人権外交

令和3年3月30日
  1. 昨年9月28日付けで、国連の恣意的拘禁作業部会(以下「作業部会」という。)から、我が国において退去強制令書が発付された外国人2名に対してとられた措置が、恣意的拘禁に当たる旨の意見書が日本政府に送付され、その後、同意見書が公表された。
    作業部会の意見は、法的拘束力を有するものではないが、関係省庁で精査したところ、その内容は我が国の出入国在留管理制度を正しく理解せず、明らかな事実誤認に基づくものであり、国際的にも国内的にも我が国の法制度及び運用に対する誤解を生じさせるとともに、不当な評価をも惹起させるおそれがあるものである。
  2. そのため、日本政府は、本年3月27日(土曜日)(現地時間3月26日(金曜日))、作業部会に対し、同意見に対する異議を申し立てるとともに、詳細な事実関係に関する情報提供を行い、それに基づく我が国の立場を伝えた。
  3. 我が国の出入国在留管理行政における収容は、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)の定める適正な手続を遵守して適切に行われており、我が国が締結する人権諸条約に抵触するものではなく、恣意的拘禁に当たらないことを改めて強調する。
  • (1)入管法では、主任審査官が発付する収容令書又は退去強制令書に基づいて収容することができる旨を規定する一方、主任審査官は、収容されている者の情状及び仮放免の請求の理由となる証拠並びにその者の性格等を考慮して、請求又は職権により仮放免することができる旨を規定している。
    そして、実務においては、個別の事情に基づき、逃亡、証拠隠滅及び不法就労活動のおそれ等を考慮し、収容の必要性が認められない者については、退去強制手続の当初から仮放免を許可し、実際に収容することなく手続を進めている。
  • (2)また、収容又は仮放免の許否に対して不服のある者は、いつでも、不服申立ての手段として、裁判所に行政訴訟を提起することができ、かつ、収容が退去強制令書の発付による場合には、同令書の発付処分そのものを争う行政訴訟を提起し、その際、裁判所に収容の停止を求める申立てをすることができる上、仮放免を義務付ける訴訟を別途提起することもでき、司法による審査又は救済の機会が保障されている。
  • (3)さらに、収容された者は、前記のとおり、いつでも、主任審査官に仮放免を請求することができ、行政上の救済措置も保障されている。
  1. 以下のとおり、作業部会の見解は、明らかな事実誤認に基づく。
  • (1)作業部会は、当該外国人2名に対する収容は、個別の事情を評価していない旨の意見を表明しているが、両名の収容は、以下の個別の事情を適切に評価し、仮放免の判断を慎重に行うべき事情があるとして、その収容の要否が判断されたものである。
    • 外国人Xについて、在宅での違反調査開始後の所在不明歴、以前の仮放免時における条件の遵守状況等、収容中の言動
    • 外国人Yについて、以前の仮放免時における犯罪歴、収容中の言動
      また、両名は、収容中拒食を繰り返し、両名について、健康状態に配慮した仮放免と健康状態の回復による再収容等が行われた。
  • (2)作業部会は、両名が行政上又は司法上の審査・救済の機会なく収容されていた旨の意見を表明しているが、両名は、いずれも、仮放免の延長を義務付ける等の行政訴訟を提起しており、司法上の審査・救済の機会が提供されており、また、両名とも、仮放免を請求して許可されたことがあり、行政上の審査・救済の機会も提供されていた。
  • (3)作業部会は、両名の収容が正当な庇護申請の権利行使に対する制裁及び差別的な対応であったとの意見を表明しているが、両名の収容は、前記のとおり、仮放免が相当ではないことを考慮して行われたもので、難民認定申請を理由とする制裁でも差別的な対応でもない。
    実際に、両名については、いずれも、難民認定申請に伴って当面送還が行われない状態となったことを考慮した仮放免もなされていた。
    両名は、複数回難民認定申請を行っているため、退去強制手続開始以降、法律上送還されない状態が続き、両名が被退去強制者である期間が長期化しているものである。
  1. 以上のとおり、作業部会の意見は、我が国の法制度及び運用に対する明らかな事実誤認に基づくものであって到底受け入れることはできない。
    我が国は、現在、入管法による外国人の受入れを推進しつつ、日本人と外国人が互いを尊重し、ルールを守りながら共生する社会の実現を目指す取組を進めている。
    ルールに基づく共生の観点からは、庇護を要する難民等を迅速・適切に保護する取組を一層強化していく必要がある一方、法令に違反し、適正な手続を経て退去強制処分が決せられた外国人は、国家の権能として、速やかに送還すべきものである。
    我が国は、このような考えに基づき、これまでも入管法等において適正な手続を定め、適切な運用を行うことに努めてきたところであり、引き続き、外国人との共生社会の実現に向けて、不断に取組を進めていく。
[参考]恣意的拘禁作業部会
恣意的拘禁作業部会は、国連人権理事会の決議に基づき設置された、恣意的拘禁の事例に関する調査を任務とする専門家グループ。個別事案について恣意的拘禁に該当するかの判断を行い、恣意的拘禁に該当すると判断した場合には、意見書を採択し、公表する。恣意的拘禁作業部会の見解は、国連又はその機関である人権理事会としての見解ではなく、また、我が国に対して、法的拘束力を有するものではない。

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