寄稿・インタビュー
岩屋外務大臣のハンデルスブラット紙(ドイツ)(15日付、電子版)への書面インタビュー
アジア:インド太平洋がトランプ外交の真の中核/
今後数十年の主な対決はこの地域で展開、
日本の岩屋外務大臣はドイツが関与を強めるよう訴える
ニコル・バスティアン外信部長、マーティン・ケリング在京特派員
2025年2月15日 11時15分
グリーンランド、ガザ、ウクライナ…、トランプ大統領は、外交政策の中核であるインド太平洋よりも、これらの国・地域について多くを語っている。本来、米大統領は、インド太平洋地域に集中するために、欧州が今までよりも主体的に欧州地域の防衛に力を入れるよう早急に仕向けたいと考えている。ヴァンス米副大統領は、ミュンヘン安全保障会議での演説で、このことを改めて強調した。
米政府にとってインド太平洋地域がいかに重要であるかは、ルビオ国務長官が1月の就任決定後、まず初めに日印豪の外務大臣と会談した事実が示している。この4か国はクアッドの枠組みを構成し、GDPを合わせると世界の約3分の1を占め、インド太平洋地域における中国への対抗軸であることを自負している。
日本の岩屋毅外相は、G7外相会合とルビオ国務長官、韓国外相との日米韓会談のためにミュンヘンを訪れており、「自由で開かれたインド太平洋」を訴えている。これは、武力による国境変更の試みや、公式に国際水域を自国の水域であると主張する国のない地域を意味する表現である。
独軍艦のインド太平洋派遣
岩屋外相は本紙インタビューに対し、「日米同盟を基軸に、同盟国・同志国との連携により」インド太平洋のビジョン実現に向け取り組んでいると答えた。岩屋外相によれば、こうした国々にはドイツも含まれ、ドイツとはインド太平洋地域での協力を拡大したいと考えている。
すでに複数の国がインド太平洋に軍艦を派遣している。今週初め、米国の軍艦2隻が台湾海峡を航行し、台湾を中華人民共和国の一部とみなす中国指導部は激しく批判した。ドイツの軍艦や戦闘機も何度かこの地域に派遣されている。「日本は、ドイツのインド太平洋への関与強化の取組を高く評価している」と岩屋外相は賞賛した。日本とドイツは、自衛隊と独連邦軍との間で物品・役務の相互提供に関する協定も締結している。
日本は、欧州とウクライナを支援し、NATOと連携することで、欧州諸国がアジアへの関与を強めることを望んでいる。北朝鮮とロシアに加えて、この地域では中国の拡張主義的傾向が中心的な役割を果たしている。中国は台湾や日本が施政権を持つ島々だけでなく、国際法に違反して南シナ海全体の領有権を主張している。
中国との「多くの未解決の問題」
日中の間には「多くの課題や懸案が存在している」と岩屋外相は説明した。その中には、尖閣諸島を含む東シナ海および南シナ海の現状を力によって変更しようとする中国の試みや、「日本周辺での一連の軍事活動」も含まれる。米国も日本政府の懸念を共有しているという。
それでも、日本は中国と協力していきたいと考えている。日本と中国は「地域と世界の平和と繁栄に対して大きな責任」を負っているという。
特に今、状況は爆発寸前である。中国とフィリピンは現在、礁をめぐって公然と対立している。日本は「第二次世界大戦後、最も厳しく複雑な安全保障環境」に直面していると同外相は状況を説明した。それに対する反応の一つは、自国の防衛力強化である。新たな国家安全保障戦略によると、日本の防衛費は2027年度において国内総生産(GDP)の2%にまで増加する予定である。台湾の頼清徳総統は14日、防衛費を経済生産高の3%にまで増やしたいと述べた。
トランプ大統領はNATOに対し繰り返し疑問を呈している一方で、アジアにおける米国の同盟関係にはコミットしている。これはルビオ国務長官が早期にクアッド会合に出席したことによって示されているだけではない。先週、石破茂総理が訪米しトランプ大統領と会談した際にも、両国は「日米同盟の抑止力と対処力を高めていく」ことで合意したと、岩屋外相は説明した。共同声明では、両者は台湾の国際機関への加盟に尽力することにさえ合意した。これは、台湾を自国の一部とみなす中国政府にとっては侮辱である。
ウクライナとインド太平洋の関連
ウクライナ戦争とインド太平洋における対抗は、相互支援においてのみ関連しているわけではない。「露朝軍事協力が進展するなど、欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障がますます不可分になっている」と岩屋外相は述べる。
北朝鮮はロシアと正式な防衛同盟を結び、弾薬だけでなく兵士も供給している。その見返りとして、ロシアはエネルギー、ミサイル技術、その他の軍事技術、そして恐らくは軍需品を北朝鮮に供給しており、韓国と日本が感じている脅威を煽っている。
ウクライナ戦争がどのような形で終結するかも、インド太平洋地域の情勢に影響を与えることになる。14日にミュンヘン安全保障会議において、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、ウクライナが崩れればインド太平洋地域の緊張が高まるだろうと警告した。世界の権威主義国家は、ウクライナ戦争が侵略者であるプーチン大統領にとってどれほど有利な結果となるか、注意深く見守っている。この見解は、多くの安全保障専門家によっても共有されている。
ウクライナに対して押し付けられた平和は、インド太平洋における日本の政策を複雑化させる可能性があると、日中関係と中国の海洋戦略の専門家である、九州大学の益尾知佐子教授は警告する。「日本がますます外交政策において矛盾に陥るのではないかと懸念している」という。日本は米国を支持し続けなければならないし、中国に対抗するためにインド太平洋における米国のプレゼンスを必要としているものの、「特にウクライナやガザ地区に関しては、米国の世界戦略を完全に支持することはできない」ので、日本は、より安定した世界的ネットワークを得るために、欧州のパートナー諸国との連携を強化しなければならないと益尾教授は言う。