原子力の平和的利用

平成28年4月1日
2014年のハーグでの核セキュリティ・サミット以来,以下の取組によって,日本は核セキュリティの実施を強化し,世界の核セキュリティの枠組みの強化に貢献してきた。

核物質及び他の放射性物質のセキュリティ強化

国際核物質防護諮問サービス(IPPAS)ミッション受入れ

2015年2月,我が国はIPPASミッションを受け入れた。同ミッションのレビュー結果は、我が国の核セキュリティ体制の改善に非常に有益なものとなる。ミッションから示された勧告事項や助言事項は十分に精査・検討され、現在,その対応に向けて取り組んでいる。

コンピューター・セキュリティ対策の強化

原子力規制委員会は,核セキュリティの実施強化策としてコンピューター・セキュリティに関する規制業務を行っており,核セキュリティ検査の一環として,従来から行っているコンピューター・セキュリティの検査に加えて,2013年から更に強化された検査を行っている。今後もコンピュータ-・セキュリティの対応能力の向上を図る。

個人の信頼性確認制度確立への取組

2012年核セキュリティ・サミットにおいて,我が国は個人の信頼性確認制度の導入について検討を進める旨表明した。2015年10月,原子力規制委員会では,同委員会の下に設置された有識者会合である核セキュリティ検討会の報告書を基に,新たな制度を構築することを決定した。現在,具体的な規制について,同委員会で検討中であり,近々の制度発足に向けて取り組んでいる。

核セキュリティ文化の醸成

2014年核セキュリティ・サミットにおいて、我が国は核セキュリティ文化の醸成にコミットしている旨表明した。2015年1月には、原子力規制委員会が核セキュリティ文化に関する行動指針を策定し、5つの行動原則を示した。また、原子力規制委員会委員による事業者の最高経営責任者を対象とした核セキュリティ文化に関する啓蒙や個別面談の実施、原子力規制庁による事業者向けの啓蒙ビデオや核セキュリティ文化醸成のための標語集の作成を通じて、我が国全体における核セキュリティ文化の向上のための取組を行っている。

放射性同位元素のセキュリティ強化

我が国では,国内関係法令に基づき,放射性同位元素に係る核セキュリティについて,輸出確認証の交付制度の整備(2005年12月),放射線源登録制度の整備(2011年1月)等を行ってきている。現在はIAEA指針に基づく更なるセキュリティ強化について,原子力規制委員会の下に設置された有識者会合である核セキュリティ検討会において,当面優先する検討課題の1つとして,具体的な検討を進めており,近々報告書が発出される見込みである。原子力規制委員会は,同報告書に基づいて新たな制度を構築することとしている。

国内の輸送セキュリティ強化

核セキュリティに関する検討会の報告を基に,原子力規制委員会及び国土交通省は,INFCIRC/225/Rev.5の輸送分野の国内取入れを順次行っている。

核物質及び他の放射性物質の最小化

FCA燃料撤去の実施

2014年核セキュリティ・サミットにおいて発出された日米首脳共同声明及び2015年日米首脳会談において発出されたファクトシートに基づき,今般,日本原子力研究開発機構(JAEA)の高速炉臨界実験装置(FCA)にある全ての高濃縮ウラン燃料及びプルトニウム燃料を撤去した。

京都大学臨界集合体実験装置(KUCA)の低濃縮化

2016年核セキュリティ・サミットにおいて,日米両国は,KUCAを高濃縮ウラン燃料から低濃縮ウラン燃料に転換し、高濃縮ウラン燃料を全量撤去する取組を共同で実施することを発表した。

プルトニウム管理政策

日本は,これまで,NPTを遵守しIAEAの保障措置を受け入れ,我が国における平和的原子力活動に軍事転用がないとの保証を得つつ,全ての原子力活動を行っている。その上で,特にプルトニウムに関しては,その利用の透明性の向上を図ることにより国内外の理解を得ることが重要であるとの認識に基づき,我が国独自の自発的な措置として,1994年から国際的な指針よりも詳細な情報を公表し,核物質の透明性を国際社会にも明らかな形で適切に確保し,適正な管理を行っている。
原子力発電所の再稼働については、プルサーマルを行う予定としている原発を含め、「原子力規制委員会の専門的な判断に委ね、原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると判断した原発のみ、その判断を尊重し、地元理解を得ながら再稼働を進める」というのが政府の一貫した方針である。このように,日本は「利用目的のないプルトニウムは持たない」との原則を引き続き堅持し,この政策を具体化すべく,プルトニウムの回収と利用のバランスを十分に考慮しつつ、プルトニウムを着実に利用する。

核テロ対策

拡散に対する安全保障構想(PSI)への積極的参加

我が国は,これまでPSIに積極的に参加してきており,オペレーション専門家会合の出席や共同訓練への参加を行ってきている。直近では、昨年11月にニュージーランドで行われた机上訓練「MARU2015」においてファシリテーターを務めた。また,アジア太平洋ローテーション訓練の一環として,我が国は2018年に訓練をホストする予定である。

核セキュリティ関連技術(核鑑識,核検知等)開発の推進

2010年核セキュリティ・サミットにおいて,我が国は核物質の測定、検知及び核鑑識に係る研究開発を実施する旨表明し,以来,米国や欧州連合の協力を得て,これらの研究開発を推進してきた。JAEAは,基本的な核鑑識分析技術を開発し,国際協力によりプロトタイプ核鑑識ライブラリを開発した。今後も,米国や欧州連合と協力しながら、核鑑識分野の研究,核検知技術に関する研究を引き続き推進していく。

核セキュリティ訓練の実施(施設,輸送)

2014年核セキュリティ・サミット以来,全ての防護対象施設で設計基礎脅威(DBT)等の脅威シナリオに基づいた実動訓練を実施した。これらの訓練を通じて,各施設における核セキュリティ事案対処能力の維持向上が図られた。また,2014年からは,原子力施設の制御系システムに対する、あるいは物的攻撃との組み合わせを含むサイバー攻撃に対する実動訓練を実施した。今後は実動訓練の対象施設を拡大するとともに訓練の内容の充実を図っていく。さらに,2015年から2016年にかけて輸送中の核物質のセキュリティ向上を主眼とした机上訓練及び実動訓練をそれぞれ2回ずつ実施した。

伊勢志摩サミット,東京五輪に向けた国内の対テロ体制強化

本年5月に「伊勢志摩サミット」,2020年に「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会」を開催予定であり,テロリスト等が核物質及びその他の放射性物質を入手することを妨げるべく,関係省庁間の役割の明確化及び連絡体制の強化,共同訓練の実施を通じた能力強化など,核セキュリティ強化のための取組を継続している。

多国間条約,勧告文書等の支援

改正核物質防護条約(CPPNM)の締結

2014年6月,我が国は核物質防護条約改正を締結した。

輸送セキュリティ・ギフト・バスケットにおけるグッド・プラクティス指針の作成

我が国が主導している輸送セキュリティ・ギフト・バスケットにおいて,陸上,海上,鉄道,航空の4つの輸送モードに対応するグッド・プラクティス指針を作成した。今後はこれらのグッド・プラクティス指針をIAEAやGICNT(核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ)を通じて広く各国と共有し,今後の活動に役立てていく。

国際的規範の国内取入れに向けたアウトリーチ

我が国は,アジア諸国を対象に我が国が毎年開催しているアジア不拡散協議(ASTOP)等の場を通じて,核テロ防止条約,核物質防護条約,核物質防護条約改正の締結を奨励している。また,IAEAの各種勧告文書の取入れについても各国に奨励している。こういった活動を引き続き行い,核セキュリティに関する国際的規範の普遍化に取り組んでいく。

国際機関との協力

IAEAとの連携強化

IAEAの核セキュリティ基金に,前回サミット以降で約90万ユーロを拠出した。この中には,コスト・フリー・エキスパートの派遣費用に係る経費も含まれる。また,我が国はIAEAにおける核セキュリティ・シリーズ文書作成やIPPASミッション等のためIAEAが必要とする専門家を随時派遣してきており,今後もこの取組を継続する。

1540委員会とGPとの連携強化

1540委員会は,国連加盟国からの要請に基づき,支援のマッチメイキングを行っている。この点,同様にCBRNセキュリティ強化プロジェクトのマッチメイキングを行っているグローバル・パートナーシップ(GP)との連携は,効率化等の観点から極めて有益であり,2016年GP議長国である我が国としては,この連携を推進している。また,現在,1540委員会は,安保理決議第1977号に基づき,2016年に決議の履行状況に係る包括的レビューを行っているところ,安保理非常任理事国である我が国としても,決議の履行の向上に向け,同レビュープロセスに積極的に貢献していく。

GICNTとの連携強化

我が国はこれまで開催された全ての次官級会合に参加し,積極的に議論に参加しており,例えば,核鑑識等の技術研究分野で議論をリードしたり,福島第一原子力発電所事故で得られた教訓を共有したりしている。今後は輸送セキュリティ・ギフト・バスケットで作成したグッド・プラクティス指針を用いて,輸送分野での更なる貢献を検討する。

対外ステークホルダーとの連携

核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN)の人材育成

2010年12月にJAEAの下に立ち上げた、アジア初の拠点である核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN)においては、これまでの5年間に約2700人以上が研修に参加した。JAEAはIAEAとの間で2013年に作成されたプラクティカル・アレンジメントに基づき協力を進めている。今後も、コンピューター・セキュリティ等、新たな課題に関する研修コースも充実させ、年間約500名規模の人材育成・能力構築支援を引き続き行っていく。

日中韓のCOE(核セキュリティ強化のためのセンター)間の協力

2015年11月の日中韓サミットにおいて発出された共同宣言に基づき,日中韓のCOE間で協力を深化するための協議を実施中。このような有益な地域協力は他の地域でも推進されるべきであり,東アジアでの経験に基づく他地域への支援を継続していく。

GP議長国としての取組

2016年は我が国がGP議長国であり,核・放射線セキュリティ・サブ作業グループ(NRSWG)の議長国でもある。2016年核セキュリティ・サミットにおいて採択されたGPアクション・プランの実施に議長国として取り組んでいく。

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