日本企業支援
在外公館・日本企業支援担当官の手記(在イタリア大使館)


在イタリア大使館
一等書記官 山﨑 雅生
イタリアと聞いて、何を想像するでしょうか? パスタに代表されるイタリア料理、コロッセオなどの古代ローマの遺跡、ミケランジェロの芸術作品、高級ブランドのファッション、最近では本田圭佑選手の移籍で話題のサッカーなど様々なものが思い浮かぶはずです。また、ちょっと前には欧州経済危機の発生源の一つとして、ギリシア、スペインと並んで、その深刻な経済財政状況が日々ニュースで取り上げられていたことも記憶に新しいのではないでしょうか。
日本とイタリア、一見すると文化から国民気質まで何から何まで全く異なった両国のように見受けられますが、実は多くの共通点があります。それは、海に囲まれた地理的特徴、オペラや歌舞伎のような歴史に裏付けられた伝統文化、伝統を受け継ぐ職人が生み出す革新的な技術と高い品質、新鮮な素材をいかした食文化などです。また、多くの日本人がイタリアに観光に行ったり、イタリア料理やイタリアのファッションを好むように、イタリアでも日本食や日本のマンガは大人気で、日本への観光客も急増しています。このように、日本とイタリアは、距離的に遠く離れていますが、お互いに惹かれあう「遠距離恋愛」のような関係だと言えるでしょう。
在イタリア日本大使館では、日本の伝統文化と併せて、日本食や日本酒、日本の製品をPRすることで日本企業支援につなげるべく、様々なイベントを実施してきています。そのいくつかをご紹介させていただきます。
1.「チルコロ・デッラ・カッチャ」での日本食・日本酒の紹介
チルコロ・デッラ・カッチャ(Circolo della Caccia、イタリア語で「狩猟クラブ」)は、旧貴族のみが加盟を許される世界で最も歴史ある会員制紳士倶楽部の一つです。イタリア社会に隠然たる影響力を有する「文化の権威」ともいうべき存在で、2012年10月に、この倶楽部において大使公邸料理人による日本食と新潟の蔵元8社から提供された日本酒を振る舞うイベントを実施しました。チルコロ・デッラ・カッチャの歴史において、初めてフランス料理以外の外国料理が提供される、しかもそれが日本食というということで、100席以上用意した席は、イタリアの政財界の要人を含む出席者で即座に満席となり、多くの賞賛を頂きました。イタリア政財界での日本食と日本酒の認知度の向上はもちろんのこと、日本の食材や日本酒のイタリアでの普及のための強力な応援団になって頂きました。
2.「ガンベロ・ロッソ」での日本食・日本酒の紹介
レストランガイドといえば日本ではフランスのミシュランが有名ですが、イタリアでは「ガンベロ・ロッソ」(Gambero Rossoイタリア語で「赤い海老」)社の評価が最も権威があり、ミシュランの「星」よりもガンベロ・ロッソの「フォーク」の数(評価の基準)の方が重要視されています。2012年10月、ガンベロ・ロッソ本社のオープンキッチンを備えたホールにおいて、日本酒造青年協議会が任命する「酒サムライ」がイタリア料理に合わせて日本酒を振る舞うイベントを実施しました。イタリアで初めての本格的な日本酒紹介の機会、しかもそれがガンベロ・ロッソでの開催とあって、イタリアの主要メディアはもちろんのこと、名だたる料理評論家、有名レストランのオーナー、ソムリエなどが参加し、日本酒がイタリア料理とも最高のマリアージュを生み出すことを実感してもらいました。報道や有力者の口コミを通じ、イベントのあと、日本酒の市場開拓の検討を始めた事業者も出てきています。
3.「Japan After Dark」
現代アートの巨匠杉本博司氏がプロデュースし、人間国宝の鶴澤清治氏が作曲した「杉本文楽 曾根崎心中」のローマ公演に先駆けて、2013年10月、日本大使公邸において「杉本文楽」、1998年より日本人として唯一ミラノコレクションに参加している荻野いづみ氏の「アンテプリマ」、大使公邸料理人による日本食のコラボレーションという、伝統と現代の粋を集めたイベントを実施しました。大使公邸の庭にキャットウォークを設置し、アンテプリマのこれまでの代表的な作品と最新コレクションを身にまとった13名のモデルの登場から始まり、公邸の庭を借景に、曽根崎心中のクライマックスシーンが演じられました。また、ショーに先立ち、公邸料理人が腕をふるった上質な小皿料理が提供されました、ショーの最後のカーテンコールでは、杉本博司氏、鶴澤清治氏、荻野いづみ氏、平野公邸料理人ほか、それぞれのショーの出演者が一同に勢揃いし、参加されたイタリアの閣僚、元首相を含むイタリア政界の要人、文化人、経済人等から拍手喝采を頂きました。
このほかにも、在イタリア日本大使館では、イタリアで開催される様々な文化イベントや観光展覧会、大使館主催レセプションなどにおいて、日本の文化や観光PRとあわせて、日本食や日本酒をPRすることにより、直接的・間接的に日本企業を支援してきました。今後も、様々なコラボレーションイベントを企画し、日本食や日本酒のPRはもちろんのこと、日本企業のコンテンツや製品、技術などをイタリアで紹介して参りたいと思っております。