と目指す方向性は共有すべきと考えます。
 国際社会との意味のある関与を拒否し,又は政府・当局が問題に対応できていない場合には,国際社会が様々な形で連携して,時に必要な支援を行い,政策の是正を強く求めていくことが重要です。他方で,真の改善をもたらすためには,どのようなアプローチが最も効果的か,包括的・総合的に検討することが必要不可欠です。

 ミャンマーのラカイン州情勢については,現在の状況に懸念を持っています。ミャンマーが,国連の協力を得ながら,避難民の安全,自発的かつ尊厳のある帰還のための環境を整備することが重要です。そのための様々な課題の克服に向け,日本はミャンマーとバングラデシュ両国による努力を促し,支えていきます。

副議長,
 これまでの北朝鮮人権状況決議は,北朝鮮当局による日本人拉致問題を始めとする北朝鮮の深刻な人権侵害に対し,国際社会が引き続き強い懸念を有していることを示しています。日本は,国際社会と緊密に協力しつつ,北朝鮮が拉致問題の早期解決を含む国際社会との協力に向けた具体的行動を取るよう,引き続き求めていきます。国際社会からの支持を引き続き期待します。

副議長,
 日本は,社会的弱者の権利の保護・促進にも様々な形で積極的に貢献しています。日本は「人間の安全保障」の理念に基づき,SDGsの達成を通じた「誰一人取り残さない」社会を実現するための取組を推進しています。中でも,「次世代と女性のエンパワーメント」は日本の「SDGsモデル」の3本柱のひとつであり,重点的に取組を進めています。
 日本政府が「女性の輝く社会」の国内外での実現に向けた取組みの一環として始めたWAW!は,今年3月23・24日の開催で5回目を迎えます。バチェレ人権高等弁務官やノーベル平和賞受賞者であるマララ・ユスフザイ女史の参加を得て,世界の女性活躍のための更なる推進力となるでしょう。また,紛争下の性的暴力は看過できない問題です。重要なことは,国際社会が今取り組むべきことは,現在起きている紛争下における女性に対する性的暴力をなくし,今後いかにこうした犯罪を防止していくか,ということです。日本は,紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表事務所に対するトップドナーの一つとして,引き続き積極的に取り組んでいきます。
 児童の保護の分野では,日本は「児童に対する暴力撲滅グローバル・パートナーシップ」のパスファインディング国として,関連の基金への資金拠出を始め,精力的に取り組んでいます。国際的な取組だけではありません。国内では,政府によるこれまでの取組の一方で,深刻な児童虐待が存在しており,中には不幸にも児童の死を伴う事例も見られます。児童虐待を深刻な課題として認識し,総理自らが指導力を発揮し,児童虐待の根絶に向けて迅速に取り組んでいるところです。
 また,来年に控える東京2020オリンピック・パラリンピック大会に向け,障害者の権利の保護・促進にも力を入れていきます。
 日本は今年,国内の先住民族であるアイヌの権利の保護・促進を一層進めるための新たな施策を打ち出します。
 また,日本はアジアで最初の第三国定住難民の受入れ国ですが,現在,この受入れ人数を更に拡大するために検討を進めています。

副議長,
 韓国の代表が慰安婦問題に言及したので,ここで一言触れざるを得ません。
 日本政府は長きに亘って慰安婦問題に真摯に対応してきました。2015年12月には,日韓両国による多大な外交努力の末,慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的」な解決を確認するとともに,国連等国際社会において互いに非難・批判することを控えることを確認しました。合意に基づき,日本政府は,翌2016年,韓国政府が設立した「和解・癒やし財団」に対し10億円(約900万米ドル)の支出を行う等,日本側は合意で約束したことを全て誠実に実施しています。合意時点で生存していた元慰安婦47名のうち34名に対し,また死亡者199名のうち58名の遺族に対し資金を支給しており,多くの元慰安婦の方々からも評価を得ています。
 そうした中,昨年に韓国政府が発表した「和解・癒やし財団」の解散の方針は,日韓合意に照らして問題であり,日本として到底受け入れられるものではありません。日韓両国で約束し,潘基文国連事務総長(当時)を始め,国際社会も評価している日韓合意が着実に実施されることが重要です。
 なお,慰安婦問題については,国連を始め国際社会で一部不正確な理解が広まっており,客観的な事実関係に基づくことが重要であることを改めて認識いただきたく思います。

副議長,
 人権理事会で議論される人権課題は増加の一途を辿っています。来年には人権条約体のレビュー,2021年からは人権理事会のレビューが行われます。特別手続制度や国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)を含めたこれらの国際的な人権メカニズムを包括的に見直し,限られたリソースの中で,より効率的・効果的に人権の保護・促進の機能を果たしていくことが求められています。日本は,8つの主要な人権条約の締結国です。過去6か月間で3つの条約体による政府報告審査を受けており,条約を真摯に履行しています。こうした自らの経験を踏まえ,各国の意見によく耳を傾け緊密に協力しながら,国際的な人権メカニズムの改革に向けた議論を積極的に進めていきます。
 日本は本年10月頃に行われる人権理事会理事国選挙に立候補しており,皆様からのご支持をお願いいたします。

副議長,
 この機会に,パリ講和会議において,日本も積極的に参加する形で,国際社会が人種差別の問題に立ち向かう最初の取組が始まってから,本年が100周年であることを想起したいと思います。加えて,昨年70周年を迎えた世界人権宣言,明年国連が創設75周年を迎えることを改めて想起し,日本は,「人間の安全保障」の考え方に基づき,現在,そして未来における人権の保護・促進に国内外で引き続き貢献していく決意です。

 ご清聴ありがとうございました。

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