人権外交

令和3年5月19日
  1. 2020年11月23日付け報道発表のとおり、恣意的拘禁作業部会(以下「作業部会」という。)が公表した、我が国においてカルロス・ゴーン被告人(以下「ゴーン被告人」という。)に対して採られた措置が「恣意的拘禁」に当たる旨の意見は、我が国として、受け入れられるものではなく、11月20日、作業部会に対し、異議の申立てを行ったところ。 その上で、更に精査を行ったところ、同意見は、明らかな事実誤認が多く含まれており、その内容は、我が国の刑事司法制度に対する誤解を抱かせるものであったため、日本政府は、本年5月18日、作業部会に対し、当該事実誤認を具体的に指摘するとともに、それに基づく我が国の立場を伝えた。
  2. 事実誤認が認められる点は、主に下記のとおりである。
  • (1)ゴーン被告人が裁判官の面前に連れて行かれることなく、逮捕に引き続いて22日間、10日間、19日間及び21日間拘禁されたとする点
     ゴーン被告人に対する4回の拘束のいずれにおいても、ゴーン被告人は、我が国の法律の規定に従って行われた手続において、勾留の請求を受けた裁判官の面前に速やかに連れて行かれ、裁判官に対し被疑事件に関して陳述する機会が与えられた。
  • (2)ゴーン被告人の拘禁について、裁判所に不服を申し入れる機会を与えることを遅延したとする点
     我が国の法律上、勾留に関する裁判に対して、いつでも不服を申し立てたり、その取消しを求めたりすることができるところ、ゴーン被告人は、実際に、勾留の裁判と同じ日に不服を申し立てるなどした。
  • (3)ゴーン被告人の逮捕の繰り返しは手続濫用であり、2度目及び3度目の逮捕は、警察拘禁(police custody)の期間制限を回避するために行われたものであって、2度目及び3度目の逮捕に引き続く警察拘禁の適法性については重大な疑いがあるとする点
     ゴーン被告人に対する4回の逮捕・勾留は、それぞれ異なる犯罪事実に関し、我が国の法律に基づいた厳格な司法審査を経てなされたものである。
     すなわち、捜査機関から独立した裁判官は、ゴーン被告人が4回にわたって逮捕・勾留されたいずれの機会においても、犯行時期や犯罪の内容が異なる別個の犯罪事実について、逮捕・勾留の各要件の存否や、不当な逮捕・勾留の蒸し返しでないことを慎重に審査し、これらが存在すると認め、逮捕状及び勾留状を発付したものである。
     したがって、いずれの逮捕・勾留も、その期間制限を回避するためになされたものではないことはもとより、濫用には当たらず、適法性に何らの疑いも存しない。
     なお、ゴーン被告人の勾留場所は、いずれも捜査機関から独立した刑事施設である東京拘置所であり、「警察拘禁(police custody)」との指摘が警察における勾留を意味するのであれば、それは事実誤認である。
  • (4)ゴーン被告人を4度にわたって逮捕・拘禁した手続は、弁護人と自由に交通することを含め、公正な裁判を受ける権利をないがしろにする点で、根本的に不公正なものであるとする点
     我が国の法律上、逮捕・勾留されている被疑者には、立会人なしに弁護人と接見する権利が保障されているところ、ゴーン被告人は、身体拘束中、拘置所の体制により物理的に接見できない正月(1月1日のみ)・日曜日を除き、ほぼ毎日、拘置所職員、捜査機関職員といった立会人がいない状態で弁護人と接見をしており、同一の又は異なる弁護人が1日に複数回接見することも頻繁にあった。なお、東京拘置所において、接見時間を制限した事実はない。
  • (5)ゴーン被告人は、運動の剥奪、常時照明、暖房の欠如など、自らを効果的に弁護する能力を損なう状態で拘禁されていたとする点
     被収容者には、平日に、できる限り戸外で、1日に30分以上、かつできる限り長時間、運動の機会を与えている。特に、東京拘置所においては、当該戸外での運動に加え、休日も含む毎日、1日2回(各15分)、居室内で体操をすることができる時間を設けていた。
     また、常時照明との指摘は、常時照明を照らすことで睡眠を妨げているとの誤解を招く表現である。就寝時間帯には、職員が居室内の様子を把握できる程度の明るさの常夜灯を使用しているに過ぎない。
     さらに、東京拘置所においては、全居室棟に全館空調による暖房設備が整備されている。
  • (6)ゴーン被告人が供述調書を提供することを効果的に強制される状況下で拘禁されたとする点
     我が国の憲法及び法律においては、自己に不利益な供述を強要されず、被疑者の取調べに際しては、あらかじめ黙秘権を告げることなどが保障されており、ゴーン被告人についても、検察官の取調べの際に黙秘権が告知された。
     ゴーン被告人の取調べの様子は、全ての取調べについて、その開始から終了までの間、全て録音録画されている。取調べにおいて、ゴーン被告人が犯罪事実を否認したり、検察官に反論したり、黙秘したりするなどしており、したがって、ゴーン被告人が自由に供述していたことは明白である。
     加えて、前記のとおり、ゴーン被告人は、ほぼ毎日、立会人なしに弁護人と接見することができていた。以上を踏まえれば、供述調書の作成が強制されるような状況になかったことは明らかである。
  1. 以上のとおり、作業部会の意見には、明らかな事実誤認に基づく記載が多数認められ、ゴーン被告人に対する我が国の措置は「恣意的拘禁」に該当しないことを改めて指摘したい。
     我が国としては、引き続き、我が国の刑事司法制度について、国際社会からの正確な理解が得られるよう、分かりやすく説明していくとともに、これを適切に運用していく所存である。
[参考]恣意的拘禁作業部会
 恣意的拘禁作業部会は、国連人権理事会の決議に基づき設置された、恣意的拘禁の事例に関する調査を任務とする専門家グループ。個別事案について恣意的拘禁に該当するかの判断を行い、恣意的拘禁に該当すると判断した場合には、意見書を採択し、公表する。恣意的拘禁作業部会の見解は、国連又はその機関である人権理事会としての見解ではなく、また、我が国に対して、法的拘束力を有するものではない。

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